『恋煮込み愛つゆだく大盛り』−vol.06 4月のマンガ・リハビリ・エクササイズ

最近マンガ読まなくなったけど、月に5冊マンガを買ってリハビリしようというお話。2019年4月購入した下記の5冊のなかで今回は一番好きだった、というかここ最近読んだマンガの中でもとびきり好きになった『恋煮込み愛つゆだく大盛り』について書きたい。


にくまん子『恋煮込み愛つゆだく大盛り』
KADOKAWA/ビームコミック

麻生羽呂・高田康太郎『ゾン100』1巻
小学舘/サンデーGX

河部真道『Killer Ape』1巻
講談社/モーニング

石黒正数『天国大魔境』2巻
講談社/アフタヌーン

水口尚樹『早乙女選手、ひたかくす』1巻
小学舘/ビックコミックス

『恋煮込み愛つゆだく大盛り』、最初にこのマンガのことを知ったのはツイッター。作者のにくまん子さんが収録作品のひとつ「いつもはなつにおわる」を公開していて、読んで衝撃を受けた。彼氏ができた女の子が、セフレの家に置いてあった荷物をまとめて、スーツケースを持って出て行く日を描いた作品。この作品は、ツイッターで公開されてるだけあってわりとコンパクトにこの単行本の面白いところを詰め込んだ良作で色々語りたいこともあるんだけど、ここでは僕が一番好きだった「よよの渦」について書く。これが凄まじく良い。

大学生のよよ(女)とシロちゃん(男)の掛け合いで進む連作マンガで、わりとラフな絵柄で描かれていく。とにかく目を引くのがまるでマスコットみたいな見た目で落書きのように描かれた少女よよの姿。シロちゃんはくりかえし「こいつは抱けない」と思うし、よよはよよでシロちゃんに対してどぎつい下ネタを言ったり恋愛相談を持ちかけたりなど、男女の友情ってありえるんすね、みたいな関係性が描かれる。



こっからネタバレになるんだけども



このマンガが圧倒的なのは「友達から異性に変わる瞬間」を描くうまさだ。友達なのか異性なのか、その揺らぎに呼応するように、落書きマスコットのよよの姿が徐々に人間味を帯びて描かれていく。

「落書きのような絵柄」と「書き込まれた綺麗な絵柄」は、本来は一作に同居することのないタッチだろう。けれど会話の面白さと連作という小気味良い進み方によって見事に一作に違和感なくまとまっている。あるいは、可愛らしいマスコットから綺麗な少女へと絵柄が変化していくにも関わらず、よよの頭から外れることのないキャラ耳が、そのまま友達なのか異性なのかわからない違和感として巧みに機能する。そして、シロちゃんの中で決定的な出来事が起こった末に、よよのマスコットとしての象徴であったキャラ耳が描かれなくなる。そこで異性としてのよよが完成する。そして感情が爆発し物語は結ばれる。この演出がめちゃくちゃ良い。

さらにこのマンガ(この単行本)の素晴らしいところは、登場する男女どちらの物語としてもきちんと描かれている点にある。「シロちゃんが次第に異性としてよよを見るようになりました」という側面を中心に上では書いたのだけれど、このマンガは同時に、よよが恋をすることで綺麗になっていく物語でもある。つまり、よよの絵柄の変化は、シロちゃん目線の「友達か異性か」という揺らぎであると同時に、人を好きになって恋愛のステップを着実に進んでいくよよが次第に綺麗になっていく姿そのものを表している。最後のほうで、唯一二人ともが書き込まれた絵柄で登場するページがある。ここで二人の絵柄(目線)が初めて等身大の同じ高さになり、心情がぶつかりあう。このページが圧倒的に美しく、そして切ない。

男女両サイドの物語であるということは一番最初に紹介した「いつもはなつにおわる」も同じで、にくまん子さんの作品が共感でもってたくさんの人に楽しまれているのは、このことが一因なのではないのかとも思う。

ちょっと最後に話が大きくなってしまったんだけれども、よよとシロちゃん二人の変化がストーリーと絵柄の両面から見事に描かれる「よよの渦」には、マンガの可能性だとか面白さを改めて感じさせられた。人におすすめしまくりたい名作だ。

今回はこんなかんじで、主に「よよの渦」について書いたけれど、この単行本の作品はどれも素晴らしかった。自分のなかでまだうまく咀嚼できていないんだけれども、収録されている作品は「ありふれていそうなんだけれどどこかいびつなセックス」が軸となり、その前後が物語られている。そのいびつさが、読者それぞれが自分という物語のなかで抱えている小さな違和感だったり思い出だったりを呼び起こすからこそ、かえって共感を呼ぶのかもしれない。