安心してください。きっと忘れます。
そう書いた翌週、突然シャッターが開いていた。
「骨折してね。4ヶ月も暇してたよ。」
何事もなかったかのように元気で、いつも通りだった。
おそらく業務用パックの、なんの変哲もないアイスコーヒー。昨年の雷が鳴った週に有線放送だと判明した、この店に合っている訳ではない、ここでしか聞くことはないであろう曲たちのエンドレスループを聴きながら過ごすひと時が帰ってきた。
もしもあのままシャッターが開かなければ、新しいお店と出会い、そこがここと同じようにかけがえのない店になり、この店は時々思い出す程度に忘れていったのだろう。
知人の店が閉店の案内を出していた。
安心してください。きっと忘れます。
本当にそうなのですよね。
父が亡くなってから10年くらいは毎日遺影の前にお線香とお水を欠かさなかった。20年も経つと、いつしか水だけになっていて、流れ作業になってしまう時すらある。(そういえばお線香は死者の食事なんだよなとふと思い出し、またあげ始めようと思い至ったところ)
どんなに大切だったものも程よく忘れていく。
完全に忘れることはないけれど、薄くなっていく。軽くなっていく。
素晴らしい人間の機能だと思う。
失う事は恐れなくていい。
きっと忘れるから。
失っても途方に暮れる必要はない。
前を見ていれば、意外とあっさりと新しい幸福の中へ飛び込めるものだから
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