緊急事態宣言2_石岡瑛子展
最近撮った写真がいろいろ溜まっているので、それをまぶしながら今日の出来事を。近所の近美(東京都近代美術館)で石岡瑛子展、正確には「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」を見てきた。
近所なので昨年末からやっているのは知っていたが、なんとなくまあいいか…と思っていたら。ここにきてネットで「見るべし」と激推しする記事を散見したのだが…。
だったのである。
僕はかれこれ20年ほど前、講談社で編集をしていた時期があるのだが、2つ在籍した編集部のうち、後の方の編集部で石岡さんの自叙伝「私デザイン」をちょうどやっていた。担当していたのは僕の前に座っている女性編集者で、うっかり超一流企業をやめて何を間違ったのか出版社に来てしまったばかりだった。石岡さんからの指示や要望は相当シビアだったと思うが、彼女は「大変なんですぅ」といいながら右から左に流して、たしか予定より相当遅れたものの、なんとか「私デザイン」は出版されたのだった。僕もそれを一冊いただいた記憶があるのだが、度重なる引っ越しでどこかに消えてしまい、そして今気になってネットで検索したら案の定絶版。古書市場でとんでもない値がついていた…。ちなみに石岡さんは厳しいけれど人を育てることに熱心だったそうで、石岡本を担当した彼女も今では出版業界でバリバリ活躍されている。そういった意味では石岡さんに育てられたのかもしれぬ。うらやましい。
と話は過去に脱線したが、石岡展の会期はあと3日間。金土日。となれば金しかあるまい。というわけで今朝、息子を保育園へ送ってから自転車で近美へ。開館直後の10時過ぎですでに120分待ちの表示だったが、午後に出直しても短くなる保証はない。読みかけの本を持ってきていたので、読みながら待つ。実際には90分くらいだったか。
資生堂の社員デザイナーとして手掛けたアートワークから始まって、パルコ、角川…と紙媒体が続く。1/3を過ぎたあたりから服飾がメインに。突如現れた金閣寺に度肝を抜かされたものの、僕にはやや退屈な内容に。まあチケット代1800円分の価値はあったかなぁ…などと思いながら最後のコーナーに差し掛かると。
ケースにポップでレトロな絵本が、製本をばらして展示されていた。「えこの一代記」という石岡さんが高校生の頃に作った絵本だ。没後、UCLAに寄贈した遺品の中から見つかったという。戦争が終わって疎開から戻り、高校に通う“えこちゃん”が、やがて世界で活躍するまでの過去と未来を描いている。和文と英文のタイプライターで文字が打ち込まれ、とても高校生が描いたとは思えないクオリティー。古臭さもなく、今出版されても十分通用すると思う。
その女子高生・えこちゃんが世界で活躍する夢を描いた作品の向かいに、実際に世界で活躍した30年後の姿が展示されている。ロバート・メイプルソープが撮った、30年後のえこちゃん…もとい石岡さんのポートレートだ。通路を隔てて夢に描く自分と、それを実現した自分、30年の時間が流れている。石岡さんも凄いけど、この心憎いエンディングを考えた現美の学芸員さんも凄いよ。
規模は天と地くらい違うけれど、自分も展示をするときは作品の並びや始まり・終わりはそれなりに考えている。そりゃ当たり前なのだが、写真展を見ていると会場の都合もあるのだろうが、わりと「?」と思う構成がある。?と思わせることが狙いだったら、それがわからない僕がボンクラというわけだが…。でもボンクラでも今日の石岡展の構成はすばらしいなと思った。
そういえば年齢は僕よりちょっと上と思しき女性2人組が、石岡さんの赤字がびっしりと書き込まれた80年代の校正紙をみて「この時代ってPhotoshopあったっけ? Photoshopないよねぇ? どうやってこれ処理したんだろう」としきりに不思議がっていたけれど。Photoshopが生まれる前から版下というものはあって、画像も適切に処理されていたのですよ。というかそれを誰でもできるようにしたのがPhotoshopですから。
石岡展は残すところ土日の2日間だけど、2~3時間並べるよという人はぜひ現美に行ってみてください。
■X100V・GR III
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