妖刀狸

 刃野刀一郎は妖斬りの浪人である。その日も首尾良く荒れ寺の大入道を斬って捨て、幾ばくかの銭を得てから一日を終えようとしているところであった。

 その珍妙な来客が訪れたのは、彼が旅籠の布団に入り、うとうととし始めた頃合いである。

(妖気)

 漂う違和感に、刀一郎はカッと目を見開き、飛び起き様に傍の刀へ手を伸ばした。

「何奴!」

「あいや、お待ちを! 怪しいものではございませぬ」

 慌てて飛び退いたのは、粗末な着物姿の子供。見た目からは男とも女ともわからぬが、目の下の隈と眠たげに垂れた目が嫌に目についた。

 ははあ、と刀一郎は得心する。

「おぬし、化け狸だな? なにが怪しいものではない、だ。俺を化かしにきたのであろう」

「とんでもございません! 一目で私の本性を見透かすお侍様を化かすなど、土台無理な話でございます」

「……では、あれか。大入道の敵討ちか」

 刀から手を放さぬままに問う。荒れ寺に住み着き、村を騒がせていたかの妖怪もその正体は化け狸であった。

 が、闖入者は首を横に振る。

「違います。むしろ彼奴は人間の子供を驚かし続けて調子に乗った粗忽者。我らとしても目の上のたんこぶで」

 ふうむ、と刀一郎は唸る。相手の目を凝視し、嘘のないことを確認した彼はようやく刀を手放した。

「ではお前はなんだ。いよいよもってわからなくなったぞ」

「小鍛冶と申します。弟子入りに参りまして」

「弟子入り!」

 刀一郎は思わず声を上げた。

 小鍛冶と名乗った狸はかしこまった様子で平伏する。

「長尺坊退治を覗かせていただきました。素晴らしき刀の冴え。一目惚れです」

「う、うむ。どうも。しかしだな。おぬし、弟子入りと言っても刀も持たずに」

「いいえ」

 小鍛冶が頭を上げる。その眠たげな眼差しには刀一郎さえも黙らせる決意の光があった。

「刀はあっし自身にございます。どうかお侍様の技、あっしの身体に教えていただきたい!」

【続く】

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