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あなたが異動する理由、異動しない理由


地方創生だDX(デジタルトランスフォーメーション)だと言われても、働き方改革や感染症拡大防止を求められても、地方公務員界隈で3月中旬になると決まってSNSのタイムラインを賑わすのが「人事異動」についての投稿。

私の職場でも3月25日前後の週に人事異動が内示されることが多く、その週には何となく職場がソワソワし始めます。


公務員にとって人事異動はルーティンです。

転職のように仕事の内容がガラっと変っても、市民や企業にご迷惑をおかけしないように、4月の最初の週からサービスのレベルを維持することが当たり前に求められます。

当たり前のことになっているのですが、転出されてしまう職場も、転入者を受け容れる職場もそれぞれ負担はありますし、何より本人は大変です。


それなのに、異動する理由や意図が明らかでは無いから、異動する本人も上司や周りの職員も、みんなモヤモヤするんですよね。


この記事のタイトルは、

あなたが異動する理由、異動しない理由

ですが、

この春にまさに異動するという皆さん
異動する部下を持つ皆さん
異動してくる部下を受け容れる皆さん

「人事異動の理由や意図って、明らかになるといいな~と思いますか?」



1.残念ながら分からない


いきなり結論ですが、
あなたが異動する理由も
私が異動する理由も分かりません。


正確には、“玉突き”などの構造的な事情での異動が大半を占め、私が今の課からあの課へ異動する特別な理由はないということです。


A課のB係長がX課の課長になって空いた穴に直属の部下C係員を昇格させて、係員一人分の穴が空いた場合。そのC係員の穴をどの部局のどの係員で埋めるかというところに、個別具体的な意味はないと考えるのが自然です。


異動の玉突き


私が勤めるさいたま市の場合1万人を超える職員のうち、半分は係員です。その何割か、恐らくは数百人~千人規模にのぼる係員クラスの異動者の一人ひとりに人事当局が個別の事情を考慮するとは考えにくいのです。(幹部クラスは事情が異なるかもしれません)

あっちの課の主査が抜けたから、
こっちの課の4年目の主査で埋めよう。
こっちの課の主査が抜けた穴は、
主任から昇格する新しい主査で埋めよう。
主査になった主任のあとには、
そっちの課の4年目の主任を充てよう。
・・・・・・。
基本はそういうことの繰返しですよね。


「あなたの異動は、AさんがB課に異動することに伴う、玉突き異動です」


こういう理由って明らかになった方がいいのでしょうか?


職員のうち一定程度の割合で“玉突き異動”の職員が必ずいることを前提に考えています。この前提を覆すには「総ての異動者に何かしらの異動させる意図が存在する」場合ですが……。

明確な理由なく構造的な事情で異動している職員が一人でもいる限り、総ての職員に個々の異動の理由を説明することは、組織として困難ではないでしょうか。


でも、理由が分からなくてもできることはあります。

それが、自分で意味付けをする、ということです。


自分で意味づけをするというのは、異動する(した)人が

「今回こういう異動をするのには
 きっとこういう意味があるんだな」

そう考えるということです。


ちなみに意味付けをする“自分”というのは、
異動する本人でもあり、
異動する本人にフィードバックをしたいと考える上司でもあります。
いずれにしても人事当局ではなく、ということです。



2.意味付けってどうするの?


「意味付けをしたらいい」

そう言われても、具体的に何をするのか分かりませんよね。

私が正解を知っていて、それをこの場で指導できるわけではありませんが、私は私なりにこんな風に考えてきました。

《環境部門→内閣府派遣》の場合
市役所の環境部門で新しいプロジェクトを立ち上げ、新しく生まれた事業をゴリゴリと推し進めているときに、急に化学技師が行くことは通常では考えられない内閣府に2年間派遣されることになったとき。

◆最初に感じたこと
・どうして急に国に? まだまだプロジェクトで課題山積なのに
・人事は化学技師の私のキャリアパスをどう考えているんだろう

◆自分なりの意味づけ
・国でただの研修員として働き化学技師という職種から自由になる
・外の空気を吸って、学び、刺激を受け公務員としての幅を広げる

このように私なりに意味づけしました。


《内閣府派遣→まちづくり部局》の場合
内閣府からまちづくりの部局に戻ってきたときは、正直、環境部門でプロジェクトをやり、国で地方創生をやってきた私が、何故“まちづくり”なんだろうって思いました。

◆最初に感じたこと
・環境→内閣府からなぜ”まちづくり”なんだろう

◆自分なりの意味づけ
・市長が力を入れているこの重要事業をなんとかせい

そんな期待を受けているんだろうと自分なりに意味づけをしていました。


自己流ですが、私なりの意味づけの手順は以下のとおりです。

◆意味づけの手順
1.今までどんな仕事を経験してきたのかを洗い出す。
2.得意なこと(ポジティブ面)を洗い出す。
3.不足していること(ネガティブ面)を洗い出す。
4.新しい部署で以下の仕事を探す。
 ①ポジティブ面を使って貢献できそうこと
 ②ポジティブ面に磨きをかけられそうなこと
 ③ネガティブ面の克服につながりそうなこと
5.新しい部署で4の①、②、③に取り組むために異動する(した)のかもしれない、と仮説を考える。

ここまでで仮の意味づけは完了です。

最初は「仮」で設定してみて、実際に新しい部署で働く中で新しい意味づけに気がついたら、どんどん上書きしてください


私が国に派遣されたのも、まちづくりの部局に帰任したのも、実際はただの玉突き異動だったのかもしれません。そうであったとしても、自ら主体的に意味を与えることが大切だと私は考えます。

それが真実にどれだけ近いかは関係ありません。

意味を見出して
納得して
仕事にやりがいを見出せること

それが大事なのです。


私は自分で意味付けをしましたが、これを異動前の所属と、異動先の所属でそれぞれの上司から伝えられると素敵ですよね。

それによって部下としては「自分のことをちゃんと見てくれているんだ」「期待してくれているんだ」と感じることができ、モチベーションもアップするはず。



3.あなたから始めたらいい


聴くところによると、民間企業では異動の際に、面談などの時間をとって上司から部下に、この異動が本人にとってどういう意味があるのかを伝えているところもあるようです。(ネット上で検索すると、リクルートなどの例が出てきますね)


これが公務員の世界でも行われるといいのに。

私は本気で思っています。


周りをよく見ていると、この異動のタイミングで部下とそういったコミュニケーションをとっている課長さんやリーダーもいるのではないでしょうか。

皆さんの周りではいかがですか?

実際にそういったコミュニケーションをとっている課長さんたちも、それが“意味付け”とは意識せずに行っているかもしれません。それでも、結果的に部下がうまく気持ちを切り替えて新しい部署での仕事にやりがいを見出せる材料を与えています。

最終的な目標は、このような意味付けのコミュニケーションが組織の公式な制度として確立することです。

ただ、それには時間がかかるかもしれません。

でも、意味づけのコミュニケーションは部下や後輩がいれば、誰でも今スグにできる行動です。

組織が変わるのなんて待つ必要はありません。


難しい知識も技術も必要ありませんが、一つだけ必要なことがあるとすれば、相手のことをしっかりと知ること


その人のことを知らずに異動の意味付けをすることは困難です。

そのために部下や後輩のことを常によく見るのはもちろん、見えない部分は問いかけて明らかにしておくこと。

日頃から相手のことをよく見て、興味を持って知ろうとしていれば、言われた本人は受け取ったその言葉を大切にしてくれるのではないでしょうか。

逆に、相手のことをしっかりと見ないで無理やり意味付けしようとすると、とても薄っぺらくなったり、的外れになってしまったり、本人を余計に困惑させることに繋がってしまうこともあるので気を付けたいですね。



4.最後に


まとめです。

あなたが異動する理由は分かりません。

でも、意味付けならできます。

こういう異動をするのには
こういう意味があるんだな

そう考えるのが意味付けです。

意味付けは自分でもできますが、上司から部下に伝えられたら、より一層本人のモチベーションアップに繋がるのではないでしょうか。
その際に大切なことは、伝える相手(異動する本人)のことに関心を持って、相手をしっかりと知るということ。

そうすれば、きっと受け取った言葉を大切にして、次の職場でも頑張って仕事と向き合えるのではないでしょうか。


臨床心理学者のフレデリック・ハーズバーグによれば、人が働く上でのモチベーション要因は2種類あると言われています。(ハーズバーグの二要因理論)

一つは衛生要因と呼ばれるものです。代表例は「給与」「福利厚生」などで、それらがないと不満足を感じるがあったとしても満足するわけではないという要因です。

もう一つは動機付け要因と呼ばれるものです。代表例は「承認」「達成感」で、それらがなくても不満を感じるわけではないあればあるほどモチベーションが高まるという要因です。

具体的な論文などを読んでいるわけではありませんが、私は個人的な経験から、
「地方公務員という職業は衛生要因が充実しているものの、動機付け要因に対する感覚が全体として極めて弱い職業である」
という仮説を持っています。
同時に、地方公務員という職業において動機付け要因に着目した人材開発や組織開発の施策を講じることのポテンシャルの大きさも感じています。

それはきっと、私が目指す

「公務員という職業を幸せな職業にする」

という目標とも強く関連しているはず。


この記事でお伝えしている「異動の意味づけ」は、官民問わず多くの皆さんが指摘する公務員の弱さである人事異動を、職員の動機付け要因を満たす機会の一つとして公務員の強みに変えられる取り組みになるかもしれません。(ちょっと大袈裟でしょうか……でも信じたい!)


誰かがその人が異動するということに意味づけをして、それを本人に伝えるということは、新しい部署での動機付けにつながる「心の栄養」だと、私は思うのです。

そして、それを上司など他者からもらうことができないなら、自分で自分の心に与えてあげたらいい


もちろん、こういうコミュニケーションが必要なのであれば職員個人の手に委ねるのではなく、人事当局が責任を持って職場に実装すべきだという考え方も分かります。

私も、その考え方には賛同します。


でも、

「人事当局が実装してくれないから広まらないんだ、だから、異動でモチベーションが下がってしまうんだ」

そう口に出してしまったら、それは

「人事当局が実装してくれなければ広まらなくても仕方ないし、異動でモチベーションが下がるのも仕方ない」

そう言ってるのと同義です。


それよりも、

「人事当局が実装してくれなくても、自分から行動して、自分が影響を及ぼせる範囲で、異動によるモチベーションの低下を防ぐ!」

私はそんな風にありたい。


皆さんは如何お考えでしょうか。


(2021年6月26日にリライトしました)



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