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ひとりの夜を抜け

「優等生に弾いて何が楽しいの?」母は幼い俺によく言った。「どうして楽譜通りに弾けないの?」とも。小さな家庭の細やかな禅問答だが、結局俺は悟りを開けなかった。結果、生産性のカケラもない引きこもり音楽家(34歳)が爆誕した。
 
引きこもってるなら有り余った時間でスキル向上し放題じゃないか!とお考えの人は待ってほしい。引きこもりがすることと言えばネットサーフィンか、ピリカピリララ位だ。研鑽の時は無い。
 
というわけで今日もpixivに潜り神絵師を讃える。コメント欄に書いてもらいたい絵の要望を別アカを駆使しさりげなく何度か書き込んでおくと、偶に要望通り描いてくれたりする。この『サブリミナルおねだり』を駆使して描いて貰った絵は、六つのツイッターアカウントを駆使し、宣伝広報するのである。宛らプロデューサー気分だ。
 
楽しい日々を謳歌してるようだが、当然虚無に襲われる。そんな時はストロングゼロを開け、ベランダでスタンスミスを履き、BOSEのBluetoothイヤホンを耳にLucky Kilimanjaro『ひとりの夜を抜け』を聴いて踊るのダ!脂汗を飛ばし息も絶え絶えに部屋に戻るとぐったり果てる。それをきっと、人は気絶と呼ぶのでしょう。
 
不格好に、振り付けも無しに踊るのは楽しい。独りぼっちで踊るのが楽しい。ひとりの夜を抜けた後にも、ひとりの朝が来てほしい。「孤独を好む独りよがりはそもそも音楽家に向いてない」思春期に母に言ったらシューベルトの楽譜で殴られた。
 
こんな回想と惰性の日々を、弟に養われながら過ごしている。俺は勝ち組だろうか?負け組だろうか?また答えが出ない禅問答だ。

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