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HYORON FORUM:日本歯科専門医機構の役割と歯科専門医の今後

月刊『日本歯科評論』では歯科界のオピニオンリーダーに時評をご執筆いただく「HYORON FORUM」というコーナーを設け,コラムを掲載しています. 本記事では1月号に掲載した「日本歯科専門医機構の役割と歯科専門医の今後」を全文公開いたします(編集部)

今井 裕(一般社団法人日本歯科専門医機構 理事長)

歯科における専門医制度の課題

わが国における歯科領域の専門医制度は,1973年,日本口腔外科学会が「口腔外科専門医」制度を認定したことに始まり,以後,各歯学系学会が学会認定(専門)医制度の運用を行い,現在では日本歯科医学会(以下,歯科医学会)43分科会のうち,37学会が学会認定医・専門医制度を設けています.

歯科医学会の分科会以外にも学会は数多くみられ,これらの団体により認定された認定(専門)医も存在しています.しかし,学会の認定(専門)医制度は歯科医療・歯科医学の専門分化と深化を進めた一方,国民から十分な理解が得られていないことも指摘されていました.

そのような観点から,2005年,歯科医学会は歯科専門医制度のグランドデザインを策定,2010年には国民視点の歯科専門医制度の在り方について協議し,2012年に具体的な歯科専門医の在り方について示しましたが,いずれも活動は休止状態となり,歯科の専門性を協議することの困難さが窺われました.

歯科専門医機構の創設

しかしながら,2013年,新たな専門医の制度設計が示されたことから,翌2014年に(公社)日本歯科医師会(以下,日歯)と日本歯科医学会の両会長名で,厚労省医政局長宛に「歯科医師の専門医の在り方に関する検討会」を設置するよう要望書を提出したことにより,歯科の専門性に関する協議は急進展しました.つまり,2015年,厚労省内に「歯科医療の専門性に関するワーキンググループ」が立ち上げられ,現行の歯科専門医制度における改善すべき問題点が指摘されたのです.

これを受け,2017年に日歯,(一社)日本歯科医学会連合ならびに有識者からなる「歯科専門性に関する協議会」が設置され,議論した結果,現制度では,①専門医の認定基準を各学会が独自に設定していることから,養成される専門医のレベルが異なっていること,②専門医資格の名称を見ても,その専門性の内容や水準がわかりにくく国民の理解が得られていないこと,③超少子高齢社会における歯科医療の在り方,そして明らかにされつつある口腔と全身との関係を勘案すると,医科とは異なる観点から歯科領域においても新たな専門医が必要であること,などが指摘されました.

そして,質が担保された歯科医療を提供するための方策,システムとして歯科専門医を育成するとともに,国民にわかりやすく,中立性と公平性を有する組織での評価が必要で,第三者機構の設置が必要不可欠と結論づけられ,ついに2018年4月,一般社団法人歯科専門医機構(以下,機構)が創設され,現在では28の団体により社員構成されています().


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機構の組織

機構の活動は,第三者から構成される役員候補者選考会議で推薦された理事・監事候補者が社員総会にて承認を受けた後に,理事会構成者(現在,理事13名,監事2名,顧問弁護士1名)となり,機構の基本的な活動方針を定めるとともに,具体的な活動のため,以下の委員会が設置されています.

すなわち,大きく分けると,①歯科専門医の制度設計をする制度整備委員会,②実際の評価・認証を行う評価認定委員会,③歯科専門医制全般に関する事務手続きの対応を行う総務委員会,④歯科専門医制度の啓発普及や歯科専門医の情報管理を担うIT広報委員会で,これらの4つの委員会を基本に小委員会(新規専門医制度小委員会,学会専門医小委員会,共通研修評価認定小委員会,共通研修企画実施小委員会)ならびに臨時に設立される委員会が協働し,具体的な活動を推進しています.

機構の活動状況と今後

機構設立後約2年半が経過し,この半年間はCOVID-19の影響で活動に遅延が生じましたが,歯科専門医全体の制度設計に基づく評価・認証に対する申請受付が開始され,2020年10月には,申請された5学会(歯科麻酔,歯周病,小児歯科,歯科放射線,歯科口腔外科)すべての認証が終了しました.

現在は新たに創設される5つの専門領域(歯科保存,補綴歯科,矯正歯科,歯科インプラントならびに総合歯科診療医・いずれも仮称)について,関連する団体と協議を始めましたので,これらの領域の専門性を可及的早期に確立し,新たな歯科専門医の認証が可能になるよう尽力していきます.
これら以外にも“どのような歯科の専門領域が必要か”は,医科専門医制度との整合性,国民側が望む歯科医療の選択,そして将来の歯科医療を見通して,今後も検討を進めていく必要があるものと考えています.

いずれにしても機構は,歯科専門医制度が国民の信託に応えられているかを,第三者の立場で公正中立に評価し認証するための機関であるとともに,社会に対し説明責任を果たさなければなりません.特に,国民が歯科医療を受診する際の適切な指標となるよう,認証した制度ならびに歯科専門医の質を担保しつつ周知を図る大きな責務がある,と考えています.

そのためには,制度および認証方法を常に検証・改善し,あわせて公正性,透明性の確保,手続きの過程の情報公開に努め,認証された制度および歯科専門医を監督するとともに,継続的に歯科専門医制度とわが国の歯科医療の質の向上を支援していく所存です.

詳細は,(一社)日本歯科専門医機構ホームページをご参照ください.

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