見出し画像

『HYORONブックレット 歯の破折』より―はじめに

書籍『HYORONブックレット 歯の破折―その見つけ方と接着による対応のポイント』を1月8日に発刊しました! 
まだご覧になっていない方々のために「はじめに」をウェブ版として公開します(編集部)


編著者:長谷川晃嗣/東京都文京区・長谷川歯科診療所

QOL向上を目指す接着を用いた破折歯への対応

昨今,「診断に窮する」症例や「難治化した」症例は少しでも歯槽骨が残っている間に(インプラント治療の成功のために)抜歯する傾向が多いように思う.歯牙を救済する努力が後退しているように感じられ,とても残念である.

特に「垂直性歯根破折歯」はこの傾向が強く,「歯根破折している歯牙は抜歯の対象となることを国民に啓蒙する必要がある」とまで公言する臨床医もいる.
確かに「垂直性歯根破折」には鑑別すべき諸疾患があり,確定診断までに時間がかかることがある.確定診断できぬまま「姑息的」な治療に終始し,症状が増悪したあげくに抜歯となることがあるし,診断がついたとて「ホープレス」と扱われて抜歯となる.

1982年に始まった眞坂信夫による「接着を用いた破折歯への対応」=「垂直性歯根破折歯の保存延命療法」は病理学的,歯科理工学的な多くの基礎研究に支えられ,現在に至っている.
最新の治療技術,機材を駆使することで多くの垂直性歯根破折歯が「保存延命」可能となっており,10年,20年経過の保存症例が散見される現在,垂直性歯根破折への接着を用いた対応は,臨床家の中では「第一選択療法」としての地位を確立していると言えるのではないだろうか.

ここで言う「保存延命」治療の持つ意味は,垂直性歯根破折歯を「臨床的な治癒」=「寛解状態」に維持することである.大幅な予後の改善が長期に渡り,歯周組織破壊の拡大が長期間認められず,したがって今すぐに抜歯をする必要のない状態をキープすることである.
治癒を期待して行うものではないが,QOL向上ができれば治療としての地位が認められると考えている.

今後,学会主導レベルの大規模臨床試験が行われ,接着を用いた対応が垂直性歯根破折歯の「第一選択療法」となり,「EBMに基づく標準治療」としてガイドラインが作成されることを切に希望している.
本書が諸先生の「垂直性歯根破折」の診断や治療のヒントとなり,接着治療普及の一助となれば幸いである.

2020年12月
長谷川晃嗣

関連リンク
『HYORONブックレット 歯の破折―その見つけ方と接着による対応のポイント』
シエン社でのご購入はこちらから

月刊『日本歯科評論』のSNS
LINE公式アカウントFacebookInstagramTwitter

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?