その「5キロ」が重く感じる女もいれば、軽々と持つ女もいる。

先日、スーパーで白米を5キロ買った。

精米した米は劣化が早い。独身時代は2キロしか買っていなかったが、ふたり暮らしの現在は、消費量的にも2キロじゃ割高なので、5キロを選ぶようになった(玄米は劣化が遅いので、10キロを通販で購入)。

いつもは週末に買い旦那に持ってもらうのだが、米を切らしている日に限って「炊き込みご飯が食べたい」欲求が高まり、週末まで待てなかった。

スーパーではカートに乗せるまでの一瞬しか持たなかったから、たいして重くないと錯覚していた。
だが店を出て50メートルも歩かないうちに、激しく後悔した。

横浜は海沿い以外、どこも起伏が激しい。我が家の近所も例外ではない。
スーパーから家までは、およそ500メートルの上り坂と4階ぶんの階段がある。5キロのウェイトを担いで歩けば、ちょっとしたトレーニングだ。

残暑の夕方に、米なんか買うもんじゃない。
帰宅する頃には息も上がり、汗だくになっていた。

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米の5キロは重いが、犬や猫の5キロはさほど重く感じない。なぜなら動物は抱っこされると肩や腕につかまる。荷重が腕以外に分散されるから、軽く感じるのだ。きっと子供も同じだろう。

どんな母も、自分の子を抱っこする時期は腕が鍛えられる。毎日少しずつ成長し重くなるのに比例して、母親の二の腕には子の重みに耐えるだけの「抱っこ筋」がつく。その逞しさこそが母の愛情だ。

子供ではないが、私も愛犬エディを抱っこするくらいの筋肉はついている。ただエディは太っていた時期でも4キロ弱だったので、私の抱っこ筋は新生児の母親レベルでとどまっている。要介護の老犬となった今は3キロ弱なので、5キロの米が重く感じるのも当然だ。

就学前の子供を育てている母親は、10キロ級の子供を抱える場面が頻繁に生じる。おそらく彼女たちならば、5キロの米袋などやすやすと持って帰れるだろう。
だが実際は、子連れじゃない場面が少ないので、そこに米袋ウェイトをプラスするなんて苦行はしないと想像する。私同様、旦那も一緒の休日に買うほうが現実的だ(あるいは車で運ぶか)。

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日常の中で鍛えられた筋肉は美しい。
ガテン男子の労働筋。スポーツ選手のアスリート筋。母のだっこ筋。どれも私の人生においては手に入らなかった種類の、実用的な筋肉だ。

ボディビルダーのように「魅せる」目的でつけた筋肉は、フォルム的には美しいかもしれない。
だが飾り物のマッチョな筋肉より、不格好ながら重い物を軽々と持てたり人を助けられる筋肉のほうが、ずっとカッコイイと私は思う。自衛隊やガテン系なお兄さんが相当数の女子にモテるのは、そういう理由だ。

愛する人を助ける場面など、アクション映画か天災時くらいしか発揮することはない。ただでさえ筋力の弱い私には、どれほど鍛えたところで無理な相談だ。火事場の馬鹿力でさえも、あまり期待できない。

だが、日常生活の中で実用的なレベルの筋力くらいはつけたいと思う。せめて5キロの米袋を軽々と持ち帰れるくらいには。


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