島根で取り戻す「暮らし」をつくる面白さ
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島根で取り戻す「暮らし」をつくる面白さ

Craftsman’s Base Shimane
作りながら考える暮らしを探求する、Craftsman’s Base Shimaneの西嶋です。私たちは先日、隠岐の海士町に暮らす大野ご夫妻のnote記事動画を制作しました。大野佳祐さんは、「島留学」で知られる隠岐島前高校の学校経営補佐官として教育の魅力化に取り組み、大野祥子さんは、オリジナルグラノーラ「あまのーら」の開発やベイクショップ「アヅマ堂」を運営されています。今回の記事では、この2人と娘さんを加えた3人の家族が、どう自分たちにとっての「島暮らし」をみつけていったのか、制作の舞台裏を振り返りながら、考えてみたいと思います。

「高校魅力化」のトップランナー隠岐島前高校のコーディネーター

島根県立隠岐島前高校は、生徒数の減少に伴う統廃合の危機を背景に、全国から生徒を募る「島留学制度」や「地域課題解決型学習」などの取り組みを実施し、生徒数をV字回復。学級増にまでに至った「高校魅力化プロジェクト」のトップランナーです。

高校と地域を繋ぎ、島外からも各分野の第一線で活躍する方を呼び込み、全国から選ばれる魅力的な教育をつくっていった島前高校。そこで重要な役割を担ったのが、高校の先生方や町村の職員方に加えて、「コーディネーター」と呼ばれる人たちでした。その多くは、島外に暮らしていた教育に関心がある若者で、町が雇用して高校に配置されています。先生ではない立場から、学校・行政・地域・島外を繋いでいく存在。隠岐島前高校で最初にそのコーディネーター的な存在として活躍した岩本悠さんは、現在、島根県の教育魅力化特命官として、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームの共同代表として、この島前のモデルを島根県全体へ、全国各地へと広げていく取り組みをされています。

今回取材した大野佳祐さんは、岩本悠さんからバトンを渡され、隠岐島前高校魅力化プロジェクトを推進しつづけてきた方です。実は以前にも一度インタビューさせてもらったのですが、着任早々いきなり大きな外部資金獲得に成功したり、島前地域の海士町や西ノ島町、知夫村の町村長たちと交渉や調整をしながら、魅力化や島の未来の大きなビジョンを描いていく。そんな大きな流れをつくっていった方という印象でした。前向きでフランクで、いつもニコニコしていて、無茶振りにも近いけれどワクワクする提案を「やりましょう!」と次々にかたちにしていく佳祐さん。そこに多くの方がなかば巻き込まれるように繋がり、大きなうねりとなっていく……。

ただ、ある意味で、それは「都会的」な活躍の仕方にもみえます。教育という分野のトップランナーとしてバリバリ働く佳祐さんの姿は、まさにイメージ通りの方です。しかし、佳祐さんはどのような「島暮らし」を送っているのか。注目されてきた「仕事」の面ではなく、「暮らし」も含めた佳祐さんの姿をみてみたい。そんな理由で、今回の動画や記事では、大野さんご家族の島暮らしに焦点をあてました。事前のウェブミーティングで大野家にこの企画案を伝えたところ、祥子さんから「そう、私たちも暮らしも含めて取材してほしいと思っていたんです!」とおっしゃっていただき、「これはいける!」と私たちも手応えをもって隠岐での撮影にのぞむことができました。

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「自分のほしいもの」と「地域のあったらいいな」が重なってできたアヅマ堂

東京では広告系のお仕事をされていた祥子さん。突然、佳祐さんに連れられるかたちで海士町に移住することになってしまいました。「島暮らし」には魅力を感じていたものの、当初はどうしたものかと悩みながらのスタートでした。島では「佳祐さんの婚約者」として紹介され認知されていきますが、それだけが自分の立ち位置だと心許なく感じ、まちづくり系の会社で働き始めました。子どもがいると、移住者であってもお母さん同士の繋がりやご近所付き合いは生まれやすいものですが、自分を自分としてみてくれるような友人や仲間をつくるのは、なかなか難しいと思います

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そんな時にふと「グラノーラが食べたい」と思ったところから、物語はうごきはじめます。島では食べたいグラノーラが手に入らず、もうせっかくなら海士町にある素材をつかってオリジナルのグラノーラを自分でつくってしまおう!と言って始めたのが「あまのーら」の始まりです。自分のために作ったグラノーラでしたが、友達にも好評。本格的に作ろうと思ったら保健所の認可が必要で、古民家を改修するための費用をクラウドファンディングで募り、ベイクショップ「アヅマ堂」をオープンするというのは、本編のインタビュー記事の通りです。

ここには、海士町が高らかに掲げるスローガン「ないものはない」が体現されています。①なくてもよい、②けれど大事なものは全てここにある、という二重の意味がこめられたこの言葉。グラノーラは確かになかったかもしれませんが、それなら作ってしまえばいい。祥子さんがグラノーラを作りはじめた時、ベイクショップをやろうと決めた時、多くの人が「いいね!」「応援するよ!」と支えていってくれました。当時、島にあったパン屋さんもなくなってしまって、ちょっとおいしいパンやグラノーラが島で味わえたら素敵だな、という思いが祥子さんの始めた小さなプロジェクトを後押ししてくれました。

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「島暮らしにほんの少しの “わくわく” と ”美味しい” 」をコンセプトにするアヅマ堂は、基本的に島内の人向け。島の人たちが、何より自分が「おいしい」と感じ、思わず人に進めたくなるようなものじゃないと、おいていません。すっかり、島の人たちに愛されるようになったアヅマ堂。佳祐さんが「最近は僕のほうが「祥子の夫」って呼ばれることが多いんですよ」と少し悔しそうに言っていたのが、印象的でした。

少しだけ自分の話を加えさせてもらえば、私たちも夫婦で島根県大田市へ移住しました。いわゆるIターンだったので、もともと知り合いはゼロ。移住後、私は教育や地域づくりの活動を通じて仲間ができはじめましたが、妻は子育てと在宅の仕事でこもりがちでした。妻にも島根を楽しんでほしい、居場所をみつけてほしいと思い夫婦で話し合いました。そこで出てきたアイデアが、ブックスペースをつくること。知り合いに相談するとお店の使っていない場所に本棚を置いていいとのこと。場所も、本棚も、本も、共感してくれた人たちの好意ですぐにあつまり「はらっぱ図書室」の活動が始まりました。島根にないものはいっぱいあります。ただ、ないものを自らつくっていくとき、それがみんながあったらいいな、と思っているものであるなら、きっと多くの人が応援してくれます。

映像担当戸田さんと大野家とのまさかのコラボレーション・プレート

事前のウェブミーティングの際に、「あの蔵庭の戸田さんですか!」と言ったのは大野さんご夫妻。実は今回の動画の撮影・編集を担当する戸田耕一郎さんは、江津市で「蔵庭」という古民家を改装したカフェ&ベーカリーを運営されています。なんと大野さんたちも蔵庭を訪れたことがあり、ベイクショップづくりの参考にさせてもらったとのこと。撮影の際に実際にお会いしたときには、移住のこと、暮らしのこと、これからやりたいことをワイワイと話しながら、すっかり打ち解けていました。

撮影で大野家の家庭菜園を撮らせてもらった際に、「ぜひどうぞ」とたくさんの小松菜をもらいました。まさか、佳祐さんから野菜をもらうとは思っていなかったのでびっくりしましたが、話はそこからさらに転がります。なんと、戸田さんの蔵庭の玄米プレートに大野家の小松菜が登場したのです。詳しくは戸田さんの蔵庭日記をお読みください。

こういった出会いもまた島根らしいと感じます。憧れたお店の方、気になっていた活動の実践者と、いきなりものすごい距離の近さで会うことができ、いきなり形になってしまうそんな化学反応が日々起きています。もちろん、誰しもがこの出会いができるわけではありません。島根で平凡な消費生活を送ることもできはしますが、それならば都市に出たほうが面白いでしょう。離島や中山間地域で課題を見据えながら、「自分らしくある」ことも大事にして、島根で暮らすもの同士の共感や共鳴。ライバルというよりは、それぞれのフィールドで楽しみ会う仲間が、また一人増えたという感覚に近いでしょうか。そうやって、一つ、また一つと自分にとって近しい地域やフィールドが広がっていくのですね。

そして、今回はなにより、その大野家への共感をプレートにしてしまう戸田さんの心意気がニクいですね。真似したい……!

仕事と暮らしの充実は、家族の時間あってこそ

佳祐さんと祥子さんがそれぞれの島暮らしを切り開き、自分のフィールドで活躍する姿は本当にワクワクさせられます。ただ、そんな充実した生活の根っこには、家族の時間があるのだと改めて感じました。島根だからといってスローな暮らしばかりではありません。時に忙しく、やるべきことは多く、だからこそ得られる充実感や手応えもあります。でも、忙しさを理由に家族の時間をあきらめない、そんな意志を大野家に感じました。

仕事と暮らしが車で10分の圏内にぎゅっと凝縮されている島暮らし。娘さんをお風呂にいれて寝かしつけ、休みの日には散歩や畑作業に精を出す、そして、ふと立ち止まれば目の前には広大な日本海が広がっている……。オフの充実度が物凄いのです。いや、むしろ仕事のオフというよりは、この家族の時間があってこそ、それぞれの仕事や暮らしへと向かっていけるのかな。そんなふうに感じた取材でした。

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海士町へのふるさと納税で、島の未来へ投資しよう!

佳祐さんは、今年から海士町の「ふるさと納税」のプロジェクトに参画。「海士町のファン」をつくり、育て、島の内外で好循環を生み出す仕組みづくりにも奔走しています。

12月1日にはふるさと納税を原資とした「海士町未来投資基金」を設立し、島の未来につながる事業や人材育成を半官半Xで後押ししていくとのプレスリリースが発表されました。ふるさと納税の返礼品には、祥子さんのオリジナルグラノーラ「あまのーら」も入っていますよ! 興味のある方はぜひチェックしてみてください。

(写真はすべて「しまね移住PRムービー 家族で島の暮らしをつくる「必死なんですけど、めっちゃ幸せです」」より)

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手を動かすなかで、新しい生き方を探る。たしかな手触りをもった、自分らしい暮らしを作る。そんな島根のクラフツマンたちとつながる場「Craftsman’s Base Shimane」。