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短編小説 #9 夢の回廊 I 夢の回廊(終)

そこは3つの扉が並んでいた
長い冒険が終わり、僕は小さな空間へ戻ってきた

そこに一人のクピドが待っていた
僕を4つの星まで導いたクピドだった
「おめでとう。あなたのお陰でバラバラだった世界が統一されました」
「あなたが統一させたこの世界には懐かしみを感じましたか?」
クピドは唐突質問してきた
僕は思った。というか、少しづつ感づいてはいた

この世界には初めて来ていると感じているが、そうでもない部分もある
トラは初めから僕に親しみを表してくれて致し、僕自身も昔から出会っていたかの様に思っていた

僕の思考を読み取っているのか、クピドが言った
「この世界は、あなたの内面性そのものです。」
「あなたは、長い年月をかけて少しずつ、あなた自身の内面性をバラバラにして来たのです。それが、この世界の形でした」
「しかし、それもこれで終わり。あなたは来るところまで来たのです」
「そして、あなたは今自らの力でそれを統一しました」

どういう事だかと思ったが、一筋の光と共に僕の記憶が脳裏を走り始めていた
それは、こんこんと湧き出る湧き水の様に僕の頭の中を満たしていった

その湧き出る記憶を走らせながら、僕はクピドに聞いた
「あなたは?」
「私はあなたの世界に住む魂のひとつです」クピドが答えた
「そして、あなたが生きている間、それを見守るものです」
クピドは続けた
「人は生きている間、レッスンを積んでいきます。色々な経験や試練を乗り越えます。それは恋愛であったり仕事であったり、成功や挫折を味わう事であったり、人によって様々です」

僕はザセツという言葉に強く響いた。頭が響むような衝撃だ
思い出した。僕は人生で今までにない挫折を体験したんだ。その結果立ち直れず、悔やみ続け、身体をも蝕み、そして意識を失っていたのだ
「普段、私たちは人の人生を静観しているだけなのです。けれど稀に今回の様にサポートする場合もあるんです。つまり、あなたの人生はあなただけのものでは無いという事です」
「人の人生は複雑に絡み合っています。別の人の人生を左右させたり、私たちのような魂だけの存在にも影響を及ぼします。なので、今回は“夢”という形であなたの人生に仲介させて貰いました」

そうか、僕が体験したのは僕が作り出した世界だった。その事をクピドは言っているのだ
すると幼少期の頃の記憶が浮かび上がった
あのトラは、小さい頃大事にしていたぬいぐるみだった。王女となった少女は実家の飾ってあったコケシだ。この世界にあるものは僕が人生で体験して来たものが詰まっていた

「でも、私が仲介したのはこの扉のある部屋へ案内しただけです。扉の先の世界であなたが経験した事、成し遂げた功績は、あなた自らが培ったものです。この世界で、あなたの内面性が再構築し新しく生まれ変わりました」
「あなたはまだ立ち上がれます。この強い体験を持って、誇り高く生きていけます。それは私が保証しますし、何処まででもあなたの味方なのですから」

僕は小さな空間から身体が遠ざかって行った
それは僕の意志では無かったが、僕は身を任せていた
意識が薄れて、またはっきりとしていく
その時クピドは二つに分裂し、二人になった
そして片割れは僕と共に同じ空間へ着いていく
この世界に残った片割れが言った
「その子はこれからのあなたを、とても近いところで見守ってくれます。そして、その子はあなたの次のレッスンです」
僕は夢から覚めようとしていた


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