【第32回東京国際映画祭コンペ作品『私の叔父さん』感想】

東京国際映画祭2019①

今年もいよいよこの季節がやってきた。
10月28日から11月5までの9日間、開催する日本最大規模の映画祭「東京国際映画祭」が開幕した。

映画祭の魅力は何といっても、この機会でしか観る事のできない映画との一期一会の出会いだと思う。
思いがけない傑作に出会える貴重な機会でもあるので、映画好きは、一度は訪れることをお勧めしたい(ちなみに筆者は2年前から参加している)
10月30日、東京国際映画祭の会場の一つでもあるEXシアターで、コンペ部門にノミネートされている『私の叔父さん』を観た。
ちなみにEXシアターは今年は、イルミネーションでライトアップされて美しかったのが印象的であった。

私の叔父さん①

タイトル:『わたしの叔父さん』 原題:『Onkle』
概要:舞台は現代のデンマーク。郊外で酪農を営みながら過ごす姪と叔父。
年によって日々動けなくなる叔父の面等を観ながら、真面目に働く姪。
そんな彼女に人生の転機が訪れるのだが… 
製作年:2019年 製作国:デンマーク 監督:フラレ・ピーターゼン

【感想】
淡々した演出と、表情の変化に乏しい登場人物達(姪の無表情っぷりはアキ・カウリスマキ監督の作品の登場人物を連想させる)いかにも北欧映画っぽい作品。
『私の叔父さん』という柔らかいタイトルと、あらすじから、コメディ寄りのホームドラマを想像していたが、描かれていた事はより現実的でシビアな話であった。

監督はデンマーク出身のフラレ・ピーターゼン。
親などの介護で都会に出れない若者たちがデンマークの郊外に存在しているという現状に気づいた事が、本作の製作のきっかけとの事。
親などの介護で故郷から出れない若者というのは、デンマークに限らず、昔から世界中にある話だ。だからこそ、この話は遠い何処かの話ではなく身近にある話として共感を得やすかった
また、主人公にはある悲しい過去があり、そこがこの物語の大事な要素となっている。
ここもとてもリアルかつ誰にでも起こりえることだからこそ、心情を汲み取りやすいだろう。

私の叔父さん②

本作は、人物描写がとても丁寧だ。
淡々としたショットの積み重ねに人物像と関係性がしっかり伝わってくる。
また、劇中では、ユーモラスに富んだ場面も何度があり(場内で笑いが何度か起きていた)重すぎず、軽すぎず絶妙なバランスを保っているところもお見事。

監督は、日本映画が好きとの事で、尊敬する監督に小津監督や是枝監督の名前を挙げていたが、筆者が連想したのは西川美和監督。
画面の色合いや人物描写、ユーモアの含ませ方なども西川美和監督の作風と通ずるものを感じさせる。
しかし、特にそれを感じさせたのは本作の終わり方、エンドロールの入り方を観た時、筆者は『ゆれる』(2006年)を思い出していた。

ゆれる

とても印象的で、その後を想像せずにはいられない終わらせ方。
「ハッピーエンドにすることはできたが、そうはしたくなかった」という発言に、監督の伝えたい事と意図がうかがえる。

個人的なことをいえば、集客などを考えたら一般公開は難しい作品だと思う。しかし、本作は観て損はない良い映画だ。
日本でもなかなか観る機会のないデンマーク映画、まだ期間中、2回観る機会がある(スケジュールはHPでどうぞ)興味ある方は、ぜひ観てみてはいかがだろうか。

わたしの叔父さん③

ちなみに本作の叔父さん役は、姪役の女優・イェデ・スナゴーさんの本当の叔父さん。なるほど、道理で馴染んでいるわけだ。

#東京国際映画祭 #映画 #わたしの叔父さん

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