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シカク運営振り返り記 第28回 一般書籍を売り始める(たけしげみゆき)

前回で鍬谷書店という取次と契約し、新刊書店へ本を卸し始めたシカク出版。

それによって、とにかく出荷作業が楽になった。今までは書店から電話がかかってきたときは、直接取引の条件を説明し、商品を発送し、振込確認をし……といちいち手間をかけないといけなかったが、それが「うちの取次は鍬谷書店さんなので、そちらに聞いてください」と言うだけで済むようになったのだ。
そして、本が売れる冊数も格段に増えた。取次が間に入ると出版社の売上取り分は減るが、それを補って余りあるほど売上が増えた。次第に取次に支払うお金は広告料だと思うようになった。出稿先は全国書店の店頭だと思えば全然高くない。もっと早く契約しておけばよかった。

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それと同時にシカク店舗では、出版社から取次経由で一般書籍を仕入れられるようになった。
私は喜び勇んで、読書家のスタッフ・スズキナオさんの知恵も借りて本をたくさん注文した。やがて本が届き、さっそく棚に並べた時こう思った。
「すごい!!普通の本屋さんみたい!!」

インディーズの本……もとい同人誌は、「薄い本」という隠語で呼ばれることもあるほど厚みがないものが多い。薄い本は平置きの間はいいが、棚に差し込むと存在感も薄くなる。特定のタイトルを探そうと思っても見つからないこともしばしば。また本に背表紙をつけるのはけっこう面倒だし編集技術もいるので、シカクにある同人誌は厚みがあっても背表紙が無地のものも多い。
そんな本ばかりのお店に、しっかりとした厚みがあり背表紙にちゃんと本のタイトルが書かれた本が仲間入りしたら、とたんに本屋感がマシマシになったのだ。棚を少し離れたところから眺めて「遠くからでもタイトルが読める……!!」と謎の興奮をしたのをよく覚えている。


これでシカクは、ディープなインディーズ本とポピュラーな一般書籍の両方を扱えるお店になった。書店としての幅が広がり、みんなの心を掴めること間違いなし!
……そう思っていた。しかし。フタを開けてみると、心を掴むどころかむしろ売上がむしろ下がってしまった。一般書籍は思ったより売れず、インディーズ本もラインナップは変わっていないのになぜか売上が減ったのだ。

一体どうして。困惑した私は自分のお店を眺めて熟考し、やがて一つの仮説を考えた。
「一般書籍のわかりやすさがディグ欲を減退させ、インディーズ本を見えなくしているのでは?」

お客さんがお店の棚を見たとき、「内容がわからない本10冊」の背表紙が並んでいたら、1冊ずつ抜き取って表紙を確認しようという気持ちが起こる。だけど「内容がわかる本5冊」と「内容がわからない本5冊」だったら、深層心理で「半分わかったからわからないやつはもういいや」と考え、触れずに通り過ぎてしまうのではないか。

この仮説を確かめるため、一般書籍の量を減らし、商品全体の2割くらいに収まるようにした(具体的な冊数ではなく、あくまで棚を見たときの印象として)。
棚差しの位置も調整した。薄い本がズラッと並ぶと区切りがわかりにくいため、著者やシリーズが切り替わるところに厚い本を挟むようにしてみた。そして一般書籍は基本的に棚差しにし、平積みや面陳は薄い本を優先するようにした。
また仕入れもかなり厳選し、広く話題になっているタイトルではなく、インディーズ本のように知らない世界を見せてくれるようなタイトルを中心に揃えることにした。

陳列を変えてしばらくすると、売上がまた少しずつ上がってきた。そうすると今度はよく売れる棚と、そうでもない棚の差が出てくる。その違いを比べてみて、よく売れる棚の雰囲気を別の棚でも再現してみる。
その地道な繰り返しで、次第に「こういう感じの陳列がいい」という黄金比率が見えるようになってきた。
今のシカクの棚はインディーズ本と一般書籍がお互いに引き立てあい、いいバランスで同居できているのではないかと思う。実際、一般書籍は売れ残った場合返品できるのだが、最近はほとんど返品しなくてもちゃんと棚が循環している。


棚作りは対話と似ている。私たち書店員は言葉ではなく、棚を通してお客さんたちと対話する。うまく気持ちを伝えるには工夫や努力がいるけど、気持ちが通じ合った時の嬉しさは他では手に入れられないものだ。
利益率の低い「本」というジャンルで、それでも新たな独立系書店が増え続けているのは、そういった対話の楽しさに魅了される人々が後を絶たないからじゃないだろうか。

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