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スタディ通信 24年6月号

スタディが終わって気がつけば2週間以上経っていますね。何を話したのか、話した当人ももう忘れています。
シラバスと資料を見返せば思い出すのですが、今回はいつものスタディ通信のようなミーティングのふりかえりではなく、ちょっと茶飲み話でもしようと思います。



この3年半

『諸相』スタディが始まったのは20年11月です。なので、もう3年半もやっていることになります。
始まった当初はひと月ほどで終わる予定だったので、長期プランは考えていませんでした。しかし様々な事情が重なってやめられなくなり、長期プランを立てる必要に迫られたのでした。
そんな時、私が長期プラン(長期といっても数年ですが)として構想したのは「相対主義と決別する」ということでした。

私は19年にAAにやってきて、すぐにコロナ禍になりました。
なので緊急事態宣言の20年などは身動きがとれないので、オンラインでB2Bをやっていました。そこで直面した問題が「相対主義」です。

ここで言う相対主義とは、AA内に蔓延っている「回復は人それぞれ、すべてが正解」といった姿勢のことを指します。私はこういった一見優しそうな考え方に猛烈な違和感を感じつづけていました。
「いや、すべてが正解って言っても、スリップして死ぬのも正解なのか?」と疑問だったからです。死んでいった人の顔は何人か浮かびますが、彼らの死を「正解だった」と言う悪趣味な蛮勇は私にはありません。まぁ、言う奴がいれば私は怒鳴りながら激怒すると思います、「馬鹿にするな!」と。

・・・

さて、そのような疑問を持ちながらB2Bなどをやっていましたが、どうにもこうにも運営や進行が上手くいかないという事態に陥っていました。
B2Bは参加者がそれまで持っていた「12ステップ」と「回復」のイメージや信念を否定し、新たな回復概念や12ステップのイメージを獲得するために有用なツールです。つまり、今の自分の考えを否定するための道具なのです。

そこまでは分かっていたのですが、運営や参加者からの話しあいや質問に「それもいいのではないか」「間違ってはいないと思う」などと、腰の引けた対応しかできませんでした。
本来はB2Bの理念と有用性に照らして間違っているものは「それはおかしい」「それは有害なのでやるべきではない」などと指摘するのが私の仕事だったはずなのに、それができない。自分の評価を気にする私の自己中心性や、12ステップ理解の甘さがそれを阻み、私自身が相対主義に堕落してしましました。

情けなさや無力感で、もうヘソでも噛んで死にたかったのを覚えています。


そんな思いを抱えながら『諸相』スタディをはじめたので「自分で作ったミーティングではなんとしても相対主義に陥らない。相対主義に対して一歩も引かない、引くくらいなら死にたい」と思いました、マジで。
なので、この3年間はいかに「自分の演じるべき役割を演じ、自分の演じたい役割を演じないか」にこだわりつづけることになったのでした。

スタディにおいて運営側が演じるべき役割は、参加者の現在の信念を否定するための情報を提供する役割です。
だいたいスタディに来る人なんてどん詰まりに突き当たって動けなくなっている人なので、その人に「あなたはそのままで良いんだよ」なんて決して言ってはいけません。スタディの運営は「あなたは今のあなたが大事に持っているその信念を捨てなければ、次には進めない」と宣告する殺人者的役割です。

しかしこの役割、確実に嫌われます。好かれはしません。
まぁ好かれる時もあるのですが、それは私を都合の良いハイヤーパワーに仕立てて自分の回復を着飾りたい人からです。
そして大体、そういう人は私に幻滅して(こいつは神じゃなかった!)恨みながら去ります。いつまでその白黒思考すんの?と思うほどに、スペシャルワンパターンですな、HAHAHA。


そんなクソ面倒くさい役割はできりゃ演じたくないのですが、スタディをやるなら避けて通れません。演じることができなければ、相対主義という八方美人にすぐに堕落してしまうことは確実。
そうなったなら、スタディなんてやめるべきです。害悪なので。

その役割の基本形を今年6月のスタディでやっと掴みました。「これだよこれ、これをやりたかったんだ!」と実感しましたね。長かった、さすがに3年半は短くなかったです。
思えばTwitterやミーティングで「いかに自分が回復者であると見られたがっている先逝くロングソーバー(笑)を激怒させる技術を身に付けるか」という武者修行から始まり、いかに相手の信念を否定するかという攻撃力を磨く日々でした。
なんつーか、そのプロセスの中で「人間」を学びましたね。


しかし、相対主義に対して鋭い対決姿勢をとり続けるだけではAAグループの運営はできませんし、あまりに闘いばかりの貧しい営みになってしまいます。それじゃ、ただの独りよがりでしょう。
そんな血で血を洗う、万人に対する独りの無益な闘いを避けるために、私たちはナシーム・ニコラス・タレブが『反脆弱性』というテキストで主張する「バーベル戦略」を採ることにしました。
バーベル戦略とはどのような戦略か、タレブの説明を引用します。

バーベルとはどういう意味か? バーベルは、ウェイト・リフターが使う両脇に重りのついた棒だ。極端なものが両方にあり、中央には何もないという組み合わせを表している。本書でいうバーベルは、必ずしも対称ではない。ただ、両端に極端なものがあり、中央には何もない状態を指す。より専門用語っぽく、「二峰性戦略」と呼ぶこともできるだろう。中央に山がひとつあるのではなく、別々の山がふたつあるからだ。
私は当初、ある分野では安全策を取り(つまり負のブラック・スワンに対して頑健で)、別の分野では小さなリスクをたくさん冒す(つまり正のブラック・スワンの余地を残す)ことで、反脆さを実現する、という二重の考え方を表現するのに、バーベルのイメージを使った。この戦略では、一方で極端なリスク回避を行い、もう一方では極端なリスク・テイクを行う。一方、単なる"中間"のリスク・テイクや"中程度"のリスク・テイクは、実際には負け試合であることが多い(中程度のリスクには大きな測定誤差が生じうるからだ)。ところが、バーベル戦略は、その構造のおかげで、ダウンサイド・リスクを抑えるのにも役立つ。つまり、破滅のリスクをゼロにできるのだ。

タレブ(2017) : 269

『諸相』スタディは100冊以上の安くはない専門書を購入し資料庫を作り、またミーティングを支える機器類やホームページやSNSなどのサービス類を複数組み合わせて、できる限り堅実に整備・運用しています。また運営内部での情報伝達を確実にする仕組みの構築や、運営のマインドセットにもかなりの時間と労力と費用を使ってきました。
こういった重要なポイントに、グループ全体で100万円ほど使いました。タダでAAグループ、特にスタディを行う特別グループなんかできません。

これらは数ヶ月や数年でできるものではないので、凡百のAAグループにこの点の有用性を追い越されることはありませんし、易々と崩されるようなものでもありません。さまざまな攻撃や変化があっても、たいてい耐えられます。

同時に、ミーティング内外での私の振る舞いは極端なリスクがあるものです。AAメンバーという自己中心性豊かな過敏症メンヘラちゃんたちの中で爆弾投げてりゃ、そりゃ高リスクです。みんな恨みがましいし。

つまり、この低リスク・安定戦略高リスク・不安定戦略の両輪を同時にまわすバーベル戦略がこの3年半の私たちの実践だったということです。
安全と安定と言う名のぬるま湯に浸かり続けて、冷めきったぬるま湯で凍死するグループも多いです。また、あまりに高リスクな賭けに出て墜落するグループもあります。
私はそのどちらも関わる機会があり「ああなったら飲んで死ぬんだな」と学んだので、そのどちらでもないバーベル戦略を採用したのでした。この戦略は攻守のバランスが良く、柔軟かつダイナミックな動きを可能にしてくれるので気に入っています。

・・・

タレブに従いバーベル戦略をずっとやってきましたが、無駄にしたチャンスも多いですが得られた成果も大きなものです。
まず、『宗教的経験の諸相』をAAのゼネラルサービス機構を一切頼ることなく講義していくという無謀な挑戦が3年半も続けられたことそのものが大成果です。今後『諸相』スタディがAAグループとしては滅びるとしても、存在した事実はAAの経験として、未来に残るでしょう。

そして、相方のぺー氏を始めとするスタディやビッグブック派の新たな担い手も育ちました。私の無茶苦茶かつ暴力的な手法に耐えてくれたのだから、これから独り立ちしても立派に失敗しながらやっていけるでしょう。
また、日本のビッグブック派のネットワーク作りにも少しは貢献することができました。『諸相』スタディは目立つ灯台みたいなもんなので、便利ですね。

そしてなにより、12ステップの哲学的・思想史的・神学的な理解を深め、その歴史性を示すことも少しずつできるようになってきました。
シラバスも完成しましたし、今後はもっと歴史と思想史に踏み込んでミーティングでのどうでもいい自分語りという抽象的かつ理屈っぽいおしゃべりに基づく12ステップ像ではなく、「生きられた人間の歴史のなかの12ステップ」を示していける準備が最低限整いました。


まぁ、神の助けがあれば、今後も私たちは『諸相』スタディという上記のような12番目のステップを続けていけるでしょう。
そして私たちも永遠に生きられるわけではないので、いつかこのプロジェクトも滅び、終焉を迎えます。しかし私たちが歩んだ道のりという事実は存在しつづけますし、AAの回復の原理も求める人がいる限り存在しつづけるでしょう。

私たちがいなくなった未来で「○○年前に『諸相』スタディというAAグループがあって、そこが残した回復に役立つ資料があるから見てみよう」なんて、誰かに思われたら嬉しいですね。

では、また来月。

参考文献

タレブ, ナシーム (2017) 『反脆弱性(上)』 望月衛 監訳, 千葉敏生 訳, ダイヤモンド社


リンク

これまでのスタディ通信の一覧はこちら。


『諸相』スタディのシラバスやスケジュールなどは、下記公式サイトを確認してください。