見出し画像

「化石」

「……ということで、この地層とこの地層からは、地面に対して体から直角に足が出ているという共通した特徴を持つ、一連の巨大生物群の化石が大変多く出土しています。これらの巨大生物群は、その恥骨の形から、大きく3種類に分類されます。

これらの生物群は、非常に繁栄していたと思われます。なぜなら、世界のありとあらゆるこの年代の地層から化石が発見され、また、非常に多様な形態に進化を遂げているからです。地上は、ほとんどこの生物群の天下だったと思われます。

しかし、この生物群は、ある時を境に突然絶滅してしまいます。これまで、その原因の一番有力な仮説として、小惑星の衝突が考えられてきました。

どうしてその時期に小惑星の衝突があったのかが分かるかというと、それらの地層から、他の天体にしかない物質が大量に出てくるからです。おそらくその時期に、他の天体が衝突したのでしょう。

さて、ある程度以上の小惑星が衝突すれば、当然その衝撃だけで甚大な被害が出ますが、問題は、むしろその後です。

小惑星の衝突によって大量に舞い上がったチリのため、光と熱が遮断されて気候が急速に寒冷化し、まず、それまでその生物群が食糧としていた植物が絶滅します。その影響は、当然、食物連鎖の輪を通って、全生物に及びます。

また、この生物群は、おそらく体温調節ができなかったと考えられてますので、寒さに耐えきれなくなって息絶えたものも多くいたでしょう。

もちろん、この生物群の絶滅に関しては、他にもいろいろユニークな仮説が提出されており、現在でも完全に定着した仮説はありません。え~、何か質問はありますか?」

どうせ質問なんか出っこない。教授は長年の経験からそう判断し、ノート類を片付け始めた。

すると、向かって左前方で手が上がった。立ち上がると、その学生は、学生というには、かなり老けていた。

「あの、ある生物群の絶滅について、先生がおっしゃったように、化石や地層が、我々に非常に多くのことを教えてくれるということが分かりました。けどですね、化石からは分からない原因もあるんじゃないでしょうか。 例えばですね、あの、もし何らかの原因で、ある生物群の生殖器や生殖能力に長期的に異常が起リ、それが原因でその生物群が絶滅した場合、その痕跡は化石として残るのでしょうか」

<ん?>

教授の中で、何かが火花を散らした。

それは充分考えられることである。これまで生物群の絶滅というものは、惑星の衝突などの大きな外的要因や、氷河期の到来などの急激な気候や環境の変化が大きな原因だと思われていた。それらの因子は地層に残りやすく、また、化石にも残りやすい。

しかし、生殖機能の異常など、生物の内的な要因が引き金となって絶滅が起こった場合、その痕跡は、果たして化石として残るのだろうか?

生殖能力がなくなれば、当然子孫が残せなくなり、その生物群は絶滅に向かうはずである。しかし、その証拠となるものは、化石としては残りづらい。なぜなら、生殖器は骨格組織からできておらず、 土砂に埋もれてしまえば、徐々に他の物質に置き換わるという化石の生成過程には進まず、よっぽどの偶然が重ならない限り、ほとんどが腐敗して跡形もなく消えてしまう。いや、待てよ……

「ブーーーー」

「いい質問が出ましたが、時間が来ました。この続きは来週にします」

教授は教壇の上にある自分の荷物を急いでまとめると、回答を得ようと近寄ってきたさっきの学生を後目に、小走りで自分の研究室に向かった。

教授は素早く自分の研究室に入ると、最近、世界各国の例の巨大生物が出る地層より、かなり新しい地層から次々と発見される、二足歩行したと思われる大量の生物群の化石を手にとり、ゆっくり、ゆっくりといつまでも眺めた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?