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【書評】写真でマスターする 簡単・効率的な ラバーダムテクニック―実はやったことありません……という先生方へ

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2021年1月号掲載分の「HYORON Book Review」を全文公開いたします(編集部)


宮崎真至/日本大学歯学部保存学教室修復学講座 教授


「前準備諸(補助)法」に関しては,保存修復学の講義において比較的早い時期に行われるものであり,これは修復処置を行っていくための環境の整備,あるいは修復操作を容易とするための臨床的に必要とされるもの,という認識からである.
前準備には,修復処置のイニシャルプレパレーションとしての歯面清掃あるいは歯肉のマネージメント,歯間分離,隔壁,歯肉排除除痛法とともに,術野の明視と防湿などが含まれている.
その目的としては修復処置における操作性とともに,簡便性および確実性を向上させることにある.操作の簡便性を重視することで,診療時間を短縮することも大切ではあるが,確実な処置を行うことは長期的に良好な予後を得るために大変重要となる.修復処置の,いわゆる「お膳立て」となるのが前準備諸法である.

この前準備諸法の中でもラバーダム法(テクニック)は,特に学部学生教育の中で重要なものと位置付けられており,基本的臨床能力の習得度を客観的に評価する試験であるOSCE(Objective Structured Clinical Examination)の課題として採用されている.
一方,ラバーダムテクニックの臨床における実施に関しては,その重要性を認識してはいるものの,きわめてわずかな臨床家が行っているに留まっている.

ラバーダムテクニックの実施を躊躇する理由として,臨床医は「患者が嫌がる」「実施しなくとも臨床的な効果には変わりがない」,あるいは「装着に時間がかかる」などと考えている.
しかし,実際にラバーダムテクニックを施術された患者の多数が,この処置に対して「安心感」を抱いており,次回以降もこれを希望している.すなわち,歯科医師がラバーダムを行わない理由としてもっともらしい事項を挙げて,自分自身に対して診療のエクスキューズをしている,というのが実態なのである.

さて,ここで問題になるのが修復処置の「基本の基」であるラバーダムテクニックを,どのように修得するとよいかである.そこで登場するのが本書である.
副題にある「実はやったことありません……という先生方へ」は,まさにラバーダムテクニックの実施状況を表しているものであり,ラバーダムを行いたいものの必要な器材やその取り扱いに確信が持てないという臨床家の心理を突いたものといえる.ページをめくるだけで,図表をふんだんに取り入れている紙面構成であることがわかるとともに,学生実習で行っていたあの時の感覚がよみがえってくることは必定である.
一度は経験したことのある臨床テクニックは,頭の中で再構築することでその実施は容易となるはずである.特に,本書の著者は歯科大学における教育者としての長年にわたる経験とともに,現在は臨床医としての技術をも持ち合わせている.
そのような観点から,ラバーダムテクニックに必要な基礎知識に加えて,効率的な臨床手技のエッセンスが本書に詰まっている.

さらに本書には,ラバーダムテクニックの器具操作の基本はもちろんではあるが,臨床におけるヒントも随所に紹介されている.また,コラムで触れられているラバーダムテクニックの歴史はきわめて興味深いものがあり,改めて歯科治療の奥深さを感じることができる.
文章を読んで想起し,豊富な図説で理解できるように構成されている本書を,ぜひとも多くの臨床家の方々が手に取っていただき,日々の臨床に役立てていただくことを願うものである.

関連リンク
『写真でマスターする 簡単・効率的な ラバーダムテクニック―実はやったことありません……という先生方へ』(秋本尚武 著)
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