終わったんだよ、私チャン達の戦争はさ....

西暦2021年7月5日

首都〈神浜〉市より北に○○km、宝崎市近辺の海岸線。

それは正規軍にとって最後の組織的戦闘だった。

前月22日をして実施された空爆により戦力の約30%を消失。敵軍第一上陸地点に展開した国防地上軍第一師団は敵海軍陸戦隊3個師団及び陸軍2個機甲師団に対し絶望的な防衛戦を繰り広げていた。

 海上から次々と上陸する「八一」と書かれた赤星の軍章が描かれた洋上迷彩塗装の水陸両用戦車や歩兵戦闘車、続いて接岸したLCACKや戦車揚陸艇からはライトグリーンのウッドラントパターン迷彩がほどこされた99式主力戦車A2型が上陸してくる。それらを盾に前進するはグレーとグリーンが混じったデジタルパターンの迷彩服とヘルメットに95式ブルパップ・ライフルを装備した兵士たち。

 この国の植生に適しない塗装を施された戦闘車両軍と迷彩服を着た集団は洪水のように、国防軍第一師団が展開する最終防衛戦に殺到した。

迫り来る人民軍の機甲上陸部隊に対し、国防軍ーこの国の植生に合わせたウッドラントパターンの迷彩がほどこされた戦闘服、戦闘車両の一団の寡兵は素人目にも明らかだった。

 塹壕から国防軍の兵士たちが機銃で応戦するがその勢いを止めることは出来ない。

『敗軍が局地的に再編成され阻止線を張る絶望的な戦闘』

と、皇国国防軍第一師団の戦闘詳報はその最後のページで伝えている。

 防御正面 kmの戦力が1個中隊という寡兵では雪崩を打つ人民軍に抗すべくもない。

 家族の為でも、隣人の為でも、ましてや国家の為でもなく兵士たちは自分の生命のために戦う他なかった。

 たとえそれに何の意味もないとしても......。


 旧ソ連式の戦車帽にグリーンとグレーを基調としたデジタルパターンの迷彩服。

戦車長「1時の方向、目標敵戦車、レーザー照射......距離1200」

砲手「徹甲弾装填...弾道計算ヨシ」

首都《神浜》よりわずか  km

皇国 日ノ本の命運はここに窮まった。

125mm滑空砲より放たれた附翼安定徹甲”APSFDF"が歩兵の直協支援を行っていた国防軍の10式戦車に命中。続いて戦車数両から榴弾が一斉に放たれ、そのうちの1発が国防軍第34歩兵連隊第6中隊の本部を直撃した。

 砲弾が炸裂し爆風と無数の破片が兵士たちを襲い、その肉体を引き裂く。瞬く間に使者と負傷者で埋め尽くされる本部壕。

 右腕がちぎれる寸前で、左の脇腹に穴が開いた兵士が地面に転がりながらもかろうじて動く左手で右側にあおむけに横たわる通信兵が背負った無線機の受話器を取った。

「こ...こちら第6中隊.....」

つなっがった先は連隊本部だった。

『第6か!?誰が指揮している⁉』

何とか気力を振り絞ってこたえる

「ちゅ.....中隊長は戦死。現在は木下中尉......、だがもうオシマイだ。敵機甲部隊依然侵攻中....」

無線は既に混線状態を呈していた。

『連隊本部も交戦中!。増援は不可能!何とかしてくれっ!!』

『中隊は壊滅。戦力が消め..../『兵站本部か!?弾がない!弾が!!ここに持ってこい!!』

『突破された!第34区から敵戦車、内線に侵攻中!』

『敵の数が多すぎる!戦線を維持できない!後退を許可されたし!!』

『へッ!命令を文書にしてくださいよ。冗談じゃない!!』

『中尉⁉どうした中尉!!』

人民解放陸軍第691装甲狙撃連隊第1中隊先鋒

 先頭を行く99式戦車の車長兼中隊長がハッチから身を乗り出し前方の敵陣を見ながら、通信機のマイクを握り指示を出していた(車内のモニターや戦術ネットワークを使った指示もできるがこの指揮官は目視により直接指示を出すことを好んでいる)。

「正面の敵塹壕を攻撃する!発煙弾発射‼」
避弾経始を考慮した形状の砲塔左右に設けられた発煙筒から複数の発煙弾が前方に向けて発射される。
 缶を思わせる発煙弾が煙を吹きながら地面に転がると瞬く間に煙幕を展開し塹壕の兵士たちから視界を奪った。
 煙幕の展開を確認した中隊長は双眼鏡を除きながら次の指示を出した。

「フェイ少尉、任せたぞ!」

 塹壕から迷彩覆い付きの鉄帽(てっぱち)を被った頭を出し、同色のグローブを履いた両手でサーマル機能付きのスコープで前方を監視していた兵士が警報を発した。

「煙幕を張りやがった!来るぞっ」

スコープ内に人影が浮かび上がる、歩兵にしては小柄で輪郭がゴツゴツしていた。それが複数、しかも動きが速い。これはまさか……?

兵士たちの嫌な予感は的中した。

 煙から飛び出してきた複数の敵兵。

 それを見た兵士たちは口々に言った。

「敵魔法少女(MS)隊急速接近‼」

「クソ!撃てっ撃ちまくれ‼」

『魔法少女』というファンシーな響きとは真逆の装いだった。どちらかと言えば、コミックやゲームに登場する少女型の戦闘用アンドロイドと言った方がしっくりくる見た目だった。デジタルパターンの、ウェットスーツや競泳水着のような少女たちの未発達なボディラインがはっきりとわかる素材のインナースーツ。さらにはそんな少女たちの身体にもしっかりとフィットした胸、肩、二の腕、腹部には関節に配慮して装甲が腹筋の割れ目のようにブロック化されている。

塹壕から機関銃”MINIMI"や小銃による突撃阻止のための銃撃が加えられるが、全身を覆うプロテクターと重量のある火器を携行しているとは思えない素早い動きの為、ほとんど当たらない。当たったとしてもプロテクターや左手に装備している防循に弾かれる。

*****

士官学校を出たばかりといった感じの若い少尉が言った

「ここはもう駄目だ軍曹!後退しようっ!」

「退くって何処へですか少尉殿?《神浜》にでも?俺たちが最終防衛戦ですよ」

少尉は押し黙った、軍曹が続ける

「ここを抜かれりゃ後はがら空き、少尉殿、俺たちが最終防衛戦ですよ!」

少尉は塹壕の外に迫る圧倒的多数の敵軍を見ながら

「しかし.....見ろ!味方の戦車は!?120mmはどこに⁉空軍はどうした!?機甲師団を相手に歩兵が何の役に立つ!?」

「糞ッ!!」

少尉の言う通り自分たちではどうにもならず、かといって後退するわけにもいかない。

軍曹は毒づいた。

「こんなところで死んで―」

その時二人の頭上を何かが横切り、大きな影を作った。

思わず上を見上げる。

「うおっ!⁉」

味方の特殊作戦機V-22オスプレイだ。陸軍の特殊飛行連隊にしか配備されていないC型。部隊章がはっきりと視認できル程の超低空を飛んでいた。

少尉「味方の輸送機!?どうしてこんな低空を?」

 軍曹は、あの機体は特殊作戦仕様のC型だと気付いた。主に特殊部隊の空輸に使われる機体で海軍の陸戦隊や陸軍の水陸両用部隊が使うM型とも違う。
 軍曹が呟く。
「彼女たちだ... 彼女たちが来てくれたんだっ!!」

オスプレイのコックピット。

機長「間もなく降下地点、やってくれ!」

コ・パイロット「よくここまでたどり着けた。ミサイルの奴も《魔女》は怖いらしい」

二人の塹壕、目線の先、低空を飛ぶ輸送機の後部ドアが開き始めた。

ハッチが開くとカーゴに数人の少女が見えた。戦場に似つかわしく無いフリルなどの装飾がついた服にその上からタクティカルベストやホルスター/足には二―パッド/腕にエルボ―パッドを装着/背には自動小銃と背嚢代わりにミサイルランチャーやグレネードランチャーが収まった武器ラック。

少女たちは戦闘の一人に対し2列縦隊で輸送機から飛び出すのを待っていた。

軍曹が呟く

「敵兵の生き血をすすりその命をいけにえに捧ぐ呪われし魔女の一団。国防軍最強の実戦部隊、魔導教導師団司令部直轄第54攻性導術部隊〈百禍〉....」

輸送機のカーゴにてロードマスターが支持を出した。

「降下地点確認!カウント....3,2,1!」

ランプが青に変わった。

「降下!降下!降下っ!!」

少女たちは狭いカーゴから駆け出すように飛びだした。

輸送機の後部ドアより降下した少女たち。

フリルやアクセサリーのついたカラフルな衣装、戦場に似つかわしくない華やかな装い。

しかし、顔にはゴーグルもしくはシューティンググラス。上半身には衣装の上からチェストリグを装着しポーチには弾倉や各種手榴弾。スカートの裾から覗くすらりとした瑞々しい健康的な脚には拳銃"H&K SFP9"の収まったホルスター。膝当て。
靴もフリル付きのドレスには不釣り合いなタクティカルシューズや半長靴だった。

 武器もベルギーFN社の5.56mm機銃の最新モデル、もしくはGLX160グレネードランチャーをアッドオンした20式小銃だった。

 ファンシーなドレスに現代的な個人装備と最新の火器というアンバランスな姿。

静香
「百禍壱番は部隊を率いて第23戦区の友軍を援護しろ。私はいつも通り単独で行動する」

ひめな
「コピー!それはそうと零番、1つ意見具申がございます」

静香
「何⁉︎」

ひめな「大尉殿はやはり、ストレートではなくツインテールの方が可愛いと小官は愚考いたします」

静香「黙ってい任務を遂行しなさい」

 その言葉を最後に静香は敵に向かって一人駆けだした。

 彼女の姿を見送った ひめな も他の隊員を率いて駆けて行った。

 降下した少女たちを塹壕から頭を半分ほど出して様子をうかがっていた少尉は見た。

「あれが噂の戦乙女”ヴァルキリー”たち?たった8人じゃないか!大体彼女らの戦果は誇張だろ?」

「誇張はあっても、あの娘らの強さはデタラメじゃありません」

少尉同様、頭を半分だけ出した軍曹は説明した。

「見てください。あの娘たち、みんな衣装がバラバラですよね、あれは魔法少女たちが本来身に着ける固有の衣裳ですが、軍に所属する場合は軍規により固有の衣裳を着ることを許されません。大抵は調整師(ソウルジェムを調整する能力を持った魔法少女)によってデザインを統一された野戦服に変えられます」

 確かにそうだった。戦車と共に自軍の陣地を襲撃しようとしている敵軍の魔法少女兵にしたって。一般的な魔法少女のようにフリル付きのドレスを着ていないし武器にしたって魔法のステッキなどではない。それに比べれば、その上から最新の個人装備を身に着けているとはいえ彼女らの方がファンシーに見える。

 通常、軍に所属する魔法少女は固有の衣裳を着ることが許されていない。軍の兵士である以上、指揮系統や所属を明確にするということもあるが何よりもフリフリとした服は森林や屋内で挟んだり引っかかったりと動きにくく(兵士が通常身に着ける装具や弾嚢、水筒、折り畳みシャベルなども這ったり転がったりする場合に邪魔になる事がある)また、過度な装飾により発見されやすくなるためである。しかし、唯一例外となるのが高い潜在魔力やユニークかつ強力な固有魔法を持つ魔法少女だ。敢えて目立つようにすることで敵への威圧や味方の士気高揚に効果を発揮するためである。

「彼女らは非常にユニークな固有魔法や高い攻撃力と俊敏性がありましてね、もはや戦車や戦闘機に匹敵するモンスター...。しかし.....本当の化け物はその力をフルに発揮する少女たち自身の兵士としての素質です」

軍曹たちの視線の先では手にした機銃を撃ちながら前進していく静香の姿があった。

「全国から集められた高い素質を持つ魔法少女たちが、兵士として過酷な訓練を受け、更に実戦の洗礼を受けて生き残り、極限まで鍛えられた結果。戦場での生死すらも〈円環の理〉に委ね破壊と殺戮を自らの存在意義とするようになった究極の魔法少女たち」

静香の目の前に人民陸軍の魔法少女たちが立ちはだかる。静香は疾走を止めることなく発砲。魔力で強化された脚力により発揮された瞬足、しかしそれ故に走りながらの射撃は不安定なはずだが、発射された銃弾は全てアーマーに守られていない顔面や頸”くび”に命中した。

「中でも、あの魔法少女......〈百禍〉の隊長でありながら常に単独で戦場を駆け、敵を神への供物として捧ぐ戰巫女 時女静香」

軍曹はいったん区切ると今度は先ほどとは違う調子で話し始めた。きわめて個人的な話をするような感じだった。

「少尉殿、俺は見たんです。九州西部のちょうどここと同じような平原の戦場でした。中国軍はいつもの機動襲撃、戦車と魔法少女”MS”を前面に押し寄せてきた。大隊本部はやられ各中隊は孤立。俺の居た小隊も包囲され、バリバリとなり続ける12.7mm(×108)の銃声を聞きながらもう駄目だ、と思いました。.....そこにやって来た援軍は魔法少女”M.S”たった一人のみ。しかし....その一人の魔法少女が自分の小隊を包囲していた人民軍1個中隊を....殲滅した」

 軍曹の脳裏に浮かぶ記憶。

 今でも鮮明に覚えている。

 周囲に広がる中国兵たちの骸、擱座させた奴らの15式軽戦車の砲塔に乗りハッチから脱出しようとして息絶えた敵戦車長を細い片腕で引きずり出している彼女の姿を.....。そしてその時、彼女と目が合ったことを。

「俺は味方だっていうのに震えが止まりませんでした」


兵士は火だるまになりながら訴えた。

「酷いっ、誤射だ!味方に殺されるなんて.......」

「ざっんねーん!誤認じゃありませーん。この戦場にオジさんたちの味方はー」

そう言って ひめな はMINIMI軽機関銃の銃口を向けた。

「いっませーん♪」

引き金に指がかかったのを見て、瀕死の兵士は懇願した。

「や、やめろ!味方だぞ....頼む!オイッ」

銃声と共に機銃が火を吹く。

マズルフラッシュの向こうで兵士がミンチになるのを見て ひめな はニヤリと笑った。

一方こちらは第23戦区。

水陸両用戦車一台に気功兵”魔法少女”が1個小隊5人(魔法少女は5人前後で小隊)が前進中。

彼女らの前に一人の魔法少女静香が姿を現した。

「敵気功兵1!接近中」

「一人だけ?投降する気か?」


直後に静香は機銃を発砲、戦車の乗員を始め気功兵たちもマズルフラッシュに気付いた。

「発砲!やる気だぞ」

「特攻か?撃ち殺せ!!」

戦車長が叫んだ。

砲手は即座にトリガーを引いた。

105mm砲から榴弾が発射される。

しかし、着弾直前、静香が素早く右に飛んだ。榴弾は寸刻まで静香がいた場所に着弾/炸裂=地面を吹き飛ばす。

「か、躱された!?」

砲手は驚愕する。

いかなる魔法少女であっても銃弾より早く動くことは出来ない、このため通常、魔法少女向けの野戦教範では銃口を向けらえた瞬間身を隠すか、照準を付けられないように動き続けるように教育される。一方で、歩兵やその他の兵器がこれに対抗するには逃げられないように魔法少女がいる空間を埋め尽くすように弾幕をはるか、高性能な火器管制システム”FCS”を用いての精密射撃を行うことになっている。戦車砲の初速、特に滑空砲の砲弾となると拳銃弾以上だ。さらに行進間射撃を行える高性能なFCSを装備している。その攻撃を回避するのは至難の業である。

 そんな戦車に対し魔法少女であっても一人で戦いを挑むなど無謀でしかない。

 やるとすれば砲口がこちらを向いた瞬間に発砲される直前で移動するしかない。固有魔法に予知能力を持つかよほど直感に優れていないと不可能である。

 てき弾に魔力を込めて威力を増強、瞬く間に05式水陸両用戦車の足回りを破壊。

「左右履帯破損!!各座しました」

操縦士が冷汗をかきながら戦車長に必死の形相で報告。

「奴はどこだ!?」

 叫ぶ戦車長。

対人センサーを確認した砲手が言った。

「6時方向!真後ろです!!」

真後ろに回り込んだ静香は自分の固有武装である七支剣を抜いた。

剣先を戦車にとって最も脆弱な後部エンジン廃熱孔に向け、そこに魔力を集中させる。

 炎がやどり刀身が赤く輝き始めた。

「砲塔回せ!」

 砲手の操作に応じて砲塔が急速回転。昔の映画のようにゆっくりと砲塔が旋回することは無い。

しかし、静香の方が速かった。

「一つ」

そういうと同時に刀身から火球が放たれる。

火球は戦車の後部にあたるとHEAT弾のメタルジェット以上の高温で戦車の装甲を溶かしエンジンブロックを破壊/弾薬庫にまで到達し05式水陸両用戦車は爆散した。


 「動きが止まった?グリーフシードによる浄化(チャージ)中か?しめた!かかれっ!!」

 人民軍の魔法少女1個小隊(5人)が一気に吶喊した。


 自軍の魔法少女兵5人をたった一人で屠った日本側の魔法少女を照準鏡ごしに見た砲手は思わず一言漏らした

「あ、悪魔だ.....」

冷汗が流れる。そんな砲手を車長が𠮟責した。

「怯むな!!」

「し、しかし!?」

「あれは悪魔などではない!!」

車長は自分のペリスコープを覗きながら続けた

「否、悪魔の方が救いがあったかもしれん......おそらく奴は」

ペリスコープの先、先ほど味方の魔法少女兵五人を屠ったツインテ―ルに着物を思わせる帯を巻いたノースリブにミニの衣裳、手には七支の剣。少女は背負っていた01式誘導弾のランチャーをその場に無造作に落として捨てた。顔に着けていたゴーグルをとり素顔が明らかになる。戦車長は確信した。

「奴は日本国防軍最強の魔法少女、時女静香」

ペリスコープの車長専用モニターに表示される静香。

「距離400。敵魔法少女に動き無し......奴は対戦車ミサイルを使い果たしたはずだ」

一旦モニターから顔を話すと砲手に目を向けながら言った。

「トップアタックを仕掛けるしかないんだ必ず接近してくる!ぎりぎりまで引き付けるんだ!至近距離からの砲撃なら奴とて躱せん!」

モニターに映る静香をにらみつける。

「奴を葬るのは俺たちだ!!」

戦車長の意図を察したのか、静香は一瞬微笑ったように見えた。

 そして、一気にダッシュ。土煙をあげて接近する。

砲手が報告した。

「動いた‼︎急速接近!距離300」

静香はジグザグに回避行動を取ることもなく一直線に突っ込んでいた。砲手は冷静さを保つように努めレーザー測距離機が弾き出す数字を読み上げていく。

「250....200....」

「150!砲撃用意!」

しかし、静香の方が早かった。車長が車内で叫んだ直後にスキップを踏むような足取りで跳躍。

「テェ‼︎」

砲弾が放たれたのは静香が跳んだ直後だった。

コンマ数秒前まで静香が居た空間で榴弾が炸裂。

「そんなっ!!」躱された?

跳んだ静香は爆風の力を借りて99式戦車の砲塔に飛び乗った。

 車長用ハッチの手前に着地すると七枝刀を両手逆さに持った。

「(星がまた増えるわね....)」

刀身に熱を宿らせるとそのまま天井装甲に突き立てた。砲弾の炸裂にも耐える装甲が飴のように溶けすぐ下に居た車長の胸を赤い刀身が貫く。

それを見た砲手は叫ぶ。

「戦車長‼︎」

刀身はすぐに引き抜かれたが、空いた穴から代わりに別のものが投げ入れられた。

「ハッ⁉︎」

円筒状の物体だった。缶ジュースほどの大きさで先端でピッピッピッ!という電子音と共に赤いライトが点滅している/その間隔が徐々に短くなってゆく。

「対戦車手榴弾‼︎」

砲手が投げ込まれた物体の正体に気付いたのと同時に静香は車体から離脱/空中で的になるのを避けるため身体を捻るように飛び退く。

「いい嫌だっ!出してくれ!!畜生っあのアバズレッ わざわざ時限信管で」

着地した静香に鋼鉄の棺桶に閉じ込められた男の悲痛な叫びは聞こえなかった。仮に聴こえていても無視する。

『敵の嘆きも、悲鳴も全て無視しろ』

そう教えられていたから。

 対戦車用に通常の破片手榴弾を上回る量と威力の高性能爆薬を詰めたそれは起爆と同時に砲手の体を粉砕し更には残った砲弾の誘爆と燃料の引火で更に塵と化した。

 爆風とその熱を背中に感じながら静香は無線を入れた。

「ルート権限による無線封鎖解除。こちら〈百禍〉零番 時女静香、第23区の敵は片付いた。〈百禍〉壱番 送レ....」 

空電音の後、応答があった。

『百禍 壱番 藍家ひめな 第38区の戦闘は終結』

「周辺の遊兵を拾いながら予定集結地点へ向かえ』

『壱番 了解』


静香「また、生き残ったのは私たちだけね.....第38区の味方は敵に.....」

静香の言葉を遮るように ひめな の信じられない一言が重ねられた。

「そ、私チャン達にネ♪」

 ほんの一瞬意味が理解できなかったが、次の瞬間にそれが分かり『背筋が凍る』という表現はよく見られるがこの時、静香は体の奥底が急速に冷たくなるのを感じた。

「何ですって⁉︎」
信じられず、問い返す。
ひめな は彼女の問いには答えず行動で示した。

ひめな がMINIMI機銃を片手で持ち上げ銃口を静香に向けた。

ひめな の後ろにいた隊員たちもそれに習うように手にした小銃や狙撃銃を向ける。

ひめな「時女静香大尉。あなたを叛逆および内通罪で拘束します!!」

静香「何を言っているの⁉説明しなさい‼」

ひめな は予想通りとばかりにニヤリと一瞬口元を緩めるも直ぐに真面目な表情になり。

「あなたは敗北必至な我が軍を見限り人民軍と内通、第38区の友軍を殲滅し敵の通過を容易ならしめた」

静香「バカ言わないでっ、そんなでたらめを誰が信じ......」

ひめなー静香の言を遮るように

「私チャン達人が証言すれば師団の法務官も信じざる負えないよ」

「くっ!」

静香はギリッと歯を食いしばった。

「軍法会議で私チャン達はこう証言させてもらいま~す。『私チャンたちは別の線区で任務遂行中であり、その殺戮を阻止できませんでしたっでも無線で聞いちゃってました。尊敬する上官の静香さんが死ぬのが怖くなってい裏切るなんて、本当にショックです。ぴえんっ!!』って」
静香=慟哭/文字通り食って掛かる。
「私に罪を擦り付けるつもり!?」
凄まじい剣幕で切りかかろうとする静香。しかし….。
乾いた銃声が一つ、静香のすらりとした脚の肉が削がれる。
 ひめな が先に発砲したのだ。
 機先を制され、静香はその場に膝をついた。
「いや~、一匹狼があだになっちゃったね~。隊を掌握してるのは私チャンだよ」
「ひめな!貴様ぁッ」
静香はそれでも痛みに耐え、ひめな をにらみつけるのを辞めなかった。
しかし、そんな権幕にも ひめな は動じない。
「言っとくけど、この行動が罪になるなんて私チャン達はちぃ~っとも思ってないから。この戦争を腐った日ノ本の敗北で終わらせるため….そしてその瞬間が来ちゃったんだよ…」




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