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ひみつ持ち

以前にも似たようなことを書いているが、わたしは生粋の秘密持ちである。


秘密持ち、というのは「他人の秘密をコレクションしがちな人種」という意味だ。

これはもうずっと昔からそうで、高校生の時分からアラフォーの現在に至るまでず〜っと人様の秘密をストックし続けている。1番多いのは恋愛系で、「実は俺はあの人が好きで」とか、「実は彼くんと付き合っていて」とか、「実は道ならぬ恋をしていて」とか、「実は誰それに告白されて」とか。そういうことを数え切れないほど聞いてきた。そしてそれらの秘密を決して漏らすことなく、極めて誠実に我が胸の内に秘めてきた。だからすべてが明るみになった時「エーッ!!知らなかった!」の側には、いない。たいてい知ってて、全部話せる。1から100まで。でも話さない。


私がこんな風に秘密持ちであり続けていることには理由がある。1つは、口が固いこと。前述したようにわたしは常に知らぬ存ぜぬのスタンスを崩さない。涼しい顔を標準装備できる。セキュリティがとても強固なのだ。


しかし、より本質的な理由は、私自身が、コミュニティに属しているようでいて、実際には深く入れ込んでいないからではないかと思っている。そのコミュニティに一見、馴染んでいるようでいて、実はそこに属するすべての人から一定の距離を保っている。であるがゆえにどの政党にも属していない。他人は、私の旗色を伺う必要がない。だから「この人はきっと誰にも言わないだろう。なぜなら興味がなさそうだから」と無意識に安心感を抱いてしまうのではないか。人間関係の相関図はすべて把握しているけれど、そいつ自身はそこには入っていないモブキャラのような感じだ。


だからたぶん、実はわたしが秘密持ちであるということを、みんな知らない。「みなさまのお墨付きの相談相手」として看板を掲げているようなタイプではないから。しかし、だからこそ、より密な、特別なパイプが通じているように皆が錯覚してしまう。そういうタイプである。

時々、わたしはこうしていろんな人の秘密を保持することで生きているのではないかと思うことがある。恋愛、家族、仕事、性、エトセトラ、エトセトラ………。まるで私の身体には秘めごと専用の貯蔵庫があって、それらを養分としてチューチュー吸って生きている虫のようだなと、そんなふうに思ったりする。


翻って私自身のことを考えてみる。果たして私自身は、誰かに何かを打ち明けてきたのだろうか。


実は……これが恐ろしいことに【誰にも何も打ち明けていない人生】であることに気付いてしまった。

恋愛についても、家族についても、【誰にも】【なにも】相談したことがない。つまり、私はまずもって自分自身の秘密について、かなり有能なHolderであった。私の秘密は心のずっと深いところに、何重にも鍵をかけて、フェイクの包装紙に包みこんであって、決して明かされることはない。闇が深い。

弁解するわけではないが、私は嘘つきというわけではないと思う。ただし、真実のボリュームをかなり絞って生きている。誰に対しても、一定のボリュームを保っている。全開ではない。


わたしにとって秘密は弱みだ。そんなものを見せたら最後、無防備に腹を出してハッハッとしっぽをふっている犬ころと同じだ。


秘密を明かすことはまた求愛行動でもある。秘密をそっと打ち明けられた人間がどんな心理になるか、私はよく知っている。だからこそ、私は頑なに自身の胸の内を明かさない。少々傲慢な言い方になるが、その相手に特別な感情を抱かせたくないからだ。「俺にだけ特別な部分を見せてくれた」なんて思われたくないのである。


かくしてわたしは一方的に他者の秘密を摂取することで生き長らえている卑怯な人間になってしまった。そんないびつなコミュニケーションに違和感を覚えない人たちと、うまくやっていくことで、孤独の深淵に落ちずにすんでいる。


しかし、そんな私でも「それにしてもなんでコイツに」というような相手にやすやすと秘密を明け渡してしまう日がくるのだろう。 


くると良いなと思う。
 

 




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