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短編小説 #3 緑の星 I 夢の回廊

そこは森に覆われた星だった
降り立ったところはジャングルで鬱蒼としていた
湿度は高く感じられ、木々も生き生きとしていた
そんな深いジャングルに囲まれた所に、一際目立つ大樹があった
それは此処からしばらく先にある高台にあり、雲に差し掛かるほどの大樹だった
その大樹まで、微かだが獣道が繋がっているようだ
獣道を頼りに大樹をめざす

歩いていると、途中で獣道は消えていた。しかしこのまま先へ進めそうだ
空を見ると大樹がとても目立つ。大樹を目印にしながら、少しづつ近づいていく
高台の付近に着いたが、高台は大きく隆起している。ここから先は断崖絶壁の様だ
僕は浮遊して大樹に到達できた
間近で見ると思っていた以上に大きい
樹を見上げてると、頂きは途方もなく空の先にある
幹は太く周りを一周するのに、どれだけの時間がかかるだろうと感じる程だった

大樹には大きな穴が空いている。洞穴のようだ
中はひだ状になっていて天井は鍾乳洞のようにつららが生えていた
入り口は狭いが中に入れるようだ

中に入ると、そこには女神が。。そう思った途端残像の様に消えて行き、同じ場所に短い髪の少女が闇に浮いていた
彼女は僕に気付くと優しく明るい顔になって、僕に手を差し出した
僕は彼女の手を握る
再開を果たしたかの様だった。彼女は安堵の表情をみせた

しかし、彼女はすぐに浮かない顔になり、何かを感じ取っていた
彼女の身体が燃える様に赤く染まる
すると彼女の身体がしぼみ始め、みるみるうちに老婆となった
しわがれた頬はやがて灰色になり目が窪み
ミイラ化し、皮膚や肉は粉となり、しいては骨だけに変わってしまった

変わり果てた彼女を抱きしめると、彼女の中心にあった“コア”が分離し天高く舞い上がった
僕は“コア”を求めて大樹の内部の天まで上り詰める
大樹の中は空洞で天井は空の高さまであった
“コア”は闇色に輝きながら、天井の木の枝に絡まっていた

それを掴み取った。それは不思議な装飾がされた木で出来た人形だった
そこには短い髪の少女の絵が描かれている
人形は赤・緑・青・黒の4色で装飾されていた
僕はそれをふただび抱きしめた
闇色の輝きが徐々に消え始めた
そのとき、微かな声で

「アリガトウ」「アイシテル」

二つの言葉が僕の頭に響いてきた
僕は少し動揺した
頭に声が響いてきたのも驚いたが、僕はこの子の事を知らなかった
けれど何処か懐かしい感覚を感じていた
僕はその感覚を記憶に留めながら、この人形を大事に胸ポケットにしまった

彼女の居ない大樹の中はとても静かだった
闇が木の根本部分まで続いている
それは宇宙空間と似ているものがあった
僕は根本まで降下し、大樹の洞穴を後にする

大樹に来る時は気付かなかったが、正面の別の高台に森に隠れた神殿があった
その方角から何かが光った様な気がした
僕はそこに向かって歩き出した

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