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シカク運営振り返り記 第30回 あまみ・おだ犬夫妻との出会い(たけしげみゆき)

2016年は色々なことが起きた年だった。第26回~第29回で書いてきた、出版物をめぐるあれこれシカク出版全国流通開始精神崩壊危機と夜勤バイトのスタートはすべて2016年の出来事だ。
さらにこの年は、現在もシカクでスタッフとして大活躍してくれている逢根あまみさん・おだ犬さん夫妻と関わりができた年でもあった。

あまみ夫妻は初め、お客さんとしてシカクに来てくれた。2人は昭和の趣が残るラブホテルを巡って記録する活動をしており、話を聞いたり本を取り扱ううち、シカクで写真展を開催してもらうことになった。それが2016年6月~7月開催の『ご休憩 昭和遺産ラブホテル展』だ。
(あまみさんの活動を知らない方はぜひホームページをご覧ください!色々とすごいです)

当時のシカクは店舗部分の奥にレジがあり、レジのさらに奥は玄関のように1段上がってソファやこたつが置いてある「いきなり我が家」状態だった。
作家さんの在廊時、お客さんがいない時はこのスペースで過ごしてもらい、それぞれ作業をしたりおやつを食べたりお喋りを楽しむのが常。なのであまみさんとも同じように過ごしていた。

ある日、当時の店長Bのメインワークである内職をあまみさんも手伝ってくれることになった。当時のシカクは展示に合わせた冊子をよく自家製本しており、流通させる本のカバーや帯も手巻きだったため、内職を頻繁にしていた。それを見たあまみさんが「お客さんがいない間は手持ち無沙汰だし、まあよければ」ぐらいの軽い感じで手伝ってくれたんだったと思う。

ところがそんな軽さで始まったあまみさんの内職が、Bよりはるかに早くて正確で丁寧でびっくりした。大抵の人より几帳面なあまみさんと、大抵の人より大雑把なBが作ったものは、速度も完成度も工業製品と幼稚園児の工作レベルの大差だった。(ちなみに私はBほど大雑把ではないけどあまみさんほど几帳面でもない。あととにかく動きが遅い)

あまみさんの内職レベルがあまりに高かったので、個展が終わったあとも時々お金を払って内職を依頼するようになった。
そんな折、当時手伝ってくれていた別のスタッフが辞めることに。私が夜勤バイトをしていることもあって(第29回参照)人手が減るとかなり困る。そこであまみさんに、内職だけじゃなく店番もするメインスタッフになってくれないかとお願いした。
こうしてあまみさんは、シカクスタッフの一員となった。

あまみさんの仕事ぶりは、想像をはるかに超えていた。大変ありがたいことに、彼女は私やナオさんが苦手な、事務作業のように正確さと速度が必要な仕事を得意としていた。
さらにあまみさんは言われたことを正確に処理するだけではなく、より効率のいい方法を考えて提案するワンランク上の能力まで身につけていた。これまでBと私が考えたよくわからないやり方で運用されていたあらゆるシステムはどんどん見直され、合理的なものに組み替えられていった。
バーサーカーのような働きぶりを目の当たりにして、私は「これが有能な人間というものか……」とただただ感嘆のため息を漏らすのみだった。

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……と、ここまでが、私の記憶とあまみさんの証言を照らし合わせたらかろうじて思い出せた話。

実は私は、中津商店街に住んでいた頃のことを断片的にしか覚えていない。Bが出て行ったあと、仰天のスピードで彼に関する記憶の大半が消滅したのだ。「人間は辛いことを忘れるようにできている」という話を聞いたことがあるが、Bとの過酷なモラハラ生活のデータを保存することを私の脳が拒んだらしい。
特に夜勤バイトをしていた2016年夏〜2017年夏にあったことは、本当に印象的だったいくつかの出来事がてんでばらばらに保存されているだけ。あとは本当にバイト先のペットホテルで犬と遊んだ記憶しか残っていない。原因は、Bの反対を押し切ってバイトを始めたため彼のモラハラが激化したこと、ダブルワークが体力的にものすごくしんどかったこと、そんな日々の中でかわいい犬たちとの触れ合いが唯一の癒しだったことが考えられる。

さらにあまみさんの証言を聞いても私が一切思い出せないことがある。あまみさんの目の前で(時にはおだ犬さんもいる時に)Bが私に行ったモラハラの数々だ。
一切というか、数日前に見た夢のように「確かにあの時なんかモメたような気はするな……」というふんわりした印象は思い出せても、当時の具体的な場面や自分の感情はまったく思い出せない。あまみさんが記憶しているBの発言を聞いても「マジでそんなヤバいやつが実在したんだ……」というフィクションの登場人物のような感覚。
私の元々の忘れっぽさもあるだろうけど、それにしても人間の脳ってすごい……。

しかしこの時期にあまみさんがモラハラの証人になってくれたことが、のちにシカクと私の未来を大きく変えることになる。
次回は私の記憶が抜け落ちている部分を、あまみさんの証言をもとに組み立てて書こうと思う。

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