見出し画像

その壁に守られているのか、閉じ込められているのか

私は市役所で働きながら、2枚目の名刺を持って業務外でのNPO活動や地域活動などに取り組んでいます。

そこには地方公務員という業界に対する危機感と、人生100年時代に必要となる無形資産を構築したいという想いの2つの動機が強く働いています。

地方公務員という業界に対する危機感というのは、公務員が安定しているという先入観が幻想であることが非常に大きいのですが、そこにある最も大きな問題が、公務員という業界が社会に対して”閉じている”ことではないかと、私は感じています。

1.2つの点で“閉じている”公務員という職業

この “閉じている感じ” を私は主に2つの切り口で感じています。

一つは、仕事においてある一緒に取り組む相手が庁内や同じ行政の他団体にとどまっていて、自分たちとかけ離れた業種・業界の人と協力関係によって仕事を進めるケースが少ないということ。

市役所などに勤めていると、他の部署や国・県、他の市町村などと情報交換をしたり連携して何かに取り組むことはありますが、民間の人とは「連携」という関係性でご一緒する場面は極めて稀です。
民間企業などに対しては、発注者と受注者の関係や、行政サービスの提供者と受益者といった、一方がもう一方に対して何かを提供するような関係にあることが多く、お互いに対等な立場で、ある目的のために人やお金や知恵などの資源を出し合ったりして協力し合うことは少ない気がします。

日々の仕事において関係する相手が限定的。
それが一つ目の閉じている点。


もう一つは、人材の新陳代謝が弱いということ。

市役所に新しい人材が入ってくるのは、大半が新卒採用です。中途採用や専門的な知見を持つ人の非常勤の採用も僅かに実施されていますが、現状ではまだまだ限定的です。

また、入ってくる部分は多少なりとも実績がありますが、出ていく、つまりは公務員からの転職については、昨今増えつつあるようですが、まだまだ限定的なのではないでしょうか。

外部との人材の行き来が少ない。
それが二つ目の閉じている点。


この2つの点で “閉じている” 公務員の業界が、もっと外部に開かれたら、公務員という職業は仕事を通じて社会にもっと貢献できるのではないかと感じています。


2.組織や制度が変わるまで待てない!?

この業界がもっと開かれることで、社会により貢献できるようになるために何が必要でしょうか?
分かりやすいところで言えば、官民連携が一層当たり前になるような各種制度(契約・財産管理・予算等)や、人材の流動化が進むような人事制度(採用・育成・評価等)への転換が想定されますが、恐らく、制度やそれを運用する組織が変わるには、まだまだ時間がかかります。(最終的に変わらないかもしれません)


だったら個人としてできることをやればいい。


その中の一つが、自ら役所の外に飛び出してみること。

役所の外で自分の普段の環境とは異なる人たちと、目指すゴールを共有して協力し合う場に飛び込んでみる。

様々な立場の人と契約も共通のルールも無い状況での協働は、日頃の“仕事における人の関係性”とは異なる経験ができます。契約関係も上司・部下の関係も無い中で、意思疎通を図りながらゴールに向かうのって、本当に大変です。

でも、大変なだけじゃありません。

縛られずに貢献しようとする意志から動くとき、人の纏う熱量ってものすごくて、仕事じゃできないようなコトが実現できたりします。

やりたいからやるってやっぱりスゴイと思える瞬間です。


また、そういった役所の外での経験は、役所ではなく広く社会における自分の人材としての価値を見積もる機会になります。他の業界の人と一緒に活動することで、自分にもここまでできるんだという気づきも得られます。

その経験自体が自分のスキルやリーダーシップ向上につながり、人材としての価値向上にも繋がるかもしれません。


更に、これが最も重要だと思うのですが、外で経験したことを役所の組織に還元することで、役所の組織に新しい知見や概念が持ち込まれるキッカケを作ることができます。こういったことは、法政大学の石山教授の『越境的学習のメカニズム』でも “ナレッジブローカー” という概念として紹介されています。


3. 組織のためではなく自分のために

誤解を恐れずに言えば、役所の外に出て経験を積むのは、組織や地域のためではなく、自分のためにやればいいと私は思っています。


何故なら、外に飛び出す公務員が日頃の業務で組織や地域のために頑張っているのだとすれば、その職員自身が経験を積み、幸せに働くことが、組織を力強くし、地域に貢献することに繋がるからです。


じゃあ、どういう風な気持ちで役所の外で活動するのが、職員自身のより豊かな経験につながり、組織に持ち帰るものをより大きくするのかと言ったら、それはやはり自分自身のために自分自身がやりたいことをやるときだと思うんです。

はなから組織のため地域のためという意識で役所の外に飛び出して活動するよりも、自分のために自分がやりたいことをやる方がパワーが出ます、追い込まれても頑張れます。その結果、より充実した経験が得られる気がする、というのが私の経験上の実感です。


4.何のために閉じるのか(最後に)


“公務員は、
 公務員になった瞬間から、
 毎日どんどん公務員になっていく”

私が公務員の越境(業務外で様々な経験をすること)をテーマにお話させていただくとき、お伝えするメッセージの一つです。


私はここ何年か、役所の外の公務員の友人が増えて一緒に活動する機会があったり、NPOなどで民間の人たちと一緒に活動する機会も増えてきました。

そこで感じるのは、本当にこういう外の世界を知ることが出来た自分は運がいいな、幸せだなっていうこと。

そうでなければ私はとっくの昔に、すっかり普通の公務員として過剰適応して、タコツボに籠もる内向きな公務員になっていたかもしれません。


公務員の閉じた世界に籠もり、外の世界を知らずにいたらどんな人生を送ることになったのだろうと考えると、最初に私の手を引いて外の世界に連れ出してくれた先輩には本当に感謝しています。


この公務員の業界が閉じているという感覚は、喩えるなら堅牢な城壁の中で過ごしているような感覚。

その中は一見すると安全なように見えます。そして中にいる人も、外から見る人も、公務員という職業は安定しているという幻想を見ます。

でも、これまで堅く丈夫な岩盤だと思っていた足元の地面は、実は柔らかく安定しない軟弱地盤に変わりつつあることを、みんな薄々感じているのです。

役所が基盤とする社会の前提が変わってきているのです。


そのとき、閉じているこの堅牢な構造物は、中の人を守る城壁ではなくて、中の人を閉じ込める牢獄にもなりえます。

本当にこのまま、プリンのような地面の上に重くて堅牢な構造物を維持する努力を続けるのでしょうか。


全員で構造物の外に出れば、構造物の外での一人ひとりのつながりそのものが役所になり組織になり機能になります。

幸い、今なお維持されている堅牢な構造物も、外の様子が分からなくて外に出ようとする人が少ないだけで、実はカギは閉じられていません


外に出ることは自由。
外に出るのに必要なのは意志だけ。


私はそんな風に感じています。


皆さんは、如何お考えですか?


この記事はアメブロ時代の記事「その壁に守られているのか、閉じ込められているのか」(2018年03月24日)をリライトした記事です。


★ご案内★

2021年2月に初の著書を出させていただきました!

主に若手公務員を対象に「公務員が充実した気持ちでイキイキと働くことが、住民の幸せにつながる」という信念のもと、「自分の人生のハンドルは自分の手で握ろう」というメッセージを込めて書かせていただきました。

そのあたりのことは、こちらの記事でもお伝えしています。

よろしければお手に取っていただけたら嬉しいです。

また拙著に関連する記事はこちらのマガジンにまとめて掲載していますので、併せてご覧ください。


★連絡先★

原稿の執筆や勉強会の講師、仕事や働き方のお悩み相談(キャリアカウンセリング)等のご相談・ご依頼については、下記のフォームからご連絡ください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?