【往復書簡】(仙仁透様)

拝復 仙さんへ

先日は京都で久しぶりにお会いできてよかったです。書簡のゆったりとしたテンポとは違い、即興で乱打する会話がなんとも心地よく、刺激的で。相変わらずの引き出しの数と相槌の巧みさを朝から堪能させていただきました。
(パフェ食べれなかったのは残念でしたね!)

話して満足したせいかまた返事が遅くなりましたが、ここからまた書簡のテンポで思考をぶつけさせていただきます。「伝えるコツ」についてご回答ありがとうございます。仙さんに教わってる子供達が羨ましい限りです。さて、質問をするたびにブーメランで返ってくる覚悟はしておりますが、ご質問を受けて伝えるコツについて考えました。

コツというほど大層なものではないですが、誰かに何かを「伝える」場合に僕が意識しているのは、「そもそも全部は伝わらない前提でなるべく誤解だけは避ける」気持ちでいることです。漏れなく伝えられたらいいのですが、そこまでの腕はないし、極端に外さなければ良いや……ぐらいで構えてます。

誤解を避けるために、会話の中で常に返答の選択肢を頭の中で複数個用意して、都度その中でなるべく誤解をうまないものを選ぶ(誤解をうみそうなものを避ける)のを繰り返しています。喋りながら脳内では同時進行でロールプレイしてます。

パッと思いうかぶ選択肢が多ければ多いほど最適解を選びやすく、逆に少なければ最適からズレる可能性も高くなる。一番良いのは相手にとって馴染みのある話題を絡めて伝えること(野球好きには野球の喩え、など)だと思うので、少しでも多くの引き出しをと、日々返答のネタ集めに奔走しています。楽しいです。

こうやって書いていくと僕にとっての会話は「守りの将棋」を指すことに近いような気がします。「守り」と書いたのは別に誰かを論破するために話しているわけではないからで、日和って守りに入ったわけではありません。笑

物事はその本質さえちゃんと掴めたら、別にどんな形にも置き換えて説明ができると思っています。極端な話その喩えは野球でも将棋でも、カレー作りでも、それ以外のなんでも、選びたい放題(自分の知ってる範囲で)です。

以上を踏まえると、伝えるコツは「物事の本質を掴む(正しく解釈する)こと」と「(相手に合わせて)喩えを使い分けること」にある気がします。

ただどれだけ想定してもあくまで想定。他人が必ずその通りに解釈してくれるとは限りません。なので伝える努力は惜しまずしつつも、「伝わらない」という諦観も同時に持ちなさいよと己を戒めてます。

今ひつじが店内では都々逸に関するパネル展を行っています。過去に生み出された都々逸と現代のイラストが融合した素敵な作品展で、個人的にもこんなに日常的に都々逸に触れる機会はなかったので新鮮な気持ちです。展示を見にこられたお客様と話す機会も多いのですが、同じ文字列からも受け取る印象は人それぞれで、その幅がなんとも面白く。

そういった「解釈の幅」は当然あるものだし、(自分の外にある解釈も含めて)幅があることを自覚しながら相手と接することができたら幾分楽になるような気がします。気のせいかもしれません。

転々と話が変わりますが、つい先日西南学院大学で開催された歌人の俵万智さんと松村由里子さんの公開授業を聴きにいってきました。国語教育の話(今は試験問題で契約書を読むんですね。驚きです…)など、仙さんが興味を持ちそうな話題だなと思いながら耳を傾けていたのですが、内容以前に全体を通して俵さんと松村さんの言葉を捕まえる力に圧倒されました。

画像1

途中学生とのトークセッションで質疑応答があったのですが、学生の質問を丁寧に聴き話の中から本質を抜き取り(わからないときは都度相手に確認して)、それを受け止めた上で必要な言葉で簡潔に回答する。僕が上記でたらたらと書いた伝えるコツが恥ずかしくなるほど、鮮やかな切り返しをなにげなくされていて、「歌人すごいな」と知能指数の低い感想で頭の中が埋め尽くされました。

「人は見た目が9割」という残酷な論がありますが、似たように「会話は聞くのが9割」だとお二人の歌人さんのお話を聞いて思いました。無論ただ聞くだけでなく、聞いた中で本質を抜け漏れなく抽出するまで含めてです。

「伝えること」以上に「聞くこと」は一筋縄ではいかないと思います。前回は生徒さんたちに伝えるコツについて聞きましたが、今度は伝える前の段階についてご質問させてください。

仙さんが生徒さんの話を聞くときに何か気をつけていることはありますか?

2019.12.10

大掃除を先延ばしし続けているシモダヨウヘイ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?