息子を勉強させようとしたら、自分が勉強していて、息子の成長に嬉しくなった話。
これは、成川献太氏の『#もさださ選手権』の応募ストーリーです。
「どんな結果になろうとも、頑張るよ。」
「応援しているわ。」
妻は気をつかっているようで、それ以上は話をせず、ベッドサイドに置いてある文庫本をとると、それを読み始めた。
* * *
そもそも、わたしが英検の勉強を始めたのは、今から2年前だった。
きっかけは、中学生になった一人息子があまり勉強をせず、定期テストで悪い点数と順位を取ったことだった。
正直、息子にとって初めての定期テスト前は、それなりに良い結果が出るんじゃないかと期待していた。
子どもが一人だったこともあり、妻も自分も子育てには熱心だったと思う。教育にも力を入れ、夫婦共働きの中、交代で本の読み聞かせをしたり、宿題にも付き合ったり、日曜日には博物館や科学館に連れて行き、長期の休みには自然がいっぱいの中で遊ばせた。
「一体、何がいけなかったのだろう。」
わたしは育児書を読んだり、友人や同僚に相談したり、 SNSで調べたりした。
「子は親の背中を見て、育つ。」
そう言えば、息子が小学校高学年くらいから仕事が大変になり、残業続きであまり家にはいなかった。読書をするのも、夫婦の寝室に入ってからだった。
「息子に、自分が勉強をしている姿を見せていなかったか。」
そこで、息子がいるリビングで読書をしてみたが、息子の反応はいまいちだった。
そんなとき、中学校のお知らせの中に、『英検』を見つけた。
「英検か。懐かしい。」
それはわたしにとって苦い思い出でもあった。
中学2年のとき、学年全体で英検4級を受けた。学校の成績が良い方だった自分はそれなりに自信があった。
しかし、結果は不合格。同級生のほとんどは合格していたこともあり、以来、英検が嫌いになり遠ざけていた。
大学生のときはTOEICでそれなりの点数を取り、会社の内定を得てからは、社内で英語があまり必要ではないことから、英語自体をずっと勉強していなかった。
「よし!リベンジするか!」
夕飯のとき、息子の前で英検を受検することを宣言した。
「父さんは、英検2級を取る!」
試験勉強はあえてリビングで行った。まずは、4級のひとつ前の5級からだ。
試験教室には、小学校低学年と思われる子どもたちもいる中、緊張してしまったが、レベルが中学1年生なこと、筆記試験とリスニングのみだったこともあり、一発で合格した。
次は、苦い思い出がある4級だ。これも、中学生のとき解けなかったのが不思議なくらい簡単に解けて、あっさり合格した。
英検3級。これは、二次試験の英会話にドキドキしたが、予想問題集から似た問題が出たこともあり、あっさり答えられて合格することができた。
ここまで約1年、息子もリビングで一緒に勉強するようになり、成績も上がってきていた。
英検準2級。一次も二次もギリギリの点数で合格し、急に壁が高くなってきたのを感じた。
英検2級一次試験。初めて一次試験で落ちた。英単語の量もグッと増え、リスニングもほとんど解らなかった。
英検2級一次試験、2回目。往復の通勤電車の中でも勉強をしたり、特に試験2週間前からは、日曜日に一日中、深夜や早朝も勉強をしたこともあり、何とか合格することができた。
ところが、二次試験の英会話である。今回ですでに2連続不合格になってしまった。次も不合格なら、また一次試験からやり直しである。そんなとき、息子が話しかけてきた。
「父さん、僕が試験官なるよ。」
息子は、わたしが言うのも何だが、小さいときから英会話教室に通ったり、洋楽を聴いて育ったので、英語の発音が良かった。
息子にいっぱい発音や言い回しのダメ出しをされながら、英会話の勉強をした。
息子の成績を上げるために英検の勉強を始めたのに、これじゃあ、どっちがどっちだか分からない。
英検2級二次試験の朝、英検2級に合格したい!今回で合格するぞ!と気合いを入れていたら、息子が、
「父さん、いつも通りでいいんだからね。」
と、声をかけてきた。
「うん、わかった。ありがとう。」
そう応えながら、当初の目的を達成していたことに気づいたのである。
【子は親の背中を見て、育つ。】
「じゃ、行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい。」
妻と息子に見送られながら、家を出た。今までの二次試験前と比べて、足取りも気持ちも軽くなっていた。
(これは、フィクションです。)
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