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『杉本博司 瑠璃の浄土』 感想

こんにちは、Shihoです。

前回書けなかった、京都市京セラ美術館で開催中の『杉本博司 瑠璃の浄土』の感想を書いていきます。これから行く人の参考になれば幸いです。

杉本博司とは

活動範囲が、写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理…などなど、マルチに活躍されている方です。

私は何かのきっかけで彼の有名な作品の一つである、「劇場」シリーズをネットで見たことがあって。これが頭に残っていたので、実際の作品を生で見れるチャンスとあり、今回の企画展へ足を運んでみることにしました。

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Franklin Park Theater, "Rashomon" 1950, Boston, 2015

ちなみに、図録の中で清水穣さんがこの作品を以下のように解説しています。

「劇場」は、映画という人間界の「嘘」が、その映画1本分の長時間露光で塗り重ねられることによって、「真っ白なスクリーン」へと自己消去・自己浄化していく作品である。(p154)

・・・そういうこと!解説を読んでやっとこの絵の見方の一つを得ることが出来ました。CGかと思った中央にある白いスクリーンは、リアルだったということにもびっくり。

ちなみに、写真の表題である”Rashomon”(羅生門)は、撮影する際に流していた映画のタイトルです。海外にある廃墟劇場にあの「羅生門」を上映させるセンスといったら。いやはや。


展示の仕方

コロナで美術館へ足を運び、実際に作品を見に足を運ぶことが出来なかったからか、作品が並べられているあの「空間」にえらく感動してしまいました。

展示会の魅力って、作品を実際に生で見るだけでなく、それがどのように展示されているか、そしてそれが全体を通してみるとどのような意図があるのかを考えさせられるところだと思います。いわゆる、展示会の構成。

この構成を見る感じは、私が大学生時代、英文学科で一つの文学作品を読み、卒論にあけくれていたあの期間に養われたと思います。その感覚を美術館での楽しみ方に応用できるようになったのは、恐らくボルタンスキーの企画展を見に行ったあたりから。


さて、今回の展示はどのような構成なのか。自分の好きなように解釈するのも楽しいですが、作者・杉本博司の意図に沿って考えていきたいと思います。

図録にそれに関する部分がありましたので、以下抜粋。

空間の内陣に極楽浄土を設け、その周りを東方浄土の瑠璃が囲み、さらに海の果てにあると言われる観音の補陀落浄土が光学硝子五輪塔に封印されて人々を黄泉の国にお迎えするという構成にした。人々はこの仮想浄土をこの世である穢土の側から見ることになる。(p75)

では、作品リストを参考にしながら、一つ一つ検証してみましょう。

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(入場するとタダでもらえるアレ。思い返すのに便利。)


空間の内陣

「空間の内陣」とは、作品リスト33〜50に当たる場所を指します。ここに展示されているのは、京都東山にあります蓮華法院三十三間堂の千手観音像を写した写真です。

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中央:仏の海(中尊) 1995 左下:極楽寺鉄灯籠 1601

極楽浄土を現したものとされる三十三間堂。壁一面に並べられた仏たちは、私が見たことの無い表情を見せていて、驚きました。京都にいた時に、実物を見に訪れたことがありますが、その時感じたものとは全く違うのです。

それもそのはず。普段私たちが見ることができない時間、早朝に撮影されたとのこと。そして撮影のために、周りにあった沢山の御供物を全て取り除き、純粋に仏像だけを写しているのです。

写真でしか表現できない、写真だからこそ伝わる、神聖な雰囲気に圧倒させられました。


東方浄土の瑠璃

「東方浄土の瑠璃」は、作品リスト55〜62、63〜68に当たると考えられます。

そもそも東方浄土とは?調べたところ、薬師如来の東方浄瑠璃浄土のことを指します。どうやら一般的にいう浄土とは、阿弥陀仏の極楽浄土(西方極楽浄土)のことを指すようですね。「南無阿弥陀仏」の、あの阿弥陀様です。

来世で救ってくれる阿弥陀仏とは異なり、現世で救いの手を伸ばしてくれるのが薬師如来。死んだ後に苦しみのない浄土へ連れて行ってくれるのか、生きてるうちに浄土へ連れて行ってくれるのか、その違いといえるでしょう。

さて、このエリアにはそんな東方浄瑠璃にまつわる作品が並んでいます。古いもので古墳時代の「硝子勾玉・首輪」「釧(腕輪)」から、杉本自身が作ったと思われる「瑠璃色硝子筒茶碗」まで。光に照らされて透き通る瑠璃色はとっても綺麗。

薬師如来が説かれている経典「薬師経」の中で、瑠璃は高貴なものとあり、その輝きは人々を救いに導くと書かれています。それだけでなく、病気などを直す薬としての力を持つとも。


観音の補陀落浄土

「海の果てにあると言われる観音の補陀落浄土」を封印した「光学硝子五輪塔」は、作品リストの1〜13に当たります。

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Five Elements 389, Boden Sea, Uttwill, 1993/2011

(どのような作品か示すために写真を引用しています。残念ながらこの作品は、今回展示されていませんが、別の海の写真を閉じ込めたものが展示されています。)

さて、また浄土が出てきましたね。補陀落浄土(ふだらくじょうど)。観音様の浄土として崇拝されている山です。インドの南海岸にある山と言われています。その昔、日本人はそこを目指して一人、船で渡海したとか。(補陀落渡海)

その海を閉じ込めたかのような作品。一見全て同じように見える13個の塔ですが、そこには全て異なる海を見ることが出来ます。

これがズラっと、まるで灯籠のように並べられているわけです。「黄泉の国にお迎えする」とあるように、順路通りここを通ると、気持ちを改めさせられているような気持ちになりました。


仮想浄土

阿弥陀仏の極楽浄土、薬師如来の東方浄土、そして観音の補陀落浄土。なんと三つの浄土があの空間には存在していたのです。それを穢土(えど)に住む私たちが見ている、という構成。

死後の世界を、私たち先祖はどのように考えていたかが垣間見れます。そこには千手観音が待っているのか。瑠璃色の世界が待っているのか。海を超えた先にある世界なのか。

今月頭に祖母を亡くしたからでしょうか、やけに色々考えてしまいました。いずれにしても、苦しまずに、そこで笑っていてくれればいいなと思う次第です。



『杉本博司 瑠璃の浄土』 は10月4日(日)までやっています。
是非、足を運んでみてください。


今日はここまで。


参考にしたサイト








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