人生初めての小さな挫折

皆さんは人生で初めて挫折したのはいつですか?

私はほんの小さなきっかけですが、
あの時、あの場所、あのタイミング。
そしてあの時の気持ち。

今でも、よく覚えています。



***

あれは小学生の頃でした。

当時習っていたバレエは、4歳から習い始めて数年目。
舞台も何度か経験し、教室ではちょっとお姉さんになった頃。

一生懸命レッスンをしてきて、名指しで怒られることもなく、それなりに先生に評価されているという自負がありました。

その自負のウラで…

(ちょっとくらい手を抜いても、バレないんじゃない?)

そんな邪な考えが、少しずつ大きくなっていたのです。



今思うと本当に浅はかだと思います。

でもがむしゃらに頑張るより、さらっとこなしている方がかっこいい、そんな気がしていたんです。

年下の子たちは、まだできないから注意される。
でも自分は注意されない。

ちゃんとレッスンには参加している。
みんなに遅れもとっていない。

相変わらず、周りの子は注意される。
厳しい声も飛んでくる。

私には特に何も問題はない。
レッスンは淡々と過ぎてゆく。

発表会も何も控えていない時期。
基礎練習が続く日々が、マンネリ化していたのかもしれません。
私はレッスンを”適当に”こなすことを覚えてしまいました。




***

しばらく経ったある日のレッスン。
私は明らかな"失敗"をしました。

先生の前で踊って見せた動きは、
自分でも分かるくらい、ひどい出来でした。

そして、それが慢心ゆえの失敗であることも、
自分ではうっすら気づいていました。


これは流石に怒られる…

そう覚悟しました。
けれど、激しい雷は落ちてきません。

聞こえたのは年下の子達を褒める言葉だけ。
私は見向きもされませんでした。


その後もレッスンは淡々と進みます。

もともとあまり褒めるタイプの先生ではなかったけれど、どこを改善すべきかという助言は積極的にしてくれる先生でした。

その先生が、何も言わない。

目も合わさない。

私は独り、怯えました。


できているから何も言われなかったんじゃない。

私が手を抜いていること、適当にこなしていること。
全てお見通しだったんだ。

年下の子達ばかり檄が飛ぶのは、できなくても頑張る気持ち、もっと上手くなりたいという気持ちが、強く表に現れているから。

先生はその気持ちに応えようと、また檄をとばす。

レッスンでは、そんな気持ちと気持ちのキャッチボールが行われていたんです。

なのに、私は勝手にグローブを置いてしまった。
先生がボールを投げてくれても、取りにいこうとしない。
飛んできたことさえ気づかなかったボールも、気づけば沢山転がっています…

私は先生に見えない角度で、こっそり目を擦りました。



それから私は自問しました。

自分はこのままでいいのかな?
いやよくない、絶対に。

このままバレエを辞める?
辞めたくない、踊るのが好きだから。

じゃあどうしたいの?
先生にこっちを向いて欲しい。
もっと私を見てもらいたい。

これからどうするの?
ちゃんと私の気持ちが先生に届くように踊る。
本気の姿勢を見せて、もっと上手くなりたい。

先生が思わず目を引くくらい、全力でやる。
そう心に決めました。

時間にしてはほんの数十秒。
でもこれが私にとって、大きなターニングポイントとなりました。





***

その日のレッスン終わり、先生に呼び出されました。
私をじっと見つめて言います。

「さっき、泣いていたでしょう?」

(えっ、…)

私は黙って俯きました。

「それでいい」

先生はそれ以上語らず、にっこり笑いました。
ようやく絞り出した声はか細くて、それでもなんとか「はい」と答えた私は、肩を震わせて泣きました。

先生は見ていた。
こんな私でも見てくれていた。

自分はなんてバカだったんだろう…

先生だけじゃない。

汗を流して頑張る仲間たちにも。
いつも応援してくれる両親にも。

私の態度は、失礼極まりないものでした。

仲間と切磋琢磨できることに感謝。
レッスンに通うためにサポートしてくれる両親に感謝。

どちらも先生から、常々言われていたことです。

頑張ろう、もっともっと頑張ろう。
もっと上手くなる。素敵なダンサーになる。

夕日のさす稽古場、私は心に決めました。





***

その後、私は18歳まで踊り続けました。

舞踊歴14年。
コンクールには出ていなかったけれど、「やると決めたことをやり通す」という意味では上出来だったと思います。

あの時腐ってしまわなかった私、偉かったよ。
そう小さな私に声をかけました。

先生はたくさんの生徒を抱えていたから、覚えていないかもしれません。

あまり褒められた覚えもないけれど、いつも私をよく見てくれていたこと、暖かく包んでくれていたこと、感じていました。


あの時、あの場所、あのタイミングで。
先生のもとで小さくポキッと。
挫折させてくれて、ありがとうございました。

それでいい、と言ってくれた時の笑顔。
今でも脳裏に焼き付いています。

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