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なぜ?開幕目前のレフト大山構想

6月7日(日)、ソフトバンクとの練習試合でこれまでマルテとサードのポジションを争ってきた大山悠輔が2018年8月19日以来、実に658日ぶりにレフトの守備に着いた。なぜこのような起用がなされたのか、なぜこのタイミングなのか考えてみたいと思う。

1. 大山vsマルテのサード争い

阪神は昨年、12球団トップのチーム防御率を記録しながらも攻撃面が足を引っ張りセリーグ3位に終わった。特にチーム打率リーグ4位、盗塁数はリーグ1位を記録した一方でチーム本塁打数はリーグ5位、チーム長打率はリーグ最下位と破壊力不足が目立ち、得点数はリーグ最低を記録した。そんな課題を解消するべく阪神はMLB通算92本塁打のファーストの大砲ボーアを獲得、それに伴い昨年主にファーストのレギュラーを務めたマルテがサードに回ることとなり、大山とマルテの競争という形ができあがった。まずは昨年の両者の成績を確認しよう。

大山 143試合 (538―139).258 14本76打点 出塁率.312 長打率.401 OPS.714
マルテ 105試合 (349―99).284 12本49打点 出塁率.381 長打率.444 OPS.825

昨年の成績では、試合数や本塁打、打点では大山がマルテを上回っているが、打率や得点との相関が強いとされるOPSではマルテが大山を上回っている。現時点の打撃力ではマルテの方が上だと言えるだろう。しかし大山も負けてはおらず、今季のオープン戦では首位打者を獲得するなど非凡な才能を見せている。サードの守備面では大山が昨年UZR1位を叩き出すなど高い能力を見せている一方、マルテもMLB時代にUZRでプラスの数値を出しており、先日の試合でも度重なる好守を見せるなどサードを十分に守れることは証明している。
このように、攻守を総合するとマルテが上回っているように見えるが、大山は生え抜きの若手であり過去3年それなりに順調に成長していること、阪神には外国人が8人いる(一軍登録できるのは最大4人まで)こと、前述の通り大山がオープン戦で首位打者を獲得するほどに打ちまくったこともあって一時期は開幕サードは大山になっても決しておかしくはなかったはずだった。

2. 状況を揺るがした某ウイルス

そんな開幕サード大山の流れも某ウイルスの影響で変わってしまった。ご存知の通り、プロ野球の開幕は3月20日の予定だったのが6月19日までずれ込み、3月のオープン戦の結果で開幕のメンバーを決められる状況ではなくなった。6月2日から改めて練習試合が行われ、1週間が経過した時点での両者の成績はこのようになっている。

大山 4試合 (11―0).000 0本 出塁率.000 長打率.000 OPS.000
マルテ 5試合 (13―3).231 0本 出塁率.333 長打率.308 OPS.641

マルテが特別打っているというわけではないが最低限の成績は残しており、今不調に陥っている大山と比較すると結果を出していると言えるだろう。これに加えて昨年の実績、外国人枠を争うサンズの不調(後述)もあってマルテがひとまずメインのサードとして考えられる運びとなった。

3. 大山は控えでいいのか

大山悠輔は2016年にドラフト1位で指名され、1年目の途中から一軍で出場し始め初安打が決勝ホームラン、その後球団53年ぶりとなるルーキーでの4番スタメン、球団初となるルーキー4番で本塁打を記録し2年目には開幕スタメンに抜擢され不調を経験しながらも9月には1試合6打数6安打3本塁打という記録づくめの大爆発、3年目には開幕からチーム事情とはいえ100試合以上4番を張り続けた才能のある選手である。成績も年々伸びてきており、チームの中核を担い続けるのはまだ荷が重いとしてもスタメンに名を連ねるのは当然というくらいには成績を残してきている若手打者。そんな大山をサードで現状優先度が低いからといって完全に控えにしてしまっていいのか、いやそれはもったいない。チームの中で比較的成績も良くケガも少ない若手打者が完全に控えになるのは損失である。そこでレフトも守るという案が浮上してくる。

4. 阪神のレフト

阪神のレフトは昨年まで主に福留孝介が務めてきた。しかし福留は今季43歳と高齢であるため、補強として昨季KBOで打点王のサンズを獲得。さらには昨年打率.269と復調を見せた髙山俊、オープン戦以降絶好調の陽川尚将、最近好調の江越大賀、一軍で年20本塁打の実績を持つ中谷将大も控えるなど候補が多く、一見大山が参戦しても苦しいかのように見える。しかし、現候補は魅力も十分だが弱点も明確に存在している。福留は高齢でフル出場は厳しく、サンズは練習試合再開後14打数3安打.214 1本塁打で6三振とまだ不安が残る上に厳しい外国人枠争いがあり、髙山は昨年対右打率.296に対して対左打率.172と極端に左腕に弱く、陽川と江越と中谷は安定感に欠け計算はしづらい。その点大山は日本人右打者でありパワーも十分、毎年それなりの成績は残す安定感もあって計算しやすい存在なのだ。

5. マルテがレフトではダメなのか

マルテはレフトを守れないのか。そう聞かれると、「MLBで守った経験はあるが、とても上手そうには見えない」と答えることになる。確かに大山の高いサード守備能力を生かすためには多少下手でも打力で取り返せそうなマルテをレフトに置くことも悪くはないだろう。しかし、昨年ファーストを守っていて今季からサードに復帰するマルテにサードとレフトどちらも練習させるというのもわりと酷な話だろう。しかもマルテは昨年足を痛めるなどの不安もあり、広い甲子園のレフトを守らせるには怖さもある。また、サードではなくレフトとしてマルテを準備させてしまうと、最初から糸井+外国人3人の打線という可能性を放棄してしまう。それに加えて大山がレフトの経験がそれなりにあること、そして特に破綻したような守備ではなかったこと、大山の守備センスが非常に高いこともあってこのような形になったのだろう。守備力でいうとサードマルテ+レフト大山>サード大山+レフトマルテと判断したと考えることもできる。

6. なぜこのタイミングなのか

大山がレフトも守ることが決まったのは開幕まで2週間を切ってからであった。もう少し早くてもいいという声も多いが、なぜこのタイミングになったのか検討したい。まず、そもそもキャンプの時点では最初に書いたようにサード大山vsマルテの争いになっており、オープン戦で打ちまくった大山がそのままサードに入りレフトに福留もしくはサンズを据えて始まる予定だった。この時点では大山が優勢であり、自ら他ポジションに移る理由は特になかった。しかし状況は変わり、練習試合再開後になってマルテ>大山という関係になり、ここで大山を使うには他ポジションを検討する必要性が明確に出てきた。ギリギリまで両者を争わせたいという気持ちとチームとしての起用の幅を広げたいという気持ちでバランスを取った結果がこのタイミングになったと見ることもできる。もちろんそこには一軍コーチ時代に大山のレフトを見ていた矢野監督の大山の守備力・センスへの信頼というものも含まれているだろう。

7. 他のポジションではダメなのか

大山はユーティリティ性の高い選手であり、アマ時代にもプロ入り後もバッテリーを除くほぼ全てのポジションを守った経験を持つ。そのため、他のポジションでもよかったのではないかという意見もある。その中でも特に多いのがセカンドである。セカンドはある程度高い守備力が求められる上に連携プレーも多く、さらに大山が普段守るサードとは反対の動きとなるためやるならキャンプの時点からやる必要があった。しかし、阪神の正セカンドである糸原健斗は飛び抜けた成績は残していないものの阪神の野手ではトップクラスの安定感があり、離脱も少なく、どの打順でもこなすことができ、四球の多さによる繋ぎや確実性の高さからエンドランなどのサインプレーもしやすく、さらには1死3塁のような場面で確実に得点を生んでくれるような選手であり、非常に信頼度が高く計算しやすい選手である。この選手を最初から外す選択を取ることは難しいのではないかと思う。

7. まとめ

大山のレフト起用はマルテとの長い争いの結果と大山の経験+守備力・センスの高さ、さらには他のレフト候補の状況を考慮した上で行われたものである。大山がレフトも守れることで①一ボーア、三マルテ、左大山、右糸井②一マルテ、三大山、左サンズ、③一ボーア、三マルテ、左大山、右サンズなど選択肢が一気に増えるのでチームとしての戦術の幅も広がり、大山自身も出場機会が増える。そしてなにより、レフト大山はサードでなくても大山を使いたい、マルテを上回れなかったとしても大山を使いたいという首脳陣の大山への期待値の高さを示すものであろう。

以上で終わりとしたいと思います。今季は大山の更なる成長に期待するとともに、厚みの増した打線で15年ぶりの優勝、そして35年ぶりの日本一を掴み取ることを願いましょう!最後まで読んでいただきありがとうございました!

8. 余談

大山がレフトとしてスタメン出場した試合は過去15試合あるが、その時の成績は以下の通りである。
56打数17安打.304 2本10打点 出塁率.381 長打率.500 OPS.881
データ:http://nf3.sakura.ne.jp/index.html より

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