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「香り」 ラグジュアリーで使われるデザイン

香りはデザインか?

デザインの定義は、さまざまですが、とりあえず、Paul Ralph博士とYair Wand博士の定義を参照してみます(※1)。

To create a specification of an object, manifested by an agent, intended to accomplish goals, in a particular environment, using a set of primitive components, satisfying a set of requirements, subject to constraints.
「ある特定の環境下において、目的を達成することを意図し、いくつかの制約に限定されながらも、望むべきことごとの基準を満たすべく、利用可能な要素を使って、対象物の仕様を生み出すこと」


何言っているか、よくわかりません。わたしの翻訳の問題ではないと思います。厳密さを追求するとこうなるわけですが、それを取っ払って本質だけにして換言するとこうなると考えます。

「目的を達成するためにできることをすること」

そもそもデザインには、「設計」という意味があります。設計という概念自体が、何かの目的を持っています。デザインというのは、元来、なにかの目的達成のために設計することなんです。そしてこの設計は、そのあとの創造も含みます。このあたりが、デザイン周りのことごとを「クリエイティブ」という根源といえます。

「おしゃれ」とか「美しい」とか「キレイ」は、デザインの必要条件ではなくて、結果への評価に過ぎないんです。汚くても、美しくなくとも、当初の意図が達成できいれば、有効なデザインです。

さて、前置きが長くなりましたが、デザインの定義を念頭においたうえで香りはデザインかと考えるともちろんデザインと言えるわけです。


ラグジュアリーのデザインは「わかりづらさ」を含む

前回、ラグジュアリーを伝える素材として「紙」について触れました。

この記事でも解説しましたが、

ラグジュアリーがメディアを通して伝えたいものは「本物感」です。

メディアとは、コンセプトを伝えるものすべてを指していて、パンフレットやパッケージ、広告、DM、店舗、ウェブサイトなどです。

「本物感」とは、「偽物ではない」ことが確認できる感覚です。紙などのテクスチャ(手触り)のあるものは、本物と偽物を分ける情報です。木目調と実際の木の違い、コンクリート風の壁紙と本物のコンクリートも触れればわかります。しかし革と合皮となるとちょっとわかりにくくなってきます。それを助けてくれるのが、もうひとつの情報、「匂い」です。

その前に、ラグジュアリーブランドが、その本物感を伝えるために提供する情報は、「わかりづらいが、本物がわかるあなたなら、この違いがわかるかも」というニュアンスを含んでいることが多いんです。感じ悪いかもしれませんが、試金石のような情報でもありますし、分岐線とも言えます。ラグジュアリーブランドのパッケージや紙袋が、シンプルな意匠、つまり見た目なのに対して、原価がとても高くなる紙や加工を施しているのは、そういうニュアンスを伝えるためと解釈できます。


香りは、手触りよりは、わかりやすい

紙などが伝える手触りより、香りという情報はわかりやすいものです。知覚しやすい。しかし手触りと同じく、「見に見えない」もので、その価値を説明するのも、理解するのも、少しハードルが高くなります。デザインで言えば、デザイナーがいくらそれを意図しても、発信者(クライアント)が、それを理解しないことには、そこに重きやコストをかけることはできません。

加えて、香りまでデザインするデザイナーも多くいるわけではないでしょう。では、どこでそれを体感できるのか?それはラグジュアリーホテルが一番わかりやすい場所です。ついで、一部の店舗。一部の店舗については、セレクトショップ「ユナイテッド・アローズ」が、独自の香りを作り、ディフューザーを使って店内で使用しているはずです。現在もそうしてるか不確かで「はず」とつけています。


香りをデザインとして使っている都内ラグジュアリーホテル×5つ

ラグジュアリーホテルは、匂いのマネジメントを行っているところがいくつかります。リーガロイヤルホテル東京のサービスチーム長曰く、

「昔から我々には『客室にはまず鼻から入れ』という教えがある」

とのこと(※2)。ホテリエたちは、体臭や口臭への配慮もしているそうです。リーガロイヤルホテル東京は、ロビーなどの大きな空間でアロマディフューザーを使って、匂いをデザインしています。その他の都内のホテルでもホテル独自の香り作ってロビーなどの共有空間の匂いをデザインしているところがあります。

パレスホテル東京

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(画像引用:一休「パレスホテル東京」

皇居横にあるパレスホテル東京では、空調を通して独自の香りを空間に満たすようにしています。ブルーサイプレス、アニス、ユーカリ、レモン、ライムなど11種類のアロマをブレンドした、清涼感ある爽やかな、そしてどことなく和を感じる香りです。


マンダリンオリエンタル東京

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マンダリンオリエンタル東京では、LABORATORIO OLFATTIVOのBIANCO FIORE(ビアンコフィオーレ)が使われています。他国のマンダリンオリエンタルでもそれぞれの香りがロビーを満たしています。ビアンコフィオーレは「白い花」という意味です。


コンラッド東京

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(画像引用:一休「コンラッド東京」

東京湾が一望できるセクシーなホテル、コンラッド東京の香りは、Experience(エクスペリエンス)という名のオリジナルフレグランス。ベルガモットや、ラベンダー、バイオレットなどのアロマを調合したもので、やっぱり爽やか。ロビーに足を踏み入れた途端に香ります。ホテルで販売しています。

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(画像引用:一休コンシェルジュ「都内の憧れホテルの香りを自宅でも。オリジナルフレグランス特集」


ザ・リッツ・カールトン東京

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(画像引用:一休コンシェルジュ「都内の憧れホテルの香りを自宅でも。オリジナルフレグランス特集」

六本木のラグジュアリーホテル、リッツ・カールトン東京。こちらもやはり海外からの宿泊者を意識してか日本らしい香りのグリーンシトラス。グリーンティなどのニュアンスがあります。こちらもホテルで販売されています。


シャングリ・ラホテル 東京

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(画像引用:一休コンシェルジュ「都内の憧れホテルの香りを自宅でも。オリジナルフレグランス特集」

東京駅よこにあるシャングリ・ラは、1階にあるエレベーターホールからこの香りがします。シャングリ・ラの香りは世界中のシャングリ・ラホテル共通で、「シャングリ・ラ エッセンス」というもの。

他のホテルでもオリジナルの香りでもてなしているところが多くあります。


香りが伝えるもの

ラグジュアリーホテルでの香りの機能は、まずはブランディングです。ブランドの機能は、同定(どうてい)。同定とは、同一であると見きわめるという意味。他と違うこと、つまりアイデンティティのサインです。しかしこれは提供側の都合にすぎないものとなります。ラグジュアリーホテルは、ブランディングのみならず、同時に快適さの提供を意図しています。

万人に好まれる香り、という難しい制約(冒頭でPaul Ralph博士らが言うところのconstraints)を乗り越えて、作り出したこのデザインは、嗅ぐ人をリラックスして、気持ちよくする機能を持っています。例えば、

「ここは日本で、癒やされる空間です。どうぞおくつろぎください。ちなみに当ホテルはパレスホテルでございます」

こんなニュアンスやメッセージが香りのなかで含まれています。

ネガティブな匂いのコントロールもしている

良い香り以上にブランディングやデザインにおいて重要なのが、ネガティブな匂いのコントロールです。良い香りがするより、嫌な匂いがしないことのほうが断然重要です。
空間ならまだ意図できても、人間となるとなかなか難しいんです。なぜなら人はすぐに匂いになれる生き物だからです。

ラグジュアリーホテルや星のついたレストランのソムリエさんに口臭があることがたまにあります。話続けて口が乾きやすいのもありますし、また上位の方であれば、それを指摘するのが難しいからでしょう。

不快な匂いには、口臭や体臭の他に強すぎる人工の香りも含みます。香り付きの柔軟剤がよくテレビで宣伝されていますが、ラグジュアリーブランドにおいて人工だと思われやすい香りは、NGになります。なぜなら、ラグジュアリーブランドが伝えたいのは本物感。人工の香りが示すのは、偽物感です。

これはホテルに限らず、企業にしろ、パーソナルブランディングにしろ、重要なことです。匂いは指摘しづらいものなので、それを指摘し合える存在を作っておくと良いでしょう。

まとめ

ホテルに限らず、オフィスや自宅でも香りをデザインすることは可能です。その際は、単に好きな匂いを探して設置するだけでなく、「どのような空間にしたいのか」というコンセプトを一度、考えてから選ぶと、得られる知見がぐっと深く広くなります。というのも、他の場所を訪れたとき、そこでいい香りがしたとき、その意図を読み解く力になるからです。べつに読み解かなくったっていいのですが、発信者となる場面で、この知識や経験はぐっと使えるものになってきます。


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参照

※1:A Proposal for a Formal Definition of the Design Concept


※2:一流ホテルはいい香りがする!驚きのニオイ対策を全公開


※3:都内の憧れホテルの香りを自宅でも。オリジナルフレグランス特集


※4:ホテルの気になるアノ香り、教えます



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