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生徒会長になる方法 2

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 美羽はクラス内で白井のことが話題になっていることに気づく。思惑通りに注目されている。問題は白井に自信をどうつけるかである。いい案が思いつかない美羽は頭を悩ませていた。
 昼休みの廊下。黄色い声援が飛び交っている。富岡が選挙活動に励んでいた。彼は美羽を見つけると声をかけてきた。

「お互いに頑張ろう」

 富岡は手を差し出して握手を求めて来た。周りには多くの生徒。手を交わしたくはないが、ここで拒否すれば悪評が広がる。気づけば、富岡と握手をしていた。彼はその場を立ち去った。
 廊下を歩いていると他クラスの教室から怒号が聞こえてくる。生徒が校内でスマホを触っていたらしい。校則で校内での携帯電話の使用は禁止されている。使っていいのは緊急時のみ。それ以外は電源を切るようになっていた。美羽は緊急時のみ使用可能の校則に疑問を持っていた。いっそのこと、持ち込み自体を禁止にすればいいのにと。それでも校則を破るものは出てくる。
 注意を受けた生徒のスマホは没収された。廊下からその生徒の様子を眺めている美羽。なぜ不満げな顔ができるのかと不思議と思う。

「自業自得だな」

 美羽は歩き出した。
 翌朝。登校する生徒たちに挨拶する美羽と白井。これも選挙活動をする上で大切なことだ。相変わらず、注目されている白井はうつむいている。声も小さい。

「おはようございます!」

 美羽が大きな声で挨拶して、手本を見せたが何も変わらず。彼女は目立ちたくないとボソッと呟く。中身を変えるのはやはり難しいと痛感する美羽。このままだと負けてしまう。

「あのさ、あの連中らを見返したいとは思わないわけ?」
「見返したいとかない……」

 登校する生徒はチラチラと二人に視線を向けて、通り過ぎる。

「私は本気で白井を生徒会長にさせる」

 美羽は改めて自分の意志を伝えた。白井はおどおどとしており、ハッキリと答えない。
 遠くから白井を呼ぶ先生の声が聞こえた。生徒指導担当の先生だ。薄々来るのではないかと予測していた。むしろ昨日、注意を受けなかったのが不思議だ。しかし、このタイミングで来たのは美羽にとって好都合だった。
 女子の身だしなみに「ポニーテールは禁止」という校則がある。

「白井。お前は校則違反している。わかるな?」

 登校中の生徒たちは注意を受ける白井に注目している。その場で結んでいた髪を解く白井。艶のある黒髪が日光に照らされる。美羽が狙っていた第二段階。周りの生徒たちが見ている場所で校則違反を指摘される。校則というものが、如何に不平等なものなのかを示すことができる。白井の他にも校則違反をしている生徒はいる。昨日起きたスマホを没収された生徒のように。しかし、校則違反の注意から免れている生徒がいる。だからといって、校則を破っていい理由にはならない。美羽が訴えたいのはそこじゃない。
 美羽が伝えたいのは、先生たちの中で差別が起きているということだ。誰もその事実を訴えない。

「すみません」

 白井は頭を下げた。先生は「気をつけろ」とその場を去る。

 翌日。白井は学校に来なかった。廊下では富岡が選挙活動に励んでいる。今日も女子生徒の声が聞こえてくる。

「今日、白井さん休んでいるみたいだね。こんな大事な時に心配だね」

 富岡の言葉は嫌味っぽく聞こえた。あちこちと周りから「優しい」という言葉が飛んでくる。白井をただ生徒会長にさせるだけなら、彼を今すぐにでも地に落とせるほどの武器は持っている。でも、ここで使うべきではない。美羽にはしっかりとしたプロセスがある。

「じゃあ」

 大勢の生徒たちを引き連れて去る富岡。美羽は教室に戻る。
 教室。美羽の机に置かれたその用紙は生徒会役員立候補者に配られるものだった。その中に一つ、プロモーション動画の提出があった。美羽の通う学校で行われる立会演説会は立候補者の演説だけでなく、プロモーション動画の項目もあった。生徒たちにより立候補者のことを知ってもらうためである。動画は先生のチェックが入るため、事前に提出する必要がある。その後、編集が後からできないようにデータはずっと預けた状態になる。白井はまだその動画を撮っていない。
 学校が終わり、美羽はスマホの電源をオンにして着信がないかチェックする。白井からは何の連絡も来ていなかった。彼女の家は知らない。美羽はそのまま帰宅する。
 翌朝。就寝前に「一緒に登校しよう」とメールを入れたが返信なし。食事を済ました美羽は一人で登校する。
 学校の正門がもうすぐのところで一人の男子が美羽の前に現れる。

「豊田。話がある」

 彼は例のスマホを没収された生徒である。美羽とはあまり接点がなく、名前も知らない。選挙活動を行っているからか向こうは美羽の苗字を知っていた。

「話って何?」

 彼は物陰に美羽を連れていく。

「これだよ」

 スマホの画面を見せる男子。数人の女子たちが映っているが、顔まではわからない。

「これだよって言われても何?」

 彼は見て欲しい場所を拡大した。美羽はようやくわかった。数人の女子たちは、白井をいじめていた集団だ。そして、動画の終盤には白井も映っていた。彼女は囲まれていた。

「いじめの事実だろ。白井が休んだ前に撮ったものだ」
「で、なんで私に見せたの?」
「立会演説でこの動画を流す」

 美羽の計画が徐々に崩れていく。こうして邪魔が入った。

「それは無理。あんたが言ってんのはプロモーション動画の時のことだよね。で、白井の番が来た時にこの動画を流す……だから、私に声をかけた」
「そうだよ」
「無理」

 美羽は断る。彼は諦めずに頼んでくる。

「そもそも、プロモーション動画は事前に先生のチェックが入る。こんなの許可が下りるわけないでしょ」
「だって、許せないだろ」

 彼は声を荒げた。

「俺以外にも学校でスマホを触っている奴はいる。ここに映っている女子たちだってそうだ。なのに、なんで俺だけ注意を受けて没収されなきゃいけないんだよ」
「尚更無理。あんたと私は違う」

 美羽は彼を置いて正門をくぐった。

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