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バルミューダフォンがなぜダサいのか?

ビジネスに使えるデザインの話

デザイナーではない方に向けた、ビジネスに役立つデザインの話マガジン。グラフィックデザイン、書体から建築まで扱います。毎週火曜日7時に更新。


まとめ

まとめるとバルミューダフォンには記号と価格に相当する機能がないため、批判の的になっている。ダサい理由は、受け手とメッセージの送り手とのあいだに大きなズレがあるため。今回は、デザインのクオリティとは何ぞや、ということを明文化するためにバルミューダフォンを素材にしてみました。


「ダサい」の定義

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誰かが心身を注いで作ったものを批判するは、心地よくないし、申し訳ないし、また「何かを批判する人」という良くない印象を形成するリスクもあるので避けたいものです。それでも、「〇〇がダサい」と言って批判するのは、デザインの良し悪しを判断するための実例になると考えたから。少なくともわたしのなかでデザインの良い悪いの分岐線がどこになるのか、また明文化しづらい「ダサい」をどこまで言語化できるのかというトライアルでもあります。まずは「ダサい」の定義。

「かっこういい」にしろ「うつくしい」にしろ「ダサい」にしろ、なになに故にとロジックを組み立てるのは難しい。山口周さんは『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』において、計測可能な指標の外に「美意識」があると説かれています。

かっこういいやダサいもまた、そこに含まれる批評や感受です。それをある程度、格子がわかるように構成を仮説してみたいと思います。まずは「ダサい」の定義それは、

ダサい=大きなズレ

ダサいは「大きなズレ」と定義します。ズレというのは、受け手がキャッチする場所と投げ手が狙った場所がズレているという意味です。例えば、スーパーなどのチラシが投げるメッセージは、「安くてお得!だから急いで買って!」。勢い、わかりやすさがメッセージのニュアンス。」

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画像引用:スーパー出玉のチラシ

価格はわかりやすく大きく、文字には縁がついています。大きさにメリハリがあり、リズムもあります。トントントン♪という勢い、わかりやすさ。伝えたいことが受け手にそのまま伝わるビジュアルです。これは安くてもダサくない。ズレがないから。

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画像引用:Breguet 
https://www.breguet.com/jp#

こちらはラグジュアリー腕時計「ブレゲ」のウェブサイト。文字がよく読めません。ラグジュアリーブランドは、「誰でも分かる」の対局のメッセージを伝えようとしています。そのニュアンスは「分かる人には分かる」。故にロゴは小さくなり、メッセージは読みやすさより印象を重視し、そして手に触れる機会があれば、手触りを重視します。触れれば分かる。このウェブサイトもまたズレなき良いデザインであり、格好いいともダサくないとも言えるものです。

良いデザインの構成要素

ヴァルミューダフォンについて触れる前にさらに2つの話を簡単にしておきたいです。1つは「良いデザインの構成要素」。2つ目は「プロダクトの存在意義」。まずは「良いデザインの構成要素」。「良いデザイン」とは何か。元来は、もっと多くの構成要素があり、それらをすべて挙げることはできません。そしてそれぞれの重要度は場面によって変わってきます。つまり定義しづらい。しかしそこを開高健にならって無理して言語化していきます。(開高健とは、「筆舌に尽くしがたい」という逃げ道に逃げ込まない日本の作家。)

良いデザイン = セオリー + 時代圧 + 思想

良いデザイン、つまり「美しい」とか「心の響く」、そういうデザインは、これらの構成要素から成っています。

セオリー
まずセオリーとは、美しさのセオリー。黄金比、白銀比、錯視調整、ジャンプ率(などなどなど)、デザイナーが学び、重視する基礎的なセオリーや法則など。これに配色や書体、バランス、レイアウトなどの知識も追加してここに含めます。セオリーと知識でデザインは、ある美しさを確保します。

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source: sumally “Josef Müller-Brockmann "beethoven" Concert Poster”

こちらは、グリッドシステムというデザインセオリーを確立したスイスのデザイナー、ジョセフミュラー・ブロックマンによる音楽祭のポスターです。1955年にデザインにされたもの。スイスデザインを代表する幾何学的な美しさを持つデザインです。時代圧を超える普遍性を持っています。つぎにその時代圧。

時代圧
時代圧とは、ありていに言えば「流行」です。ファッションにしろ、デザインにしろ流行というものがあります。それは時代の潮流を反映したもので、決して軽視できないものです。例えばGoogleのロゴは、1997年から現在に至るまで7回変わっています。実店舗があるわけではありませんが、グローバル企業のロゴの変更には多額の費用がかかります。にも関わらず、変更する理由は、時代にキャッチアップしているという姿勢を内外に示す必要があるためです。加えて、思想が変わったときもまたそれを伝えるためにロゴを変更します。

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source: MinimalistWPThemess “GOOGLE LOGO HISTORY FROM 1997 TO 2017”

思想
つぎに思想。これはデザインの中身です。美してくても中身がなければ、何も伝わりません。無言電話のようなものです。

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source: INTERVIEWS “The brand new Zara logo”

こちらはZARAのロゴの遍歴です。新しいロゴをデザイン、ディレクションをしたのは、Baron & Baron。まだまだ実店舗のロゴサインをすべて変えられていませんが、2019年にロゴを変えた理由は、ZARAがファストファッションよりラグジュアリーのニュアンスを持つ独自のマーケットを切り開こうとした思想を反映させるためです。新しいロゴにつかわれている書体は、モダンローマンという種類の書体で、Vogueなどのファッション誌のロゴに使われているものと同じカテゴリーのものです。ラグジュアリーに寄せるなら、落ち着きある字間を設けます。Louis Vuittonのロゴのように。

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画像引用:FASHIONSNAP.COM 「「ルイ・ヴィトン」日本最大規模の店舗が大阪・御堂筋にオープン、初のカフェ併設店に」

それをドルチェ&ガッバーナのロゴより詰めています。詰めているのは、落ち着きよりも「速さ」をある意味体現したものです。ラグジュアリーでありながらファスト(速い)、そういう新しい思想。このように思想はデザインの中身に相当します。

これらが、合致し、伝えたいことを伝えたい以上に受け手に伝えられているものを「良いデザイン」と評価できます。

プロダクトの存在意義

2つのめのプロダクトの存在意義ですが、紙面をトリすぎたの更に簡潔に結論を言うと

プロダクトの存在意義=記号 or/and 機能

まず機能から。わたしたちが、あるほしいもの、例えば本を開いたままにしておけるストッパーのようなもの。

この製品。すごく便利です。この製品を作っているメーカーがどこかなんてしらないまま、わたしは購入しています。ここに求めているのは、ほとんど純度100%の機能です。一方こちらは、カルティエのサントスの自動巻き。


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画像引用:Cartier SANTOS DE CARTIER CHRONOGRAPH WATCH

価格は税込みで167万円。腕に巻くためにデザインされた世界で初めての腕時計です。ルイ・カルティエが発明家であり飛行士のアルベルト・サントス=デュモンのために制作したものです。芸術品として評価されるラグジュアリーウォッチのひとつですが、機能で言うなら、G-ShockやApple Watchのほうが圧倒的に上位です。しかしこの製品を求め、購入し、身につけるひとたちがいます。この製品の存在意義は、ステイタス、冒険と探求の歴史、飽くなき技術の追求、それらをひっくるめたロマン、というものを自分に属させたいという思い、つまり「記号」です。


バルミューダフォンがなぜダサいのか?

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やっとバルミューダフォンの話に到達しました。ここまで読んでくださってありがとうございます。バルミューダフォンに決定的に欠けているもの、それは「記号」です。Appleが販売しているものは、機能より記号です。美意識をわたしは持っていますという記号です。さらにもちろん機能も追加されています。機能付き記号と言えます。製品の品質もトップクラス。性能だけで言えば、iPhoneに劣らない他のブランド、メーカーのスマートフォンは存在しています。しかしAppleが明確にばらまいている記号に匹敵する記号を持つ商品は多くはありません。

そしてバルミューダフォン。バルミューダは、元来、どういう記号を持っていたかと言うとざっくり言えば、

「あまりおしゃれなものがない家電のなかで、値は張るがおしゃれだし、魅力的な機能もあるもの」を購入する美意識を持っています

というものでした。その代表が「スチームトースター」。

その他の商品は、そんなに売れていません。薄利多売の逆で、厚利少売という戦略。

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高いものを少し売る。これがバルミューダの戦略です。それはさておき、ポジションは、おしゃれなものがあまりないところで、比較的おしゃれにみえるものを高く売る、というのが、受けてから観たバルミューダのコンセプトと言っても良さそうです。

そして実はデザインの質でいえば、さほど高く有りません。比較的おしゃれという程度。その理由は割愛します。ごめんなさい。

上記のようなポジションのまま、スマートフォン市場への参入したわけですが、スマートフォンにはすでに「おしゃれ」も「機能」も飽和しています。そこに「自称」おしゃれなバルミューダが参入していくと、じつはポジションが見つからないわけです。つまりわたしたちは、

バルミューダフォンに記号をひとつも見いだせな

わけです。画一的なスマートフォン市場に一石を投じるというニュアンスのアナウンスもありましたが、抜けて記号を見いだせるものではなく、「昔のiPhoneに見える」というぐらいしか受け手は感じられませんでした。これが「大きなズレ」です。ゆえに「バルミューダフォンはダサい」ということになります。

バルミューダフォンへの批判はスペックがほとんど

YoutubeなどのSNSにおいてバルミューダフォンは批判されていることが多いのですが、その内容はほとんどスペック。つまり機能。なぜなら記号がまったく見当たらないから、機能に焦点を当てるほか無いからだろうとわたしは推測しています。記号がなく、機能はミドルクラス、そして価格はハイエンドクラス。だから批判されてしまっているではないでしょうか。スチームトースターには機能も記号もありました。しかしバルミューダフォンには、機能も記号も見当たらないのです。


プレゼンテーションのデザインの質が低い

さらにバルミューダフォンは、プレゼンテーションのデザインの質が低い。どこが? それはプレゼンテーターのファッションとスタイル

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yahoo!news “Upmarket toaster maker Balmuda launches smartphone in iPhone-dominated Japan
寺田CEOによるプレゼンテーションの様子

お腹が出ているのが目立つ白いTシャツ。全体的にサイズがフィットして見えないジャケット。体型を視覚補正しないコーディネート。ジョブスを彷彿させるから比較していしまうジーンズ。しかしスティーブ・ジョブズは、一見シンプルに見えたコーディネートも印象を徹底してコントロールしようとしていました。下の写真を見てみてください。おそらく自分に当たる照明の具合も勘案しているはずです。バルミューダのプレゼンテーションは照明についてはあまり考えていなかったはずです。

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source: The 10 Things Steve Jobs can Teach Every Public Speaker

御存知の通り、このタートルネックはISSEY MIYAKEに依頼して特注しています。スティーブ・ジョブズの体型に完璧に合致するように採寸されて作られたもの。

これらから、受ける印象は、ツメの甘さ、ディテールへのこだわりのなさ、そして受け手がどう捉えているかを重視していない姿勢。独りよがりとも言える姿勢です。


実機に触れずに批判するな?

実機に触れば、本質的に持っている魅力を理解できるのでは?そうかもしれませんが、わたしたちは製品に魅力を感じるのは、SNSやニュースや広告やマスメディアで触れたときがほとんど。そのために、多くのファッションブランドはロゴを変更までしています。ゆえにまず、実際に触れる前に魅力が伝わらないといけないはずです。


最後のまとめ

バルミューダフォンには記号が見いだせないことが大きな欠点。メッセージが受け手と送り手で同じ位置にあるとき、デザインは評価され、好まれ、(野球で言えばストライクのようなもの)、大きくズレていると「ダサい」と思われます(ボールまたはデッドボール)。

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