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【寝静まった世界でタクシーは走る】『ナイト・オン・ザ・プラネット』感想

7月2日から都内のミニシアター4館で開催されているジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021。今回、アップリンク吉祥寺で上映されている『ナイト・オン・ザ・プラネット』を鑑賞してきた。

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本作はDVDで鑑賞していたが、機会があれば劇場で観たいと思っていた作品。という訳で、今回、劇場で改めて観たのだけど、DVDで観た時以上に良かったので感想を記しておこうと思います。

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概要:ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキの5つの都市で同時刻に走るタクシー内で起きる出来事をオムニバスで描く。

本作はタクシーという舞台設定が良い。家族でも友達でもない他人同士の一期一会。タクシーという密室の中で繰り広げられる人間模様は、それぞれが味わい深い。
舞台となる各都市の風景も良い。劇中で映し出される街並みは観光パンフレットに載ってるような美しい姿ではなく生活感溢れる姿。だからこそ、そこに住む人々の存在もより感じられる。

【ロサンゼルス編】

映画のキャスティング・ディレクターのヴィクトリアとタクシー運転手のコーキー。映画のキャスティングが難航しているヴィクトリアは、自宅へ向かうタクシーの中で、あるアイデアを思いつく。

ジャームッシュ監督曰わく「軽妙」というコンセプトのもと製作された本編は、他のエピソードに比べて話の印象は薄いが、ビジュアルは最も印象的。ウィノナ・ライダーとジーナ・ローランズという二大女優の共演もスクリーンに映えるが、特にウィノナ・ライダー演じるコーキーがファッション含めて可愛いのが見所。個人的にはこのウィノナの姿を見るだけでも充分に価値があると思う。

ウィノナーライダー①(2)

ヘッダー画像に使ったけど、2人が煙草加える一連の場面が素敵過ぎる。

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【ニューヨーク編】

ニューヨークからブルックリンまで帰宅しようとするヨーヨーと、ドイツから移住しタクシー運転手をしているヘルムート。2人の男の奇妙な珍道中。

ニューヨーク編は終始賑やか。ヨーヨーとヘルムートの凸凹コンビのやり取りが、まるでコントのようで楽しい。ヨーヨーが良い奴だし、とぼけてるが、穏やかなヘルムートのキャラクターも好感が持てる。道中で拾うヨーヨーの義妹を交えての車内のやり取りのやかましいこと(笑)
登場人物が黒人とドイツからの移民という点もニューヨークらしくて良い。

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【パリ編】

真夜中4時過ぎのパリ。乗客に差別された事に怒る運転手が、次に拾った客は盲人の女性だった。

このパリ編から舞台が真夜中へと変わります。この真夜中という設定も本作を好きな理由の一つだったりします。
世界が寝静まった後も、自分達の見てないどこかで人々が動いていると思うと、ワクワクするしどこか安心する。

本作は、序盤で出生地で差別を受けたことに対し怒る運転手が、知らず知らずの内に自分も差別してるという構図が皮肉めいてて面白い。オチも効いてて小噺っぽく、筆者はこのエピソードが一番好きです。

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ちなみに盲人役の女性は、本当の盲人ではなく『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(1986年)で知られるベアトリス・ダス。色気が凄まじい…!

【ローマ編】

ひっきりなしに喋る運転手のジーノと、そんなタクシーに乗ってしまった神父が味わう悪夢のような体験。

本作の中でも最もブラックといえるのがこのエピソード。
『ライフ・イズ・ビューティフル』(1997年)といった名作だけでなく、『ダウン・バイ・ロー』(1986年)、『コーヒー&シガレッツ』(2005年)などのジム・ジャームッシュ監督作品でもお馴染みの名優ロベルト・ベニーニが運転手役として登場。この運転手のマシンガントークが凄まじい。登場してから喋りっぱなし。

ニューヨーク編も賑やかだったけど、こちらは相手の反応お構いなしに、ひたすら一方的に喋るだけ。その様子には狂気すら感じられる。そしてそんなタクシーに乗ってしまった神父がひたすら哀れ。特に懺悔シーンはヒドすぎて笑ってしまう、まさに悪夢のタクシー。こんなタクシーには絶対乗りたくない。。

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【ヘルシンキ編】

酔っ払い3人組を乗せた運転手のミカ。酔っ払いの1人の車を盗まれ、会社もクビになった不幸話に、ミカは自分の身の上話を語り始める。

The 人情話。登場人物の名前がミカとアキ。更に出演者のマッティ・ペロンパーをはじめ、登場する俳優がアキ・カウリスマキ作品常連という点で映画ファンならニヤリとしてしまうかも。内容も悲劇に見舞われるけど、それでも人生は続いていくというカウリスマキ作品を彷彿とさせるかのような話となっている。
ロサンゼルス編で落ちた陽が、ヘルシンキ編の終わりで再び昇るという演出含めてラストエピソードに相応しい。

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ということで、今回、改めて思ったのは、ジャームッシュ作品はなるべく映画館で味わいたいということ。
ジャームッシュ作品は、本作に限らず空気感を楽しむ作品だと思っているので、作品と1対1で向き合う映画館の方が、より作品の雰囲気を堪能することができるだろう。

現在開催中の『ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021』。気になる作品がある人はこの機会に是非劇場に足を運んでみてはいかがかと思う。

ちなみにアップリンク吉祥寺でのポップアップの様子はこんな感じ。写真を取り忘れけど、エレベーターもジャームッシュ特集仕様になってました。グッズ売り場では、ジャームッシュ作品のDVDも販売されてましたよ。

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鑑賞後、夜の街でタクシーの列を見かけて、映画とのシンクロを感じたり。

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