見出し画像

ホットなアレルギー

「お誕生日おめでとう!!」
「おめでとう!!」
「え~と」
何歳だっけ?と言いかけたトリテラは微妙に言葉を選びながら、咄嗟に彼女の年齢を西暦で計算しはじめた。彼女が何年に生まれたのかさえ忘れてしまっていて、思いだすまで数分。その間にルティが「〇〇歳だねぇ、早いねぇ」と言い彼女も「そうだよ~、みんなもそうなるよ~」と言い、彼女の年齢を当てれなかったトリテラは苦笑った。
トリテラはまるで彼女の年齢を初めて聞いたかのように、「まぁ今年も、まぁね」と一緒に長生きしようと言いたかったが、言うのをためらい意味不明な言葉を贈ることになった。同時に頑張れとも言いたかったが、自分がまず頑張らねばとよぎったので言いたい事がある、でも言えないという謎の沈黙。でもこういうのは日常茶飯事で、逆に今日はみんなおしゃべりなくらいだった。
「さぁ、食べよ~」ルティは待ちきれない様子だった。
4等分にカットしたホールケーキ、結構な大きさだとトリケラはくゆらした紅茶ポットを高い位置からカップへ注いだ。
「こうすると茶葉が活性化して美味しくなるんだって。」
「へぇ~」
もうこのあたりから、彼女のお誕生日感はどこかへ行って、いつもの食後のドルチェタイムに戻った。
あまりに高いところから注ぎ入れたので気を付けていても自然に、テーブルに紅茶のしぶきが飛び散った。いつもなら、爆笑するところが今日はなぜか彼女達は何も言わなかったし、トリテラもスルーしようと思った。景色がどんよりしている。寝不足かと思ったが、カップの鮮やかな紅茶色を神妙にながめた。「着色料とか入ってないよね?」「まさか~」彼女とルティは時々当然当たり前な話題をあえてすることがあった。ハイビスカスティ―かもね、なんて思ったがトリテラは会話に乗り遅れた気がしたのでスルーした。トリテラが何か言いたそうだったので、二人はしばらくトリテラを笑顔で眺めながら無言でいたが、トリテラがもう何も言わないのを察知してその場は和んだ。
ケーキ皿、フォーク、カップが二人それぞれの前にこじんまりと並んだ。
さあ食べようというその時だった。
「顔真っ赤やん!!」ルティは彼女とトリテラをみて満面の笑顔で言った。
「え!!そう言えば!!」
彼女とトリテラはお互いの顔がほてっていることに気付いてまじまじと見つめ合った。トリテラは彼女の色の白さに今更ながら気付く。かといってどちらもハンドミラーをもってくることはしなかった。「そう言えば、なんかくらくらすると思ってたんだよね。」「酔っぱらった?」一瞬沈黙が広がったその時だった。「ビール!!」彼女は思いだしたように言った。「でも、ノンアルコールだったよ」トリテラはまさかという感じだった。
二人の赤ら顔の原因はノンアルコールビールだった。ルティだけが違うと言った。「アルコール成分1%未満はノンアルコールビールで販売されているけど、日本の大手ビールメーカーのノンアルコールビールについてはすべて0%だよ。外国のメーカーだとアルコール成分0/5%、メーカーによっては0.9%というのもあるけどね。」「でも実際に赤いし、クラクラするよ。」トリテラはノンアルコールビールを飲んだことを後悔した、というのは、以前にノンアルコールカクテルを飲んでも同じ様にクラクラして、その日1日がつぶれてしまったからだった。午後からはこんな風にアルコールが抜けるまで度四としているんだろう、そう思った。
ルティは赤ら顔になった原因について、ビールの缶を見たからじゃないかと言ったし、思い込みだとも言った。「半分ずつ飲んだのにもうアルコールがまわってるよ」トリテラはしんどくさえなってきた。「もし車運転するなんてことになったら?」「多分、出来ないんじゃないかな」彼女には申し訳ないと思いつつもトリテラはそう言った。「もし何本も飲んだら危険だよね」「飲酒レベルになる人もいると思う、絶対危ないって!!」トリテラと彼女はノンアルコールビールだからと言って、飲み過ぎたお酒に弱い人が運転をしてしまった時のことまで語り合い、それは危険だと大盛り上がりしていた。結局、ノンアルコールビールはお酒が弱い人に飲ませるべきではないとなり、それをメーカーも順守すべきだの結論になったが、それを遮るように、ルティは「まさか!!そんな人おらんて!!」と言ったのでその話はそれで終わった。

トリテラはノンアルコールビールも飲まないぞと誰にも言わなかったが、飲まない脳内リストにそっと書き込むのだった。
また1品増えたが、ノンアルコールビールがそうだとは意外だった、嬉しいような悲しいような。以前はまたかという感じだったが、増えるにつれて自己発見リスト的なものにさえなって行った。今では仕方がないから新種の生物でもみつけたような、そんな気さえなる錯覚を覚えるくらいだ。


そうでもしなければ摂取できない、摂取したくない、摂取したいけど摂取できないの折り合いがつかずに摂取出来ない部分だけがアレルギーメニューとともに残り、こんなのも毛嫌うのか食べれない飲めないの自分?的に責める感が残ってしまうからというのもある。さらには、頑なに拒否する自分に対し、食の楽しみを半分失っているとか、ややこしいななどつぶやかれると気が気でなくなる自分もいたりしたからだった。

色々説明する?色々説明する、あれもこれもダメなんだと。じゃあ、何なら食べられる?尋問調の質問。一方、これはダメ、あれはダメだなんて、今この地点では、はっきりとわからんやんけーこれからも新しいの出てくるかもしれないじゃーんと自分なりにこれからもあるかもしれないの暗雲が立ち込めるので、これとこれはあかんけど、あれとあれなら大丈夫と黒白ハッキリさせて伝えることもできずじまいなことが多い。「何やったら食べられるん?」「何って、そもそも添加物アレルギーだし、砂糖特に白砂糖アレルギーだし、かんすいとか小麦粉とかも、あ、でも食べれるのもあるんよ。」まるで、ミルクボーイの漫才のように延々とあれはダメ、でもそのダメをこうしたら食べれるなど、相手にとれば結構どうでもいいことまで伝えなければならない局面もでてくる。そして、そんな時こそ相手のイライラは絶頂に達するらしい。そう、相手も何とか食べれる共通項を探して、それなら大丈夫なんだねってだけ、本当は言って安心したいんだろう。
そんなこともあったりで色々悩んだ挙句、食べれない飲めないんですラッキーと思うようにすること、そして、お相手様へは食べることができないじゃなく、嫌いッと言うことでだから食べないと暗黙の了解を得ることにする。子供だったら怒られちゃうかもしれなかっただろう。いや、子供でもそんな子供じみた、食べ物を好き嫌いで表現することなんてしないだろう、今時。だから、大人だから敢えて幼児言葉を言ってのけることで、相手に幼稚過ぎる印象を、自分の印象をより悪くするかもしれないのに、与えることで、アレルギー話をそれ以上膨らませないように、視点を超幼稚な嫌いって言葉使ってる君はさ、そんなこと言ってどうよ的新たな視点へ移すことも意図していた。しかし、未だに一度も使ったこと、使う機会はない。出来ればそんな前提をとっぱらって、実はね、アレルギーってのはさと、長々と知らない人にへぇ~バナ(話)として聞いてもらえたらという願望も無いでもなかった。
ふと2~3歳児が嫌い好きで片づけることについて、好き嫌いを言うもんじゃないと言っているのを目撃しつつ、そうだな~と思っていたこともあったが、今思うと、嫌い好きにはかなり相当の理由がある様な気がしたので、もし、嫌いとかいう場合であっても、何での部分をきちんと聞いてあげなきゃいけないなと大正のおっさんからの脱却を考えたりもした。昭和のおっさんは大正のおっさんからかなり影響を受けている。よく昔はなぁの話を聞いたもんだ。大正時代のおっさんおばさん。あれ、そう言えば、おっさんに対しておばはんと言わないな、おっさんと言えばおばさんが似合う気がした。おばはんだと、おばさんに対して攻撃度が強すぎる気がした。大正時代のおっさん。そんなに食事作法について子供が怖いって思うくらい厳しかったの?おじいさんから、子供時代にどれだけ座卓の食卓が窮屈なものだったかの苦痛自慢をよく聞いていたからでもある。そういう自分も昭和のおばさんだった、なぜか令和生まれだと思うことがよくある。どうかしているんだろう。逆に聞く人に不愉快感を与えるかもしれない、でもやっぱり、あんま好きじゃないとか、嫌いとかで済ますようにしようと思った。もっと素敵な、好き嫌いを聞かせるよりもアレルギー体質の人の見方さえ変えるような、何か相手を和ませる別のたとえもあるだろうに。
いつか考えよう、そう思った、自分のアレルギーの話題時の上手い言い方について考えている暇なんてなかった。数年に何度か遭遇する程度の会話のためだけに1日を無駄にしてしまうのが勿体ない気がした、というか、思いつかなかった。小さな小さなカマキリくらいの小人になって、深めのパスタ鍋に潜って出てきた気持ちになった。食べ物に関する好き嫌いは、入り口であり、出口、蓋であり底であるそんな意味不明なことだけが浮かび、また振り出しに戻った気分になった。
彼女はどうするんだろう?頬、赤かったよな~、やっぱもう飲まない?ふと気になる。早くケーキ、食べたかったので切り上げた。鋭角からフォークカットするか、生クリームたくさんの背後からフォークカットするか。迷う。貴重なケーキ、どうすればたっぷり食べた感が得られるか、一口でも食べれそうだけれど、量を増やす食べ方をするのはいつものことだった。最近知ったのが、最初に生クリームを食べること。飽和感がある。紅茶を先に飲もうとした。二人のケーキ皿はもう一口分の🍰しか残してい無かったし、見事に倒れていた。トリテラは途中でケーキが倒れてしまうのも嫌だった。一度彼女がホールから分けた時のこと、見事に倒れた。起き上がりこぶしのように立て直したのを見て彼女は拍手喝采を送った。生クリームいっぱいのスポンジ部分、カットケーキの3分の1くらいをくれたことも。「え、何で~!?嬉しいけど。」「ケーキ、好きなんでしょ。」トリテラのケーキへのめざとさは彼女には特にバレバレだ。彼女のためにステーキを3分の1あげれるだろうか?ふとそんなちっぽけな自分を垣間見た。
「ノンアルコールビールまた買おうよ」ルティに彼女はそう言った。どうやらノンアルコールビールでも酔えることに楽しみをみつけたらしい。そう彼女は赤ら顔にはなるものの、トリテラのように、それから後の頭痛やだるさみたいなものはなかったようだ。その辺りがアレルギー体質との違いかなとも思った。そもそもノンアルコールビールを飲みたいと言い出したのはトリテラだったし、彼女は普段ノンアルでないビールを飲むのも思いだした。
出がらしの茶葉の上にお湯を注ぐとけっこう鮮やかな紅茶色が蘇った。それをコップに注ぐトリテラをみて、ルティはまずそうと言い、彼女は新しい茶葉を入れなおしたら?と心配そうに言った。彼女については、時々二番煎じのコーヒーなんかも、トリテラが注ぐ時に一緒に飲んだりしていたのだが、今日はノンアルコールビールで酔っ払っているからなのか、トリテラの二番煎じへのお誘いは断られたようだった。
ルティはお誕生日くらい2杯目の紅茶を飲んでもいいのにと思っていた。節約に没頭しているトリテラのお点前を恨めしそうに目のやり場がないとでもいう様に魂の抜け殻のような目で見つめ、それを見て彼女は思い出し笑いのように吹き出したが、知らんふりをしてトリテラは紅茶をカップに高いところからまた注いでみたが、1回目の様な新鮮味はもうそこにはなかった。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?