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The 2018 NAMM Showで考えた2つの「ハイブリッド」~デジタル・アナログ、そしてプロと教育~

しくみデザインの中村俊介です。今年もNAMM ShowKAGURAを出展してきました。そこでNAMM Showでの出展、そして会場をうろうろして見たこととか考えたことを書いてみます。

KAGURAとは?

KAGURA」は”すべての人に演奏体験を” を目的に開発した、誰でもミュージシャンになれるソフトウェアです。身体の動きを使って、今までにない自由な演奏スタイルを実現しています。PCとカメラさえあれば、あとはアプリをインストールするだけ。WindowsにもMacにも対応しています。

NAMM Showは楽器や音響機器に関する世界最大のトレードショーで、例年1月末に米国カリフォルニア州のアナハイムで開催されています。トレードショーなので一般向けではなく、音楽業界関係者やメディア、アーティストが世界中から10万人以上、アナハイムに集まります。

去年はNAMM Showへの出展ノウハウを書いた「KAGURA出展編」と会場で見たことを書いた「会場うろうろ編」の2つに分けて記事を書きました。ただ出展ノウハウについては今回もあまり変わらない感じでした(今年はちゃんとディスプレイは現地調達しましたよ)。なので「出展ノウハウが気になる!」という方は「KAGURA出展編」もあわせてお読みください。去年の記事でも参考になると思います。

今年のNAMM Showで発表したこと

NAMM ShowへのKAGURAの出展は今回で3回目。昨年はKickstarterでのクラウドファンディング終了直後の出展で、NAMM ShowではKAGURAの一般販売の開始を発表しました。そして今年はKAGURAでの演奏に特化した「KAGURA Player」のリリースと、KAGURA Proの無料体験版で試せる機能の大幅拡充を発表しました。

KAGURA PlayerはMicrosoft StoreMac App Storeから無料でダウンロードできます。リリース直後に早速ダウンロードしてTwitterで紹介してくださった方もいらっしゃいました。こういうの、すごくうれしいです!

いろんなジャンルの音楽をプリセットソングとして準備していますので、まずはKAGURA PlayerでKAGURAでの演奏を体験してみてください。

新プロダクトの発表をしたこともあって、メディアも今回の出展をとりあげてくれました。

日本のメディアだと藤本健さんのDigital Audio Laboratory(AV Watch)に取り上げていただけましたし、『サウンド&レコーディング・マガジン』誌やサウンドハウスさんのソーシャルメディアにも掲載してもらえました。

そして今年は中国のCCTVワシントン・ポストなど、海外のマスメディアに映像で取り上げられたことに手応えを感じました。CCTVはテレビ局なのでウェブだけでなく中国全土に放送されたようです(友人がFBで教えてくれました)。

……と宣伝はここまでにして。ここからは今年のNAMM Showで考えたことを書きつづってみます。

規模が拡大した今年のNAMM Show

KAGURAは今年もMMA(米国のMIDI規格団体)のシェアブース内に出展しました。去年は地下の小さいブースが集められたエリアだったのですが、今年はメインエントランス入ってすぐ、というすごくいい場所に配置されました。例年以上に海外メディアにも取り上げてもらうことができたのは、これも理由だった気がします。

右下の赤枠がMMAのブース。周囲には名だたる楽器メーカーのブースが。

今年の感想としてまず言えるのは「広くなったな……」ということでしょうか。会場のアナハイムコンベンションセンターはそもそも広いんですが、2017年にアナハイムコンベンションセンターの北に新しいビルが完成し、今年のNAMM Showは過去最大級の展示面積での開催になったとのこと。さらに今年は世界中の音響技術者や研究者の団体であるAES(Audio Engineering Society)がNAMM Show内で大規模なシンポジウムを開催していたこともあいまって、プロオーディオ機器の割合が増えていた気がしました。ただ来場者が増えたか、と聞かれると、増えたのかもしれないな、くらいの感じでした。

NAMMは普通のテクノロジーショーではない

テック系ネットメディアが増えたおかげで、日本にいながらCESSXSWIFAMWCなどの海外の展示会のニュースに触れることが増えました。そういう中でNAMM Showに出展してきたという話をすると、かなりの確率で「やっぱりAIとかIoTとか、そういうテクノロジーでいっぱいでしたか?」とか「楽器のテクノロジートレンドってなんでしたか?」ということを聞かれるんです。

ただ、NAMM Showはテクノロジーショーではなく、あくまでも楽器の見本市。もちろんデジタル楽器やDJ機器、DAWなどの展示も割合としては大きいし、KAGURAはまさにその分野の楽器なんですけど、ただメインはやっぱり鍵盤とか弦楽器とか管楽器、打楽器など、トラディショナルな楽器なんです。日本でNAMMを取り上げるメディアにデジタル系が多いからか、実際に現地に来るとそのギャップにちょっとびっくりします。

とはいえ、まったくテクノロジーと関係ないか、というと、もちろんそんなことはありません。音楽とテクノロジーは切っても切り離せない関係なのは言うまでもないですよね。

そういう視点で今年のNAMMではっきり見えたのは、デジタルとアナログの融合が進んでいることでした。これはノスタルジックなアナログ回帰というわけではなく、一度デジタルに大きく揺れた楽器たちが、またアナログの要素を取り戻すことで進化しているということです。

例えばシンセサイザー。シンセサイザーと聞くとデジタルなイメージが浮かぶ方も多いと思いますが、初期のシンセサイザーはあくまでもアナログ電気回路で音を作り出すものでした。そしてその電気回路をデジタル部品で実現できるデジタルシンセサイザーが登場し、今はパソコン上で音作りをするソフトウェアシンセサイザーが主流になりました。まさにアナログからデジタルへの移行を突き詰めた変化です。

それが、去年のレポートでモジュラーシンセサイザーのコーナーができていた、と書いたようにアナログシンセサイザーの人気が上がっており、今年はさらに広くなっていました。

そして今起きていることは、それぞれのいいところを活かしたアナログとデジタルのハイブリッド。

アナログ→デジタル→ハイブリッド

デジタルのいいところはいつも同じ結果が出ることと、それを保存して繰り返すことができること。アナログシンセだと回路が温まるまで思ったとおりの音が出ないということもありますが、デジタルだとそんなことはありません。しかもデジタルだと比較的安価に作ることができます。ただアナログならではの微妙な揺れや絶妙なノイズを再現しようとするのはなかなか難しい。これまではそれを頑張ってデジタルで突き詰めてモデリングしようとしていましたが、「だったらそれ、アナログ部品でやればいいんじゃない?」と考えるようになってきたわけですね。

今年もお隣のブースだったキッコサウンド(Bluetoothでモジュラーシンセサイザーをコントロールする製品「mi.1」シリーズを出展)の廣井さんにお話を伺ったところ、ソフトシンセサイザーの会社が物足りなくなって(!?)ハードウェアを出してみたら人気がでちゃったという例もあるそうです。

キッコサウンドの廣井さんとFM音源シンセ「DXi」の開発者の水引さん

せっかくお隣なのでコラボレーションをしてみました。KAGURAをインストールしたMacをBluetooth MIDIで「mi.1e 2|6」と接続して、KAGURAのアイコンにMIDI noteナンバーをアサインして、体の動きでモジュラーシンセをコントロール!

動画も撮ったのでぜひ見てください。

こんなこともできるんですよ、KAGURA。

このデジタルとアナログのハイブリッドは、DJ機器やギター、エフェクター、そしてドラムなどにも見られるトレンドだと感じました。アナログレコードに針を置いて、PCから音を鳴らしたり。そうそう、スティックを振るだけで鳴らす「エアドラム」もありました。

そしてもう一つ、大きく感じたことは音楽教育への期待でした。

音楽を嫌いになる前に楽しさを教えたい

KAGURAのブースにはいろいろな人が足を止め、実際に演奏を楽しんでくれました。そんななかで特に熱心にKAGURAに興味を持ってくれる人として音楽教育に関わる人たちがいます。米国では教会が大きな市場規模を持っていて、楽器産業も例外ではありません。教会で子どもたちに楽器を教えるためのプロダクトもNAMM Showにもたくさん出展されています。

今年は特に、KAGURAを子どもの音楽教育に使いたいといってくださる人が多かったように思いました。例えばブルースを教えているという先生は、リズムの作り方を体の動きで教えられる! と大興奮で2日連続で来てくれました。

音楽の先生はたぶんそれぞれ何かの楽器を人に教えられるくらいにマスターしているはず。ミュージシャンとして音楽を教えている人もいますよね。そういう先生たちって自分がマスターした楽器を教えたがるんじゃないか……と普通は考えてしまいそうなのですが、実はそんなことはないみたいです。

KAGURAのブースに足を止めてくれた先生たちが口をそろえて言うのは「まずは音楽に興味を持ってほしい。そのためにKAGURAが使えるんじゃないか」ということ。これまでの音楽教育だと途中で投げ出してしまったり、音楽を嫌いになってしまったりする子どもも多いので、まずは好きになってほしいっていうことなんですね。

そしてこれは僕もまったく共感するところです。まずは音楽を好きになることが大切で、楽典や具体的な楽器の演奏はそのあとでもいいと思っています。いろんなところで言っているのでご存じの方も多いかもしれませんが、僕は楽器が全く弾けず音楽もわかりません。そしてそんな僕でも音楽が演奏できるといいなという思いから作ったのがKAGURAなんです。(あ、KAGURAは演奏できるので全く楽器が弾けないは嘘でしたね(笑))

そういう視点で個人的に注目したのは、子ども向けシンセサイザーのBLIPBLOX

「とにかく面白いから、音出してみて」という雰囲気

これはICONさんも記事にしているので、詳細はその記事とか公式サイトをご覧いただければと思います。BLIPBLOXは見た目はおもちゃっぽいけど、ちゃんとしたシンセ。オシレーターからフィルター、そしてアンプとシンセサイザーでの音作りができるようになっています。スピーカーも内蔵されているし、プリセット済みのシーケンサーとドラムセットもついているので、すぐにパフォーマンスまでできちゃうのがいいですね。肝心の出音もかっこいい。

そしてBLIPBLOXの一番気に入ったところは「教育!」って感じがしないところ。「これがオシレーターで、LFOでフィルターかけて、そしてアンプで……」みたいな説明がばっさり取り払われているんです。あるのは信号の流れを示す矢印だけ。とにかく触ってみたら音が出て楽しいって雰囲気が素晴らしい。

そして、たぶん逆にこれが教育にはちょうどいいんですよね。まずは音を出して楽しい!ってところからスタートして、いろんなつまみをぐるぐる回しながら音が変わっていく様子を聞いて、そしてそれぞれのつまみの役割を探っていくことから学びがあるはず。そしてそこに熱中が生まれるはずなんです。たぶん外から見ると努力とか勉強に見えるのかもしれないけど、ハマった子どもからすれば面白いから熱中してるだけ。これがクリエイティビティの源泉なんですよね。

BLIPBLOXとKAGURAはアプローチは違うけど、誰でも演奏できて「楽しい!」って体験を生むことができる点では同じ。そして本格的な音楽作りができることも同じ。今年はKAGURAも子どもたちが音楽を学べて、そして好きになれるようなツールとしても使えるような方法を作っていきます。KAGURAはプロのパフォーマンスとして、そして教育ツールとしてのハイブリッドを目指していきたいと考えているところです。

まずはその実験として2/11(日)に福岡で子ども向けのKAGURAのワークショップを企画しました。おかげさまで募集をスタートしてからすぐに締め切りになってしまいました。あまりにも希望者が多かったので、3月にもワークショップを企画中です。

そして来月はSXSW Edu。ここでも新しい発表を予定しています。そのためにしくみスタッフはフル稼働中。楽しみにしていてくださいね!

おまけ

音楽コンシェルジュのふくりゅうさんから教えてもらった、アメリカでしか売ってない音楽ゲーム「DropMix」をお土産に買って帰りました。音楽をリミックスしていくカードゲームなんですが、これは気持ち良くて楽しい。KAGURAの展開のヒントになりそうです♪

しくみデザインとは?

しくみデザインは福岡のデジタルとクリエイティブの会社です。街中や施設にあるデジタルサイネージを作ったり、アイコンに触るように動きで音楽を奏でられる新世代楽器「KAGURA」やiOSで動くビジュアルプログラミングアプリ「Springin’(スプリンギン)」などを開発しています。

株式会社しくみデザイン ウェブサイト
http://www.shikumi.co.jp/