見出し画像

素敵な恋をして自信がついたお話。

それは、まるで山間を流れる穏やかな小川のような人だった。

1年ぶりにこれは恋なんだ、と思える恋をした。今まで恋愛はそれなりにしてきた。それなりにお付き合いもした。
映画を観たり食事をしたり、なんてことないデートもたくさんしてきた。一緒に海外旅行へ行ったり、お家を借りて同棲をしてみたり、結婚を約束したこともあった。それなりに場数は踏んできたけど、全ての恋愛には食べ物の賞味期限のように必ず終わりがあった。
思い返せば「いい恋」と自信を持って言える恋愛は無いに等しかった。だって、ほとんどの恋愛が、喧嘩別れか、気持ちが他に移ってしまうかのどちらかで、最後は酷い別れ方を切り出してばかりだった。
だからと言って、いい恋をしていないと言うには、自分のこれまでの頑張りを否定するようで言いたくなかった。

そんな私が今回、初めて素敵だと思える恋をした。
これまでは、ジェットコースターのような恋愛が楽しいと思っていた。今回は、おだやかに、そして静かに始まったように思う。
初めて、自分に生まれてきた新鮮な感情を温めたくなった。初めて、気持ちを伝えたくなった。
溢れて出てきた感情を、素敵な時間を過ごせたことが嬉しくて、どうすれば無色透明なままこの気持ちを伝えられるのか自分の中で何度も想いを馳せた。
そして、その時が来た。
満を持して、とまではいかないが、この溢れる想いを伝えたくて、もうじき満ちていく月に目をやった。一度だけ小さく深呼吸して、涼しい夜風にあたりながら、精一杯、声を振り絞ってみた。生まれて初めて告白をした。

言えたのはあなたに惹かれている、それだけだった。けれど、それで充分だった。

嵐の前夜だった。雲の流れが速かった。それは、まるで時間が早送りされているような感覚に陥った。
それから私たちは夜の河川敷で、お互いの気持ちを伝え合った。
この時、わたしは初めて相手に「見返り」とか「期限」とか求めていない自分がいることに気づいた。

ふとその時、昔好きだった人が言った言葉を思い出した。
好きだったあの人は、「あなたのことが好きです。あー、やっと気持ちが伝えられた。もう僕はこれで満足だ。幸せです。」そう言って、とっても気持ちよさそうに、そして幸せそうに目を瞑っていた。彼の横顔は美しかった。
けれど、その当時の私は叶わない恋かもしれないのに気持ちを伝えて何が幸せなの?と疑問でしかなかった。
でも、昨日の夜、私はちょっとだけだけど、あの当時告白してくれた彼の気持ちがわかったような気がした。
好きな人に、素直に想いを伝えるってこんなに気持ちが満たされるんだと。私、素敵な人を好きになったんだと気づいた。どんな時だって、この人の笑顔を見たいと思った。

私に出来ることはひとつだけ。

傷心気味のあなたが、少しでも早く癒えますように。とペルセウズ座流星群に願うこと。
初めて観たペルセウス座流星群は、隕石のように赤く燃えてすぐに消えていった。

この人を好きになって良かった。
わたしは30年近く生きてきて、初めて素敵な恋をして、自分に自信がついた。
いつだって、私はなりたいものになれるし、これからもなっていくんだって思えたから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?