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別れは予告なしにやってくるから

昨日の夜、日付が変わりそうな時間。眠ろうと思って布団でゴロゴロしていたら「今電話できる?」と友人からメッセージがきた。心臓がドキドキした。何かあったんじゃないか、どうしたんだろう、そういう心配な気持ちばかりが芽生えて、「いいよ、どうしたの?」と返す前に、私から電話をかけていた。彼はサーフィンが大好きで毎週末、海へ行く。今日も例外でなく朝イチで波に乗ろうと思い、夜中車で海の近くへ向かい無事について駐車していた、という状況。そこまでの道中「不思議な体験をした。聞いて欲しい。」と言った。

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彼が何度も見る夢の一つに

「海へ向かう途中でいつも使っている田んぼ道で迷子になり、道を知ってそうな前を走っているホンダの黒のVESELについて行くと銚子方面に向かっていたところ、急に崖から落下する。車を崖の上へ持ち上げたふと空を見上げると星に埋め尽くされていて綺麗で幸せな気持ちで目が覚める」

というのがあるらしい。夢だから車を両腕で持ち上げるというあり得ないことが可能なんだけど、そこはひとまず置いておいて。何度もこの夢を見るから内容や状況をよく覚えていて彼が思うに、きっと崖から落下するシーン以降は、現実とは別世界にいるという感覚があり、つまり死を意識していて、でも夢だから気にしていなかった、らしい。


で、現実の話。

「海へ向かう途中、通い慣れている田んぼ道で迷子になった。そして目の前を走っていた車に暫くついて行ってると夢か現実か段々分からなくってきて、前の車をよく見たらホンダの黒のVESEL。不安になって車を停め、マップを確認したら銚子方向へ向かっていた。このままこの車についていったら『事故に遭って死ぬな』と直感し正規の道を探して、今無事に着いたんだ。死を回避できたと思うんだよね・」と彼は電話越しで言った。


それを聞いて私はとにかく泣いて泣いて。その涙は怖いオカルト話にではない。年の離れた両親の老後を考えるのとは意味が違って、同じ年の友人の死について考えたことなんて当然なかった。悔しいことに彼の話し方が上手いんだ、悔しいことに。だから簡単に頭の中でその情景を思い浮かべ、彼の死を想像した瞬間から怖くて悲しくてつらくて泣いた。

そして私が泣いていることに気がついて、彼も泣いた。怖かったんだと思う。生きていてくれて良かった。ただの思い込みかもしれない、こればかりは分からないことだけど、でも生きていくれて良かった。そう思わずにはいられなかったし、何なら不安で「サーフィン終わった後もきちんと気をつけて運転してね」と念を押しまっくった。

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彼とは学生からの長い付き合いで、今まで彼の前で泣いたことはないし、私も彼の涙を見たことはない。それがまさかこんな形で起きてしまうとは思っていなかった。それでも違う場所にいながら一緒に泣くという経験をして、「死」は私も彼もいつか必ず経験し必ずどちらかが残される、という恐怖を感じた。


「会いたい」その一言をいつも躊躇っていた。私の我儘なんじゃないか、相手の予定を考えないといけないから、その言葉が言えなかった。友人だからしょうがないと。でもいつか訪れる別れは予告なしにやってくる。引越しとか結婚とは違う別れは心の準備なんてさせてくれっこない。会いたい時に会いたいと言うことは我儘と決めつけてはいけない気がした。それは恋人友人家族、どの関係でも当てはまることで、私は泣いて鼻を啜る彼の声を聞いて無性に会って抱きしめたくなった。


不思議な経験の話を聞いて、眠れず朝方ようやく眠りにつけた私はさっき起きた。でも何だか心が落ち着かないでいる。だから文字に残してみたけど、浮ついたままだ。会いたいが募る。後で電話をしてみようと思う。彼が「話を聞いてほしい」と言うタイミングを逃さないで本当によかった。物理的には一人だけど、心を一人にさせないでいられてよかった。安い言葉だけど、心からそう思う。

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