未来の海に浮かぶのは

「なあ、まだつかねえのかい」

静かな波に揺られるのを感じながら、着物姿の青年は下に話しかける。
青年が腰かけているのは地面ではない。ましてや船でもない。人を載せてもまだ余裕のある大亀の甲だ。
少しの沈黙の後、ぶくぶくと泡を立てながら言葉が立ち上ってくる。

「あー……すみません。言いづらいんですけども」
「なんだい」
「そのー、太郎さんの、家というか、陸がですね。見当たらないです」
「はあ?」

青年は眉を跳ね上げた。

「そんなわけねえだろ。場所間違えたんじゃねえか?」
「あのですね、太郎さん。アタシみたいな亀が陸の位置を見失うなんざないですよ」
「じゃあ、なんでないんだよ」
「……さあ……龍宮で過ごしてる間になにかあったのでは……」

煮え切らぬ態度に青年は舌打ちし、視線をあげて海原を見やる。なにもない。
いや。

「おや?」

ぽつんと浮かぶそれを見て、青年は首を傾げた。なぜあんなものが。
見間違いでなければ、それは大きな桃だった。

【続く】

#逆噴射プラクティス

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