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各種感想・考察文

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既存作品の感想や考察など。 作品の形態やジャンルはいろいろ。
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#小説

『猿の手』考察【追記あり】

 以前、『猿の手』の日本語訳を上げました。  原文の文法には忠実ではありませんが、誤訳はないと思いますし、日本語としてこなれた表現を心がけたつもりです。  短編です。よろしければお読みください。  今回は、この、『猿の手』の考察です。  ここからは具体的な内容に触れますので、未読の方はご注意を。 ■モリスはなぜ、猿の手を渡したのか  猿の手は、1人の人間の願いを3つだけ叶えます。  しかし、1つ願いを叶えるごとに、1つ代償を支払わせます。  その代償は、なかなか洒落にな

江戸川乱歩『日記帳』考察③

 江戸川乱歩『日記帳』に関する考察を綴ってます。  いきなりこちらを開いた方は、先に①②からお読みください。  今回は、前回に引き続き、兄に関する考察を綴ります。  今回で、本作への考察は終わりです。 ■兄が知りたかったこと  雪枝からの葉書に貼られた切手は、最初から最後まで、ひとつの例外もなく、一貫して斜めに貼られています。  これを見たとき、兄は「雪枝も、弟に恋をしていた」ということを認めざるを得なくなります。  兄は、このとき初めて「何も知らずにいればよかった」と

江戸川乱歩『日記帳』考察②

 江戸川乱歩『日記帳』に関する考察の続きです。  前回はこちら。先に①を読んでいただけるとありがたいです。  今回は、25日の雪枝の葉書を目にした弟の真意から、綴ります。 ■私には、弟という男は、こう見える  弟の病は、おそらく、当時の不治の病です。  診断確定後、僅か数ヶ月で死亡したことや、自室に引きこもりがちだったことから考えると、急性の感染症だったのかもしれません。  もしかしたら、葉書のやりとりをしている頃、弟には何かしらの症状が出ていたかもしれません。  し

江戸川乱歩『日記帳』考察①

 江戸川乱歩の『日記帳』という短編小説について、考察を綴ります。  未読の方は、是非お読みください。  一読する程度なら、数十分もあれば充分な分量です。  朗読の音源を聴くのも楽しいかも知れません。  興味のある方は、聴いてみてください。 ■あらすじ  弟の初七日が済んだ頃、語り手である兄は、弟の書斎に一人訪れます。  そして、兄は、弟の日記帳を発見し、中身を読み始めます。  その記述から、恋には縁遠そうに思われた弟が、ある女性と葉書をやりとりしていたことが判明するので

宮部みゆき『ペテロの葬列』読後雑感

 宮部みゆきは、人物の内面描写に定評のある作家で、私の大好きな作家のうちの一人です。  代表作を問われたならば、今なら「三島屋シリーズ」が真っ先に上がるでしょうか。20年程前に書かれた『模倣犯』も評価の高い作品です(映画は酷評されましたが、それは原作のせいではありません)。  今回俎上にあげる『ペテロの葬列』は今から10年近く前の作品です。ドラマ化もされているそうですが、そちらは私は見ていません。杉村三郎という男性を主人公にした作品群の一つですが、その中でもこの『ペテロの葬列

夢野久作「瓶詰地獄」考察②

 夢野久作「瓶詰地獄」の考察を綴ってます。  今回は、各手紙を組み合わせつつ、いろいろ考えます。  ネタバレあります。  よければ青空文庫あたりで、まず、お読みください。短い小説です。 ■3つの瓶詰手紙が見つかった場所  3つの樹脂封蝋の麦酒瓶は、3つとも封蝋が為されたまま、同時に回収されています。  1つは砂に埋まっており、1つは岩の間に挟まっており、1つはどういう見つかり方をしたか不明です。  で、私ここで、ちょっと大胆な仮説を立てます。それは。 「二人が流れ着いた

夢野久作「瓶詰地獄」考察①

 夢野久作の「瓶詰地獄」について、綴ります。  複数の手紙を並べてあるという構成の短編です。未読の方で、興味がおありの方は、青空文庫にテキストがありますので、お読みください。  この作品は、背景を説明してくれないタイプの作品で、解釈が多数存在します。しかも、そのいずれもが「でもやっぱり、スッキリしない点が残る」という具合。だからこそ読者の心を捉えて放さないのでしょう。  読後感想を兼ね、考察を綴ります。  まずは、最初から順番に第一印象の感想を綴り、それから、細かい考察に

芥川龍之介「藪の中」考察①

 芥川龍之介の「藪の中」について、あれこれ綴ります。  未読の方は、青空文庫にテキストがありますから、是非お読みください。 ■概要  非常に短い短編です。  文章の最後まで目を通すだけなら、30分もかからないと思います。  長い時間を必要とするのはそこから先、というタイプの作品。  黒澤明の映画「羅生門」の原作となった小説です。  芥川は「羅生門」という題の小説のほうが有名なので、集客のことを考えて、映画のタイトルと、いわゆるお白洲の舞台設定だけ、羅生門に変えてみた、と

芥川龍之介「藪の中」考察②

芥川龍之介「藪の中」について、綴ります。  今回は、前半四人の証言について、それぞれ個別に考えます。  次回、後半三人の証言について個別に考え、その後関連させて考えていく予定です。   ■木樵りの物語について  男の死骸の発見者の証言です。  私には、この作中の登場人物の中で、この木樵りの証言が最も信頼がおけるように感じられます。  その根拠は後述しますが、木樵りの証言は、まずそのまま受け取ってもよかろうかと、私は判断しました。    木樵りが発見した死体の状況は以下の通

芥川龍之介「藪の中」考察③

 芥川龍之介「藪の中」の考察について、綴ります。  今回は、後半3人の供述について。  後日追記編集するかも知れません。  なお今回は、3人の供述について、「事実として話していること」と「主観による推測」は記していますが、「嘘や隠蔽」を詳細に判別するということはあまりしません。それは次回以降の予定。  今回はあくまで「こう供述していた」「それによりこう考えられる」程度のことを記す予定です。 ■多襄丸の白状について  本件の容疑者として捕らえられたのは、多襄丸という盗人で

芥川龍之介「藪の中」考察④

 芥川龍之介「藪の中」について、綴ります。  今回はまず、時系列のまとめから。 ■時系列  ほぼ事実と思われることを列挙します。 日時不明 武広と真砂が結婚する。 昨日     武広と真砂がふたりで若狭へ出立する。 昨日午頃   旅法師が武広と真砂を、関山から山科への路上で見かける。 昨日午少し過ぎ 多襄丸が、武広と真砂と出会う。 この間、多襄丸と武広と真砂との間で何かがあり、武広が死ぬ。 昨日午後7~9時 多襄丸が、粟田口で捕らえられる。 今朝      木樵

芥川龍之介「藪の中」考察⑤

 芥川龍之介「藪の中」の考察を綴ります。  今回から、多襄丸、真砂、武広の供述について、綴る予定です。  今回はおそらく、藪の中に3人が入るあたりまでになるかと思います。  真砂と武広は二人とも、真砂が手込めにされた後のことから語っており、それ以前のことについては供述を残していません。  ですから、多襄丸の供述をベースにして考えます。 ■藪の入り口に着くまで  武広と真砂が、武広の故郷、若狭に向かう途中、多襄丸が二人を見かけたのが、事態の発端です。  偶然目にした真砂

芥川龍之介「藪の中」考察⑥

 芥川龍之介「藪の中」について、綴ります。  今回から、事件の核心について考えます。  ここからは、3人の供述が、はっきりと食い違ってくるので、捉え方が非常に難しいです。  ちなみに私は現時点で、黒澤明「羅生門」は未視聴なんですが、あれこれ考えた挙げ句の内容が、万一まるかぶりしてたら、どうしよう。  一通り書き上げたら、その後観てみることにします。  今回は、事件の核心の考察の、序章のような感じになるかと思います。  詳細は、次回以降かな。 ■事が済むまでのこと  多