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四番ファースト金子

怖い。

脇汗が滝のように溢れる。何が怖いか。期待だ。皆が俺に乗せる期待が怖い。「金子がHRを打てば勝てる」「金子なら決めてくれる」そんなプレッシャーがいつも重くのしかかる。ただ高身長で筋肉質と言うだけでファースト四番というポジションを与えられた。
人は強烈な印象ばかりを鮮烈に心に刻む。部員の皆は俺が頼れるスラッガーだと錯覚している。打率は実は一割だし、試合でホームランを打ったことも二度しか無い。その二度が丁度ドラマチックな局面であったが為に、俺はこの地区で『デストロイヤー』の異名を得た。勘弁して欲しい。

俺はただのBL好きのどこにでもいる青少年だ。二次元限定、三次元の汗臭さや男臭さには微塵も興味は無い。ほがらかでピュアな学生生活を送りたかった。成り行きで入部した野球部で、こんな重責を任される事になるなんて思ってもみなかった。

筋肉?こんなのただの鎧だ。自己防衛だ。不良に絡まれないための、逃避の賜物だ。それを人は全てはホームランのためと誤解する。誰か助けて欲しい。ベンチから注がれる羨望の眼差しが痛く突き刺さる。頼れる兄貴だなんて思わないでくれ!……がむしゃらに振り抜いたバットが芯を捉えた。伸びやかな打球が大空を走る。歓声が上がった。しかし引っ張り気味の打球は僅かにファールゾーンに吸い込まれた。

「凄ぇよデストロイヤー!」
「ピッチャービビってる!」

ビビってるのは俺だ。デストロイしてるのは俺のハートだ。察してくれ皆。その後の無様な空振りも、皆は温かく迎えてくれる。デストロイ、次は確実だね、なんて言っちゃって。期待は重い。でもその眼差しはどこか、BL漫画お馴染みのピュアな後輩系男子に近しいものを感じる。そんな目で見られる俺は、筋骨隆々、無骨で頼れる先輩マッチョさんってか?……その設定、大変美味にござりまする。大好物にござりまする。

……よっしゃ、一丁頑張ってみっか!!俺の中でハートフル三次元デストロイヤー、爆誕の予感がした。


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