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【小説】同じ空の保田(やすだ)さん 1
(創作大賞2023参加作品・全34話)
いつも自分の傍にいるその人は、一体どんな人だろうか?家族や恋人など、心の距離が近しい人のことではなくて、ただただシンプルに、共に過ごす時間が長い人。
わたしにとって、そんな彼は、同じ空の下で暮らしながら、ずっとずっとすれ違って生きてきた人だった。
3月下旬の寒々とした曇り空の日の午後。
仕事の引継のために行ったセクションで、初めて保田さんに
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 45
自分の世界は、自分が一番よく知っている。
誰かの世界に、自分が映りこんでることはある。
その自分は、その人から見たらどんなふうに見えるのだろう。
それは、その人にしかわからない。
でも、その人からの評価なんて、そんなに大切なものだろうか。
自分がいる自分の世界が、どれくらい好きなものと心地よいものに満たされているか。
それを追求して実現することに、生きている意味がある。
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 44
光り輝く人から受け取るエネルギーやオーラに照らされた時。
ふと、自分の影の姿で、自分自身に気づいてしまうことがある。
描き出されるその影もまた、美しい色と輪郭を持っていれば幸いだ。
その姿に失望してしまったのなら、微かでも纏うことのできる自分だけの光を探す旅に出るのだろう。
強烈な光に照らされずとも、自分の力だけで自分が存在するために。
今日の座席は、前から二列目
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 43
雨も、待てばいつかは止む。
たまりにたまって纏わりついている不浄物も、浄化に精を出せばいつかは綺麗に取り除くことができる。
そう信じて、待つしかない。
そう信じて、動くしかない。
顔を上げれば、鈍色の雲がようやく切れ目を見せていて、
そこから差し込む眩しい光に気がつく。
そういえば、この世にはこんな景色もあったのだ。
知っていたはずなのに、すっかりと忘れていた。
7
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 42
困った時、叶えたいことがある時、
自然と神様にすがってしまう。
嫌なこと、思いどおりにならないことがある時、やっぱり神様なんていない、神様は意地悪だと否定してしまう。
目に見えるはっきりとした存在は、本当はどこにもない。
そのはずなのに、何か奇跡的なことがあると、やっぱり神様はいるに違いないと簡単に信じたりする。
そんな都合のよい、あやふやな自分でいるのも、どこか赦せなくて。
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 41
人に優しく、自分にはもっと優しく。
我慢や忍耐への賛美は過去の産物となった今の時代、
自分ファーストが一番大事にすべきことかもしれない。
満たされてこそ、人にも優しくできる。
辛い思いを一人で抱えて頑張っていたところで、
その苦しみや涙に気付いてくれるのは自分しかいない。
それは、余計に淋しく孤独なことで、
きっと自分の心をささくれ立たせるだけなのだ。
メールの送信元は、大好
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 40
何にも囚われず、気の向くまま、あるがままに過ごせることを、自由と呼ぶ。
ある日突然、自由が奪われてしまう感覚を知っているだろうか。
誰のせいでもない、運命の歯車が想定外の方向へ回転し、今までのものが乱れて、崩れて、そして、人生が変わる。
自分が、ただ自分らしくいる。
本来、誰しもそうあるべきなのに、それができるのはどんなに恵まれていることなのかと、失って思い知ることもある。
7
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 37
人からの援助を受けた時。
こともなく素直に感謝を示して終わらせることができる性分の人もいれば、その分、こちらからそれ相当のものを返さねば気が済まない人もいる。
前者の方が、きっと得だ。
そして、人に頼ることに抵抗がなく、楽に生きて行けるのだろう。
自立とは、自分の脚の力のみで立つこととは限らない。
誰かの力を借りながら自分の脚で立っているのもまた、自立と呼べる。
そうして、お
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 36
繋がる糸をずっと手繰り寄せた末に出会えたような、ご縁を感じる人もいる。
そうではなくて、ある日突然空から降ってきたような人もいる。
すべての出逢いは偶然ではなくて必然なのだと、誰かの言葉が脳裏をよぎる。
必然だというならば、手繰らずとも目の前に現れた人は、自分にとって、今、必要だからこそ出会ったのだろう。
だとすれば、その出会いは、意地を張って無下にすることなく、素直になって甘え
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん~regret~ 35
寿命は、誰にもわからない。
人のことは当然だし、自分のことですら自分でもわからない。
余命を宣告されたら、悲しくも、悔いのない様に精一杯過ごすために為すべきことが明確に見えるのだろう。
そうでなくても、それこそ明日、いや、今日の夜、いや、もっと言えば数分後にだって、何が起こるかわからない。
だから、日々悔いのないように過ごす、という話はもっともだ。
………にも関わらず、おそらく
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん 34
人生、何があるのかわからない。明日、いや、今この次の瞬間すら。だからこそ、人は今を精一杯生きるべきだ。
今あることと、それに向き合ったことの積み重ねの末に、命尽きるまでの道が出来上がってゆく。
何かの偶然が重なっても、実はそこに意味なんて無い。
あるとしたら、願望とこじつけた、後付けの解釈だ。
ただ、その偶然も含めて、歩き続けたから、今ここに立っている。
だから、その偶然達は、
【小説】同じ空の保田(やすだ)さん 33
す 「 春は別れの季節。しかし、出会いの季節でもあります。皆様の春が、幸多き出会いに恵まれますようお祈り申し上げます 」
いつかの春の送別会で、その時の管理職が送別される社員達に向けて述べた言葉。
瑞季の中学校の卒業式が過ぎたら、残っている有給休暇の消化しつつ、母と瑞希とわたしの三人で高校合格祝いの旅行でも……と思っていたけど、それは叶わぬまま日々が過ぎて行った。
立つ鳥後を