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クリストファー・ノーラン新作 『オッペンハイマー』と書体“GOTHAM”

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています

今回の話のビジネスに使える理由は以下のとおりです。

知っておきたいレベルの有名書体とその使い方を知れるから


映画『オッペンハイマー』とオッペンハイマー

2023年7月公開予定のクリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』
主演はキリアン・マーフィ。
Image source: Variety.com

『オッペンハイマー』は、クリストファー・ノーラン監督による、2023年公開の予定の映画です。主演は、キリアン・マーフィ氏。「完璧主義」と呼ばれるクリストファー・ノーラン監督は、イギリス(UK)とアメリカ合衆国の国籍を持つ、2022年現在51歳の映画監督で、今までの作品は、『メメント』、『インソムニア』、『バットマン ビギン』、『ダークナイト』、『ダークナイト ライジング』、『インターステラー』、『インセプション』、『ダンケルク』、『テネット』など。私見ですが、すべて面白い!そしてディテールがすごく緻密です。

クリストファー・ノーラン監督
image source: Looper

上記の映画『オッペンハイマー』のビジュアルでキリアン・マーフィ氏はタバコを咥えていますが、ノーラン監督は元来映画のセットではタバコを吸うことと携帯電話を使うことを禁じているそうです(*1)。実際のオッペンハイマーは1日に100本のタバコを吸っていたそうなので、さすがにこのキャラクターにタバコを吸わせないわけにはいかないようです。

クリストファー・ノーラン監督の映画『テネット』に関連した記事


ロバート・オッペンハイマー

ロバート・オッペンハイマー
画像引用:nikkidoku.exblog.jp

J・ロバート・オッペンハイマー(J. Robert Oppenheimer、1904– 1967)は、アメリカ合衆国の理論物理学者。理論物理学の広範な領域にわたって大きな業績をあげ、第二次世界大戦中のロスアラモス国立研究所の初代所長として、マンハッタン計画(後述)を主導し、卓抜なリーダーシップで原子爆弾開発の指導者的役割を果たしました。そのため「原爆の父(father of the atomic bomb)」として呼ばれています。1945年7月16日、ニューメキシコで行われたトリニティ実験にオッペンハイマー氏は立ち会っています。彼は後に、この爆発で『バガヴァッド・ギーター』(ヒンドゥー教の経典)の言葉が浮かんだと語っています。

「今、私は世界の破壊者である死となった」
"Now I am become Death, the destroyer of worlds."

1945年8月、この兵器は広島と長崎への原爆投下で使用されました。終戦後、オッペンハイマー氏は、新たに創設されたアメリカ合衆国原子力委員会の影響力のある一般諮問委員会の委員長となりました。彼は、その地位を利用して、核の拡散とソ連との核軍拡競争を回避するために、原子力の国際的な制御を働きかけました。1949年から1950年にかけて行われた水爆に関する政府間討議では、水爆開発に反対し、その後も国防関連の問題で、米政府・軍内の一部派閥の怒りを買うような発言をしています。よってアメリカ政府に敵視され、多くの権利を剥奪されてしまいました。政治的な影響力を失ったオッペンハイマー氏は、物理学の分野で講演、執筆、研究を続けました。9年後、ジョン・F・ケネディ大統領から、政治的更生の意味を込めてエンリコ・フェルミ賞が贈られました。


マンハッタン計画

トリニティ実験の写真
ハイスピードカメラによって撮影された、ガジェットの爆発から0.016秒後の火球(サイズは約200 m幅)。地平線に沿った黒点は樹木。 (バーリン・ブリクスナー撮影)
Berlyn Brixner / Los Alamos National Laboratory - http://www.lanl.gov/orgs/pa/photos/images/PA-98-0520.jpeg, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4179325による

マンハッタン計画( Manhattan Project)は、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツなどの一部枢軸国の原子爆弾開発に焦ったアメリカ、イギリス、カナダが原子爆弾開発・製造のために、科学者、技術者を総動員した計画です。計画は成功し、原子爆弾が製造され、1945年7月16日、世界で初めて原爆実験を実施しました。さらに、広島に同年8月6日、長崎に8月9日に投下、合計数十万人が犠牲になりました。これは戦後の冷戦構造を生み出すきっかけともなりました。計画の名前は、当初の本部が、ニューヨーク・マンハッタンに置かれていたため。最初は「代用物質開発研究所 (Laboratory for the Development of Substitute Materials)」と命名されていました。

ちなみに映画『テネット』のなかで、マンハッタン計画について触れる場面があります。


映画『オッペンハイマー』のポスター

映画『オッペンハイマー』のポスター
Image source: Oppenheimer twitter account

こちらが、公開1年前となる2022年7月21日に公式Twitterアカウントによって公開された映画のポスターです。要素のレイアウトがユニーク。爆発の煙の中に佇むオッペンハイマーのシルエットを優先し、キャスト名を最上部にもってきています。このポスターの目線の順位は、タイトル→ビジュアル→(最下部の)IMAXと監督名→(一番上に戻って)キャスト名となっています。この大胆な構図は、スティーヴン・フランクファート氏&フィリップ・ギブス氏らの映画ポスターやカッサンドルのポスターを彷彿させます。

スティーヴン・フランクファート氏&フィリップ・ギブス氏デザインの映画『白銀のレーサー』(Downhill Racer)(1969)
スティーヴン・フランクファート氏&フィリップ・ギブス氏デザインの映画『エマニュエル夫人』(Emmanuelle)(1974)日本のポスターはもっと直接的でした。
A.M.カッサンドル「ノール・エクスプレス」(1927年)
画像引用:八王子市夢美術館


ポスターに使われいる書体は、“Gotham(ゴッサム)”

このポスターに使われいる書体は、“Gotham(ゴッサム)”というものです。

書体 Gotham
Image source: Pixelbag.

書体カテゴリー:サンセリフ
分類:ジオメトリック
デザイナー:Tobias Frere-Jones, Jesse Ragan
メーカー:Foundry Hoefler & Co.
リリース:2000年

この書体は、2008年のオバマ前大統領が大統領選のキャンペーンで使用したことで有名です。

Gothamはオバマ前大統領のキャンペーンで使われ、有名になりました。
By IowaPolitics.com - Final pre-election visit by Barak Obama to Iowa., CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=68691888

オバマ大統領選挙キャンペーンの初期の資料では、エリック・ギル氏のデザインしたPerpetuaという書体が使われていました。

しかしその後、Gotham(ゴッサム)に変更され、選挙戦の多くの看板やポスターにこのフォントが使用されるようになりました。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、その選択を「現代的な洗練(彼のスーツへの敬意)とアメリカの過去への郷愁と義務感の、暗黙の了解とはいえ、強力な組み合わせ」と賞賛しています。(*2) また、グラフィックデザイナーのブライアン・コリンズ(Brian Collins)は、Gothamがオバマ氏のキャンペーンイメージ全体の「要(linchpin)」であったと述べています。(*2) 

オバマ氏が大統領に就任した後、Gothamは、様々な連邦政府のプロジェクトに採用され、特に2010年合衆国国勢調査のVIにも採用されました。

Gothamとはどんな書体か

Gothamは、アメリカの書体デザイナー、Tobias Frere-JonesがJesse Raganと共にデザインし、2000年からHoefler & Frere-Jones鋳造所からリリースされた書体です。ジオメトリック(幾何学的)に分類されるサンセリフです。サンセリフとは日本で言うところの「ゴシック体」。20世紀半ばの建築サインからインスピレーションを受けて、デザインされています。

Gothamは当初、雑誌『GQ』から依頼されてデザインされました。編集者は、「男性的で、新しく、新鮮」に見える「幾何学的なサンセリフを雑誌に使いたいと考えていました。これをうけて、デザイナーのTobias Frere-Jonesは、カメラを持ってマンハッタンを1ブロックずつ歩いて資料を探し、古い建物に見られる文字、特にポート・オーソリティ・バスターミナルの8番街のファサードにあるサインをこの書体のインスピレーションとしました。Tobias Frere-Jonesは、ニューヨーク育ちで、古いニューヨークのイメージに慣れ親しんでいた個人的な背景もありました。そんなわけで、(名前もですが)、Gothamは、

古き(1930年代から1960年代にかけて)ニューヨークの街並み

を文字化したような書体です。さて思い出していただけるでしょうか。オッペンハイマーといえば……

マンハッタン計画

なんです。Gothamがインスピレーションにもとめたニューヨークもまたマンハッタン計画の時代とかぶります。これ以上ないほどに、この映画にぴったりな書体、それがGothamです。

購入は、Hoefle&Coのオフィシャルサイトから。


Gothamのその他の使用例

映画『007 スペクター』のロゴにもGothamは(切子細工になっていますが)使われています。
Source: www.007.com © 2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. License: All Rights Reserved.


余談

ちなみにティザー動画で使われている書体は現状バラバラです。


まとめ

正直、ここまで内容と符合する書体選びはそうそう見ないと思います。そしてイメージづくりとしてすらぴったりな書体選びです。Gothamは人間味をなくし、工業的なイメージでデザインされた書体です。ゆえにまるで兵器にレタリングされたような印象を与えるタイトルになっているはずです。(特に数字の“3”)感嘆!


参照

*1

*2


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