見出し画像

【エスパルス】2021年J1第12節 vs大分(A)【Review】

直近3試合はゲームを優勢に進めている印象ながら、最後の一押しが足りずに勝ちきれず、波に乗れない状態で迎えた今節。対戦相手は、ここまで7連敗中と勝ち星から見放されている大分でした。

連敗中であり、対ロティーナ監督では未勝利・未得点でもあった片野坂監督の、必勝を期する思いは相当のものだったのでしょう。大分は、エスパルスをリスペクトして、入念な対策を講じてきました。

下位に沈むチーム同士の「6ポインター」を落としたのは非常に痛いことですが、チームを1から作り上げている段階で、積み上げてきたものの差が出るのは、ある意味仕方のないことだと思います。

この「産みの苦しみ」を乗り越えるためにも、今節ピッチ内で何が起こっていたのか、客観的に振り返ってみます。

1.スタメン

画像1

エスパルスのスタメン変更は、西澤→中村のみ。
4-4-2が定着した第6節以降、左SHは対戦相手によって使い分けている印象があります。翻ってみると、このポジションには確たる軸が存在せず、試行錯誤が続いている段階とも言えます。

2.大分のエスパルス対策

試合開始直後、左サイドライン際をドリブルで突破した中村から良いクロスが上がり、早速決定機を作ります(中山が空振り)。
しかし、その後は大分が右サイドから攻め上がり、何度かクロスを上げる場面を作る一方で、エスパルスはボールを動かしながらも、大分の5バックを中心とした守備ブロックを前にチャンスを作れない状況が続きます。
こうした背景には、単に人数をかけて守るだけではない、大分のエスパルス対策がありました。

(1)キープレーヤー封じ(ビルドアップの阻害)

画像2

上図は、エスパルスのボール保持時における大分の立ち位置とプレスのかけ方を示したもの。

大分は、敵陣深くでプレスをかける場合、長沢がボールの出し手にアタックするのと連動して、受け手となる選手を捕まえにいきます。
とくに、人を決めてタイトにマークしていたのは、エウシーニョ(小林成)、宮本(小林裕)、鈴木唯人(三竿)の3人。このことから、大分はエスパルスのビルドアップを敢えて右サイドに誘導し、強みを消そうとしていたことがわかります。
左サイドにボールが出た場合は、町田が立田を、松本が奥井を見ていました。

それでもエスパルスにプレッシャーを剥がされ自陣に侵入されてしまった場合、大分は2段階目のブロック守備に移行します。

(2)網目を細かくしてスペースを消す守備ブロック

画像3

大分は、最終ラインの5人がピッチの片半分に収まるほど陣形を圧縮し、網目の細かい守備ブロックを形成します。

画像4

エスパルスは、鈴木唯人の降りる動きとサンタナ・中山の裏狙いで大分の最終ラインにギャップを作ろうとしますが、大分の横圧縮により上手くいきません。
そこで、中盤でボールを横に動かしたり、エウシーニョがカットインしたりしながら網目を広げて縦パスを狙い、少ないタッチ数でボールを動かすことでバイタルエリアを崩そうとしますが、狭いエリアでのこうしたプレーは難易度が高く、なかなかシュートに持ち込めません。

このとき、大分が片方のサイドに寄っているということは、素早くボールを逆サイドに展開できればスペースがあるはずなのですが…

画像5

自分のところにボールが回ってこないことに痺れを切らしたのか、中村が大分の守備ブロックの外に降りてきてしまうことが多く、脅威を与えることができません。

そこで、エスパルスは飲水タイム(前半22分)に立ち位置の修正を施し…

画像6

鈴木唯人とサンタナの位置を入れ替えるとともに、中村を大分の右CB-WB間に立たせることで相手を敵陣に押し込もうとしましたが、相手の2列目をうまく動かせず、中村までスムーズにボールを届けることができませんでした。

(3)大分のボール保持

エスパルスの左サイドが機能不全に陥ったのは、中村に守備を強いる大分のボール保持にも一因があったとみます。

画像7

今節のエスパルスは、大分が得意とする「擬似カウンター」(相手を自陣に引き込み、擬似的にカウンターのような状態を作る)を警戒したのか、最終ラインには積極的にプレスをかけず、2トップがCHを押さえるようなポジショニング。
これにより、大分は左右のCBが容易にボールを運べる状態となります。

また、たけちさんのプレビュー(以下)にもあったように、大分は右WB(松本)が高い位置を取ってきます。同時に、右SH(町田)がSBの裏を狙うため、奥井は最終ラインに留まらざるを得なくなります。

このようなシステムの噛み合わせによって、フリーになった右WBをビルドアップの出口として、大分は何度もエスパルスの陣内へ侵入します。

画像8

さらに大分は、上図のように右CB(小出)が果敢にオーバーラップして攻撃の人数を足してくるため、エスパルスは数的不利にならないよう中村が引いて守る必要があります。

こうなると中村の持ち味が消されてしまうため、中村が過度に自陣に引き込まれることのないよう、飲水タイム後は中村が予め相手WBへのパスコースを切る立ち位置を取るよう修正されていました(下図)。

画像9

(参考)大分の得点シーン(セットプレーの前)

画像10

結果的にはCKを押し込まれてしまった失点シーンの前、長沢にシュートを打たれた場面は、前半の唯一といっていいピンチでした。

このときは2FWが相手の最終ラインにプレスにいっており、連動してCHが前掛かりになっています。
ここで、エスパルスの2列目と最終ラインとの間が開いたことで、長沢がフリーでボールを受けるスペースが。ここに長いボールを送られ、立田が遅れて対応したところを突かれてシュートまで持ち込まれてしまいました。

総じて前半は、決定機の数こそ差はなかったものの、大分の組織的な対応により、エスパルスが目指す「ゲームをコントロール」する状態には至りませんでした。

3.エスパルスの打ち手(後半)

後半は、前半よりもエスパルスがボールを保持する時間が長くなりました。
ビハインドのエスパルスが前からのプレッシャーを強めるようになり、大分がリスクを避けた側面もありますが、エスパルスのボール保持のスタイルにも変化が見られました。

画像11

左サイドでは、中村が大外レーンの高い位置に張る機会が増加。また、右サイドもエウシーニョが中に入るなどして相手SH・WBを迷わせ、中山がボールを受けるスペースと時間を創出します。
両サイドが幅を取って仕掛けの姿勢を見せることで、少しずつ大分の守備ブロックの網目を横に広げていきます。

後半15分の選手交代(鈴木唯人→後藤、河井→西澤)により、スピードのある中山が左SHに回ったことで、これまで効果的に使えていなかった左サイドの脅威が増し、徐々にエスパルスがペースを掴みます。

後半21分には、中山に替えて指宿を投入。今度は西澤が左に回ります。
指宿の役割は、ルヴァンカップで出場したときのように1.5列目でボールを引き出すような仕事ではなく、中央に留まり大分の最終ラインとの高さのミスマッチを活かすことではなかったかと想像します。足元の器用さが武器の選手ですが、エスパルスの中盤の選手がボールを持ったとき、最終ラインの選手と駆け引きをする場面が多く見えたのがその理由です。

それでも大分のブロックをこじ開けられず、最終的にはヴァウドをパワープレー要因として投入。
高さの優位を活かしてなりふり構わずゴールを目指したものの、大分も空中戦の強さを持つ新戦力・トレヴィザンを入れるなどして跳ね返し、スコアを動かせず敗戦となりました。

4.今後に向けて

試合の流れをざっと追ってみただけでも、大分が周到に準備して今節に臨んできたこと、そしてエスパルスも、相手の狙いを外すために様々な修正を施しているのがわかります。

エスパルスの打ち手は、全てが最善手ではなかったかもしれません。それでも、監督がやろうとしたことは理解できますし、怪我のリスク管理など長い目で見たマネジメントを考慮しても、それぞれベターな選択だったのではないかと思います。

エスパルスには、飛び抜けた個の力を持った選手がいないからこそ、人任せにせず、チーム全員がピッチ内で同じ画を描いて動く必要があります。
また、個々で戦術理解度やプレーの特徴が違う中で、メンバー間で共通認識を作る作業には、どうしても時間がかかります。
その積み上げが将来的に成果としてどのように表れるかは、今シーズン手痛い敗戦を喫した大分や徳島を見ればわかるのではないでしょうか。

ブロックを作る守備も早々に浸透し、昨シーズンと比べて失点数は大きく減少しています。また、この試合も負けたとはいえ、最少失点で切り抜けています。このような試合運びは、最終的に得失点差の勝負になったとき必ず活きてきます。

なかなか勝利できずに歯がゆいのは、みんな一緒。そういうときこそ、監督や選手がどんな意図を持って戦っているのか、思いを馳せてみませんか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?