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「テレビ」

「人間は、体に非常に大きな傷や怪我などを負うと、脳内に一種の麻薬成分が分泌され、痛みを和らげようとするのだ……」

人間の体は良くできているなあと感心しつつ、ボクはそこで教科書を閉じ、リモコンでテレビのスイッチを入れた。

明日で中間試験がやっと終わる。しかも、最後は一番得意な生物の試験である。それにしても、学校から帰ってきてずっと机に向かっていたので、さすがにちょっと疲れた。テレビでも見て休憩しよう。

時計は10時を少し回っている。今日は月曜なので、丁度「スマ・スマ」の時間である。料理が終わり、しばらくするとコントが始まった。画面では、シンゴ扮するデニス・カッドマンが、ナカイ君に怒られている。ボクはテストのことも忘れ、しばらく大笑いしてしまった。

それにしても、最近のアイドルは本当におもしろい。以前のアイドルは、カメラの前でカッコつけていれば良かったらしいが、最近は「おもしろい」というのが、アイドルの必須条件になりつつある。中でも、スマップは飛び抜けた存在で、コントのような作られたものから、モノマネなどの芸、トーク中のアドリブまで、下手なコメディアンより、というか、今の大抵のコメディアンよりよっぽどおもしろい。そして当然のように、あとに続くキンキやトキオも、同じようなテイストを求められているのである。

そして、芸能界の「お笑い化」は、なにもアイドルだけにとどまらない。少し前だったら絶対にこんな番組には出なかったはずの、強面でならした渋い俳優さん達が、こぞってバラエティに出始め、「天然」とも「計算」ともつかない、独特の笑いを振りまいている。中には、やはり本職を食ってしまう程の実力者さえいる。

画面では、ゴロウが、ひっくり返ったテーブルの後ろから登場し、オチの言葉を言っている。

それにしても、バラエティ全盛である。しかもクイズや情報番組まで、全てバラエティ化してきている。現在は、なんでも「お笑いブーム」の再来らしく、勢いとリアクションだけの自称「芸人」共が、次から次へと現れている。まあ、とんねるず、ウンナン、ダウンタウン、そしてナイナイに続くタレントが出てこないのが、テレビ界の大きな悩みであるらしいのだが。

そして、ついにこの「お笑い化現象」は、本来お笑いとは全く関係のない分野の人達まで巻き込みつつある。

例えばミュージシャン。今の音楽番組は、音楽よりむしろ、ミュージシャン達のトークの方が、大きなウリになっている。そこで視聴者に「おもろい!!」と思われたものが、即、人気者になれる。T.M.Revolutionの西川さんあたりが、その典型的な例であろう。

画面では、「計算マコちゃん」が、恋人のツヨシ君に抱きついている。

さらにこの「波」は、芸能界ではない、スポーツの分野にまで及んでいる。

例えばジュビロの中山選手が、あれ程までの人気者になったのも、そのプレーもさることながら、あのキャラクタが占めている部分が大きいであろう。また、ヤクルトの選手にも、おもしろい人が多い。まあ、球界を代表するイチロー、松井の両人くらいになると、そんな役割を求められることも少なそうだが。

キムタクが、新曲のソロの部分を歌っている。

何故かここに来て、テレビはボクらを過剰に笑わそうとしていないだろうか?あの、最近特にひどくなり、もしかして聴覚障害者の方のためかと思うが、それにしてはあまりに不親切な、画面の「書き文字」の氾濫も、その一貫であるように思う。あまりにも、無理矢理なのである。

しかし、考えてみると、テレビ番組というのは、結局、「視聴率」という媒介を通じ、ボクら視聴者の望んでいるものが投影されているに過ぎない。つまり、世の中のみんなが、何故か一生懸命笑おうとしているのである。何かを必死で笑い飛ばそうとしているのである。痛みを和らげるため?

「さぁて、そろそろ始めるか」

「スマ・スマ」が終わったので、ボクは再び机に向かい、電源を切るためにリモコンをテレビに向けた。

画面では、引き続き「ニュースJAPAN」が始まった。

今日のトップニュースも、「キレた」中学生が起こした事件であった。

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