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シカク運営振り返り記 第13回 初めての展示(たけしげみゆき)

インディーズ出版物のお店・シカクの運営を振り返る連載です!
過去の記事はこちら。

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 トイレの修理代を稼ぐため、シカクを「趣味でやる店」から「お金を稼ぐ店」にシフトすることを決意した私と初代店長B。
 そのために始めたのが、営業日を週2日から週5日に増やすこと。仕入れに力を入れ、取扱商品を増やすこと。そして広くなった店内で、作家さんの展示をすることだ。

 連載でも何度か触れているが、本という商品は薄利多売なうえに単価が安い。たとえばCDは定価が2000円以上で、仕入れ値は定価の40~60%ほどというパターンが多い。つまり1枚売れば1000円前後がお店の利益となる。
 それに比べると本の定価は大抵500円前後で、1000円を超えるとちょっと高いと言われる。仕入れ値もシカクの場合で70%で、500円の本を売っても150円しかお店の利益にならない。(ちなみにこれでもまだ利益が多いほうで、取次を通して一般書籍を仕入れると大抵80%前後になる)

 もう少し具体的に書いてみよう。例えば月収20万円を目指すとする。家賃や光熱費、維持費などに月10万かかるとしたら、30万円を手元に残す必要がある。そのためには仕入れ値が70%なので、全体で100万円の売上が必要だ。1ヶ月で100万円の売上を出すためには、500円の本を2000冊、1000円の本を1000冊売る必要がある。
 しかし出版不況と言われる昨今、1000冊本を売るというのは大変なことだ。そもそも大手出版社が発行する書籍でさえ、初版が数千部ということもザラなのだ。大型チェーンの書店でさえ閉店が相次ぐ中、個人による独立書店が本の販売だけで売上を維持するのは至難のワザなのである。

 というわけで、最近の独立書店はたいてい本を売るだけでなく、喫茶や飲食スペースを作ったりイベントをやったりしている。シカクもそんな諸先輩方にならって、本の販売以外のメイクマネーを模索しはじめたというわけだ。
 とはいえ、お金が儲かればなんでもいいというわけではない。いい展示とはどういうものか、自分たちが目指すものは何か。何をやりたくて、何はやりたくないのか。そういうことを考えつつ、2013年2月にシカクで一番初めに行った展示が、この連載でもおなじみ香山哲さんの「赤青3Dおばけ展」だ。

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 香山さんは以前に別の場所で個展の経験があったため、作家目線からいろいろな提案やアドバイスをしてくれた。至らない点は山ほどあったと思うけど、香山さんのアイデアやフォローのおかげで楽しい展示にすることができた。香山さんもクラウドファンディングで協賛を募ったり、展示内容をスマホアプリと連携させたりと新しい試みをしていたので、お互い始めてのことに挑戦するいい機会になった(と、向こうも思ってくれてたらいいな)

 またこの時の展示の様子が、ライターで指圧師の斎藤充博さんによりデイリーポータルZというおもしろ記事のポータルサイトで紹介されたのもとっても嬉しかった。記憶にある限り、いちばん最初にシカクがメディアで紹介されたのがこの時だ。

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 会期の間中、香山さんのファンやデイリーポータルZの記事の読者など、これまでシカクのことを知らなかった人が連日足を運んでくれた。ちゃんと数えてないけど、たぶん1ヶ月の会期の間に、民家で1年間営業していたときに来た累計客数は超えたと思う。
「お客さんって、頑張ったら来るんだ……!」
 今までごくごく少数の人に向けてのみ営業していたシカクが、初めて外界と繋がった手応えを感じた瞬間だった。

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 それからは1~2ヶ月に1つのペースで、シカクに商品を置いてくれている作家さんを中心にお願いして展示をやってもらうようになった。
 2013年に展示をしてくれたのは、漫画家のムライさん(ちなみにムライさんの展示の時までトイレがなかった。その節はご不便をおかけしました……)、壁画を描いてくれた小林銅蟲さん、高校の同級生でイラストレーターの原田ちあき、「あしたの箱」というギャラリーとのつながりで知り合ったイラストレーターのイシヤマアズサさん。
 今でも自分の能力の低さを日々情けなく思っているけど、この時は今よりもずーっとずーっと無知でアホで無計画だったし、店も薄汚かったし、とにかくいろいろひどかった。そんな中で展示をしてくれて、怒ったり呆れたりせず、それからも仲良くしてくれている皆さんには感謝してもしつくせない。今はみんな仕事が増えてすっかり有名になっているのだけど、それは実力があるのも当然ながら、心が優しくて徳を積みまくってるからという理由も間違いなくあると思う。


 そうやって展示をしているうちに、シカクのギャラリー部門のポリシー……というと大げさだけど、「こういう感じでやっていこう」という方向性が見えてくるようになった。
 次回はそんな、私が展示をやる上でのこだわりについて書こうと思う。

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