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重い足取りで出社する自分は、駅のホームに居合わせた会社員たちから羨望のまなざしで見られた|生のライブに日帰り参加する北限と南限

日本中で開催された生のライブによく出掛けていた頃は、自分の中で日帰りできるかどうかも、ライブ参加の重要な判断基準の一つでした。社畜体質なので、たとえ大好きなアイドルやアーティストでも、ライブの参加を理由に仕事を休みたくなかったのです。

東京・千葉・埼玉・神奈川は、日帰り余裕。

静岡・名古屋もまだまだ日帰り余裕。

大阪・金沢・福井は、ライブ終了時間と終電との闘いで、大阪の京セラドーム帰りは何度も『東京行きの本日の最終新幹線』に乗り遅れそうになりました。

意外なところでは、ライブ終了前にライブ会場を後にするなら、博多も日帰りできます。博多空港を利用すれば日帰りも余裕です。どうしてもライブ終了まで堪能したいなら、博多空港ではなく北九州空港に移動して、北九州空港前のホテルに一泊ならぬ数時間泊して、翌日の午前5時に出発して羽田に午前7時に着いてエクストリーム出社もありです。

(『エクストリーム出社』はコロナにより死語になってしまいましたね)

エクストリーム出社と言えば、北海道です。日をまたいでしまいますが、午前0時過ぎに羽田空港に着いて、そこからタクシーで帰ったり、ホテルやネットカフェに泊まって出社です。お金はかかりますが、どうしてもライブに参加したいならアリです。

上記はいずれも、ライブ終了の高揚感のまま飛び乗り、新幹線などでお酒を飲んで楽しい気持ちのまま帰るのが恒例ですが、一ヶ所だけそうはいかないところがありました。

それは、神戸です。

ライブ終了まで堪能すれば、東京行きの本日の最終新幹線にはとてもとても間に合いません。かと言って、30分から1時間も早くライブ会場を後にするのはつらいところです。

そこでよく利用していたのが、三ノ宮駅から乗れる寝台特急でした。

しかし、ライブ終了から約3時間も待つことになるのです。ライブの高揚感は完全に抜けきり、虚しさが襲ってきます。この寝台を使う同じライブ帰りの人がほとんどいないので尚更です。

午前0時前後、三ノ宮駅のホームで独りポツンと立って寝台特急を待ちます。
「自分はなにをやってるんだろう」
「こんな生き方で良かったんだろうか」
「はぁー、明日(今日)も仕事かー」
先ほどまでのライブの高揚感はどこへやら、ひさすら虚しさが自分をドヨドヨと覆い尽くします。

真っ黒な虚無感や眠気にすべて飲み込まれそうになりながら、なんとかその闘いに打ち勝って、ようやくホームに寝台列車が入ってきます。

気持ちが沈んだまはま、重い足取りで寝台特急に乗り込もうとしました。すると

「うわー、寝台だ!」
「寝台いい!」
「寝台、羨ましい!」
「東京まで行っちゃうんだ!」

同じホームにいた酔っぱらいの会社員風の男性たちから歓声が挙がりました。

彼らは一日中仕事をして、明日も朝早くから仕事です。

家族のため、自分のため、やりたくない仕事をしていることもあるでしょう。

これから満員の終電に立ったまま帰ります。家に帰ってすぐ寝ても、数時間には満員電車にこれまた立ったまま乗って出社です。

そう考えている目の前に、寝台が現れたのです。寝たまま目的地まで着きます。まさに夢の乗り物です。

疲れきった会社員風の人たちの羨望の眼差しの中、わたしは寝台特急に乗り込みました。

先ほどまでの虚無感はどこかに行き、少しだけ誇らしい気持ちになりました。

「自分は独りで寂しい人生なんかじゃなく、恵まれているんだ。自分で働いたお金で大好きなアイドルやアーティストのライブに参加して、明日から働ける職場があって、それでまた給料をいただいて、好きなライブに行ける」

寝台特急のドアが閉まり、ホームにいる会社員風の人たちが眺める中、東京へ向けて出発しました。

明日(今日)は、午前7時に上野駅に着いて、そのまま出社して一日中働きます。

でも、明日(今日)の労働を考えても、少しだけ立ち向かえそうな気がしてきました。

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