ベンチプレスの左右差が発生するメカニズムについて

前書き

 本記事は、物理学的に正しい言葉遣いをしていないため、先に謝罪しておきます。何卒ご容赦ください。

始めに

 ベンチプレスの際、筋力の限界付近のレップになると左右で挙げるスピードが大きく異なってしまう現象がたまに見受けられます。単純に、利き手と比べて逆側の筋力が弱い場合で、トップ付近においてフィニッシュに1秒程度の差が生じるようなケースであれば大きな問題にはならないと思われますが、例えば、挙上の中間位で左側だけ数秒止まり、その間に右側の挙上を完了させ、その後に遅れて左側で挙上するようなケースであれば、肩に深刻な怪我をする可能性があるでしょう。
 以下のケースに該当する場合、改善の必要があると思われます。

①ワイドグリップだと顕著に左右差が生じる
②利き手の方が明らかに遅い、もしくは止まる
③筋力が弱い、または怪我している側(特に肩)の方が早く挙がる
※②と③はほぼ同義。

 これらの事象について、どういったメカニズムが発生しているのか、わたしの見解を以下に述べてみたいと思います。
 なお、これが絶対という訳ではなく、あくまで一個人の見解であるという点をご承知おきいただければ幸いです。

ワイドグリップとナローグリップの違い

 ワイドグリップの方が左右差が出やすく、また逆に左右差の矯正にナローグリップが推奨されることもあります。その理由を力のモーメントで説明してみたいと思います。
 以下は、利き手が左で、右が先に挙上してしまうモデルです。

 上図では、ワイドグリップ(81cmライン幅)とナローグリップ(60cm程度)において、片側だけを挙げようとした場合、ワイドグリップと比べてナローグリップの方が1.33倍程度、挙上に必要な力が余計に掛かることを説明したものです。言い換えれば、ワイドグリップではナローグリップの75%程度の力で片側だけであれば挙げることが可能です(※)。
 ※三頭筋のラテラルフォースなどは無視したモデルでの説明のため、厳密ではありません。また、簡略化のため可動域の違いも無視しています。

 これだけだと理由が分からないと思いますが、パワーリフティングを物理的に説明する際、例え話として『レンチ』を用いることがありますので、本件においても同様にそれで説明をしてみます。

 レンチが長い方が短いよりも軽い力でナットを回すことが出来るということは理解出来る方が多いかと思いますが、これをベンチプレスの左右差に当てはめてみましょう。

 このように、手幅をレンチの長さ、動か(さ)ない左側をナットに当てはめると、手幅が広がるほど片方だけを挙上する力は少なくて済みます。つまり、手幅が広いほど左右差が起こりやすくなるとも言えます。
 ワイドグリップを手幅80cm、ナローグリップを手幅60cm、ワイドグリップで必要な片側だけを挙上する力を100N(この数字は何でもOK)とし、ナローグリップで必要な片側だけを挙上する力をX(N)とすると…

X(N)×60(cm)=100(N)×80(cm)
X(N)=8,000/60
X(N)≒133 となります。
 かなり簡略化していますが、ナローブリップはワイドグリップと比べておおよそ1.33倍の力が必要だと計算出来ます。

 ワイドグリップはナローグリップよりも左右差を起こしやすい理由が理解出来たと思いますが、これらの説明で「怪我などなければワイドグリップで利き手側をわざと遅らせて左右差を起こすと弱い方をカバーして楽に挙上が出来るのでは?」と考えた方が居るかも知れませんが、それはほぼあり得ません。なぜなら、左右差が起きることで挙上スピード(≒時間)が犠牲になるためです。挙上スピードを犠牲にし、動作を終えるのに余計に掛かる時間を、片方の手(≒肩)で負担する必要があるため、怪我の原因にもなります。仮に左利きの選手が挙上途中で左側を止めて右側だけ先に挙上するのに2秒掛かると、おそらく左側を挙げるのにさらに2~3秒掛かるでしょう。挙上を終えるまでの間、その余計に掛かった時間だけ左側で受け続ける必要があるため、特にワイドグリップでは肩に掛かる負担が大きくなります。

片側だけ先に挙上してしまう理由

 特に限界付近になると、挙上に左右差が生じるケースを目にすることがあると思います。その理由ですが、人間は両手で同時に出力するより片側だけ出力を集中させた方が力を発揮しやすく、そのことが大きく影響しているためだと思われます。例えば、ダンベルベンチプレスを両手で保持したまま片側ずつ挙上するユニラテラルでのトレーニングは、特に初級者や中級者であれば両手同時(バイラテラル)に動かすよりも高重量が扱えることがあるでしょう。
 ※上級者になると神経系が十分に発達しているため、それほど差は出ないと思われます。
 また、片側だけ先に挙上する場合、もう片側で受け続けている間は、挙上するのではなく、『その場でバーベルを強く保持し続けるだけで済む』ため、かなり個人差はありますが10%程度は力をセーブすることが可能で、そのことで余計に利き手側で受け続けてしまい、弱い方で挙上を先に完了させようと無意識に選択しているものだと思われます。
 具体的な例を挙げて考えてみます。例えば、150kgのベンチプレスを行うにあたり、挙上する力が同じ150kgでは通常はバーベルを挙上出来ません。当然ですが、バーベルを動かすためにはバーベルの重さ以上の力を加える必要があるためです。フォームや体型による個人差などは大きいですが、おおよそ10%はバーベルの重さを上回る力を与えないとバーベルは挙上出来ないはずです。『0.001%でもバーベルを上回る力があれば挙上出来るはずでは?』と思った方が居るかも知れませんが、確かに数ミリであればバーベルを挙上出来る可能性はあるものの、挙上を完了するまでに時間が掛かり過ぎてしまうためほぼ不可能です。最大筋力を何秒間も全力で出し続けることは人間には出来ないため、挙上するよりも先に力尽きるからです(※)。
※スティッキングポイントで最大出力を発揮出来るかという問題などもありますが割愛。
 155kg~160kg程度の出力を発揮出来る人が150kgのベンチプレスを試みても多少粘れるものの潰れてしまう可能性が高いと思いますが、ボトムポジションで反動を使ったり筋力の弾性エネルギーを得られれば、自身の本来の力を上回る出力を得ることが可能となり、中間位くらいまでなら挙上が出来るかも知れません。そこで、その中間位において、利き手側に『バーベルを動かさず保持するだけの出力』をさせることが出来れば、バーベルの重さ150kgに対し、同じ150kgを出力し続けるだけで済むため、理論上は中間位で暫く持ち堪えることが出来ます。その際、逆側で挙上する意識に全力を注ぐことで、片側だけ動作を完了させられる可能性はあります。そして残された利き手側で全力を振り絞り、動作を完了させようとする…これが『限界付近になると利き手側が遅れてしまう』ケースで起こる現象だと推察されます。

改善策について

 ここでは多くを述べませんが、個人的には以下を推奨します。
①ナロー手幅を多めに行う。
②徐々にワイドグリップへ移行する。
③弱点(特に肩)へのアプローチを平行して行う。
④挙上の際、左右差を起こさない意識付けを徹底する。
 
 ごく初歩的ですが、これが王道の改善策だと思われます。これらについては時間を掛けて丁寧に行う気持ちを持って取り組むと良いと思います。

試合での判定について

 パワーリフティングの試合においては審判の目線も重要で、『片側だけ遅れたら物理的にバーの先端が下がるので必ず赤判定になるはず』と思った方が居ると思いますが、現実はそうではありません。その理由を簡潔に答えると、『審判はバーの先端ではなく、バーの中心部分が下がったかどうかを見ている』からです。詳しい説明は省略しますが、片側だけ先に挙上するとバーの先端は下がるものの中心は上がるから挙上に左右差が生じても判定に影響はありません。仮に赤判定がついたとしたら、誤審か実際に片側が下がってしまっているだけです。同じ高さで片側だけ保持し続けていれば、バーの中心は絶対に下がりません。意味が理解出来ない方は、セフティにバーを置いて片側だけ持ち上げてみればすぐに分かるはずです。

終わりに

 左右差が生じることで得られる恩恵よりも怪我のリスクの方が圧倒的に高いと言えるため、明らかな左右差が生じている自覚があるのであれば、早急に対処した方が良いと思います。他の種目でも言えることですが、フォームが悪いまま高重量をエゴイスティックに扱い続けることで身体に余計な負担を掛け、将来的な伸びしろを潰すことがないように気を付けましょう。

 今回の記事作成にあたり、簡略化したモデル、体型やフォーム差にほぼ言及していないなどの点から、これらの内容は概論的なものだと認識していただければ幸いです。また、これらの記事を作成するにあたり着想5分、執筆2時間、図の作成3時間という超大作となりましたため、あまり推敲していません。
 個人的に『当たり前のことをあらためて考える』という行為が好きなので、このような雑文を執筆するに至ったのですが、残念ながらこの記事を読んでも何も得ることがないでしょう。わたしも何も得るものがありませんでした。とりあえず褒めていただければそれだけで結構です。『天才!』とか『現代のレオナルド・ダビンチや!』など、多くの賞賛の声をお待ちしております。なお、誤りなどがあった場合、そっと教えてください。こっそり修正しておきますので、よろしくお願いします。
 ほんと疲れたよ…

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