白銀の竜騎兵

 待機命令中、シルバーバレットはときどき自らの名について思考を巡らせる。魔を撃ち滅ぼす弾丸。いささか大仰であり、迷信的だ。

 だがシルバーバレットはその名が好きだ。明瞭に自分の役割を表しており、そうあれかしという製作者の祈りが込められている。祈り。苦境にある人々の支えとなる、形なき精神安定剤。

『外界からのアクセスを感知』

『規模は』

『ベヒモス級と推測』

『でかいな! 高知性体だといいが』

『同意。祈ってください。私の代わりに』

 眼前に生じた空間の歪みが活発化する。シルバーバレットは通信を遮断。武装のセーフティを解除した。

 シルバーバレットは最初期型の対魔獣機兵だ。搭載された人工知能は当時としては最高の成功を誇り、それは今でも変わらない。

 少なくとも、相手が高知性個体であれば平和的交渉によって『元の世界』に戻すことだってできるだろう。だがその可能性は残念ながら低い。異世界からの来訪者たちは大抵凶暴だ。

 シルバーバレットは魔を撃ち滅ぼすために作られた存在である。今目の前に降臨するだろう、巨大な危険生物の駆除。それが本来の役割だった。

 空間の歪みが波紋を描く。出現の兆候。シルバーバレットは対魔獣ライフルの照準を合わせる。

 やがて……波紋の中央から首を突き出したのは、黄金色に輝く鱗で全身を覆う爬虫類型魔獣。人間ならもっと端的にこう呼称するだろう。龍、と。

 全長は不明。しかし覗く首の高さはシルバーバレットとほぼ同じ。20メートル級である。

 その眉間に照準を合わせながら、シルバーバレットは言った。

「そこで止まりなさい。こちらの言葉が理解でいるなら」

「…………あらあら、まあ」

 巨龍が目を丸くする。そして確かにこちらの理解できる言語パターンを口にした。高知性個体。

「こちらには随分大きくて素敵な騎士様がいるのね! どうかしら、お友達にならない?」

 今までに会ったことのないタイプだった。

【続く】

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