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【小説】雷さまと本物のおヘソと偽物のおヘソと腹巻きパンツ

ピカッ

薄暗い部屋のカーテンのすき間からヨコちゃんは外を見た。

ゴロゴロゴロゴロ

「近くに雷が落ちたかもしれないね」

「えっ!? ちかくにいるの?」

ママに言われてヨコちゃんは驚いた。

「光ってから音が鳴るまで短かったから、たぶん近くに雷が落ちたと思うわ。でも、家の中にいれば大丈夫よ」

ママは不安そうにしているヨコちゃんを励まそうとした。

それでも、ヨコちゃんはカーテンのすき間から不安げに空を見つめている。

「お腹、痛いの?」

ヨコちゃんがお腹をさすっていることに気づいたママは、ヨコちゃんに聞いた。

「あのね、あのね」

「うん、どうしたの?」

「かみなりさまに おへそを とられたくないの。かみなりさまが『おへそを いっこ のこしてやる』って、まちがって ほんものの おへそを とっちゃって、にせものの おへそだけが のこるんじゃない?」

「本物のおヘソ? 偽物のおヘソ?」

ヨコちゃんは5歳のとき手術をして、おヘソの下にキズができた。そのキズは確かにおヘソに似ていた。

「ほんものの おへそが とられて、にせものの おへそだけになって、にせものの きずが なおったら、ヨコに おへそが なくなる」

ヨコちゃんのお腹にキズができたとき、お医者さんが『お腹のキズはどんどん小さくなるよ』と言ったことを、ヨコちゃんは覚えていたのだ。

「ママ どうしよう」

ヨコちゃんはとうとう泣き出してしまった。

「ちょっと待って。とりあえずお布団に入って、おヘソを隠そうか」

「うん」

ヨコちゃんはママに言われたようにお布団に入った。

すると、ママがヨコちゃんのパンツを2枚と裁縫道具を取り出した。

パンツをハサミでザクザク切って、もう一つのパンツと縫い合わせた。

「ヨコちゃん、こっちのパンツをはいてみて?」

ヨコちゃんはパジャマの下を脱ぎ、はいているパンツも脱いで、ママが縫った新しいパンツをはいた。

「どう? これだとおヘソが2つともすっぽり隠れるよ。寝ている間に、お布団を蹴飛ばしたり、パジャマがめくれても大丈夫」

ヨコちゃんはパジャマもはいた。上のパジャマをめくってみると、新しいパンツは、2枚のパンツが合体して、本物のおヘソより5㎝以上も上をすっぽり覆っていた。

それはまるでパンツと腹巻きが合体しているようにも見えた。

「はらまきぱんつだね」

ヨコちゃんは嬉しそうに言った。それでヨコちゃんは安心したようですぐに眠ってしまった。

それからしばらくは、雷が鳴ると腹巻きパンツをはいて寝るのがヨコちゃんの習慣になった。

いつしか腹巻きパンツをはかなくなる日がくるのだろうか。それは、お腹のキズが小さくなった頃なのか。それとも、サンタクロースと一緒で雷様が存在しないと知るようになってからなのか。

今日も腹巻きパンツでスースー気持ち良さそうに寝る我が子を見て、成長が楽しみでもあり、少し寂しくもあった。

『「#下着でプチハッピー」(2021年春)』の応募ストーリーです。

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