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おいしいカレーの作り方伝説

あなたは、『おいしいカレーの作り方伝説』を聞いたことがあるだろうか。

わたしがそれを初めて聞いたのは、大学浪人中に通っていた予備校でだった。

講師が、筆記試験の解答欄について説明していたとき、

「⚫⚫大学は、毎年定員割れをおこしていて、経費削減のために採点せずに受験者全員を合格させているから、受験番号だけ書いてれば合格します。教え子の一人は、試しに解答欄に『おいしいカレーの作り方』のみを書いて合格しました。」(注)

と、日本のFラン大学の入学試験の笑えない現状を話していた。

次に聞いたのは、大学に入学してから、数学の教授が解答欄について説明したとき、

「数学で証明するときは、『証明』と『証明終わり』と書いて、その間に証明することを書いてください。たとえば、
(証明)_____________
________________
________________
________________
________ (証明終わり)
の_部分に書いてください。それ以外の部分に書いたものは、“メモ”と見なします。メモは採点対象外です。」(注)

と説明した後、

「そう言えば、大学院時代の先輩は、余白に『おいしいカレーの作り方』を書いても、教授から単位をもらえた。」(注)

と言ってニヤリと笑った。その教授は、予備校も予備校講師のことも見下していたから、その予備校講師と友人知人だったとは思えない。

だから、『おいしいカレーの作り方』は、当時、予備校や大学界隈で出回っていた都市伝説みたいなものなのだろうと思った。

それから、数年して、別の大学で知り合った大学教授が、何の話の流れかも忘れてしまったが、

「……、『おいしいカレーの作り方』を書いてね。それでも、……。」

と言って、わたしに、

「こんなことを書いても合格するんだよ!どうだ!驚いたか⁉」

と言わんばかりにドヤ顔されたときは、

「その話、聞くの3回目です。」

とは、さすがに言えなかったが、薄い反応しかできなかったのは、わたしが大人になりきれていなかったせいだろうか。

しかし、なぜ、『カレー』なんだろう? 他の料理じゃダメなんだろうか。そこで考えてみた。

✅誰でも作り方を知っている
✅玉葱は飴色になるまで炒める
✅隠し味がある
✅日本国民でカレーが嫌いな人はほとんどいない

✅誰でも作り方を知っている

書き手は書きやすいし、読み手も取っつきやすい。

✅玉葱は飴色になるまで炒める

ド定番すぎるほどド定番なんだけど、これが書かれていると、書き手も読み手もホッとする。

✅隠し味がある

各家庭で入れている意外な隠し味は、書き手にとってはちょっとしたアピールになるし、少し飽き始めていた読み手にピリッと刺激を与える。

✅日本国民でカレーが嫌いな人はほとんどいない

読み手、ここでは、採点者に好感を持たれるかもしれない。

んん⁉ これって、何かに似てないか⁉

勧善懲悪もののドラマとその視聴者との関係と一緒ではないだろうか。

ハッピーエンドに通じるものが、『おいしいカレーの作り方』には込められているのだ。

そういう意味では、『おいしいカレーの作り方』はよく選び抜かれた好テーマなのだ。

ところで、わたしは誰かが書いた『おいしいカレーの作り方』をまだ読んだことがない。

一度くらいは、意外な場所でそのハッピーエンドを味わってみたいものだ

(注)大学や数学の先生によっては、余白や欄外に書いているものも、採点の対象とする場合があります。また、試験に関係ないことを書くと、減点や失格の対象になることもあります。気をつけましょう。

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