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小野寺伝助『くそみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』【烽火書房で取り扱いする本】

京都市にあるBut not for me内に間借りで運営している本屋・烽火書房で取り扱っている本を紹介していきます。


小野寺伝助
『くそみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』

レビュー、感想、批評。ぼくはこうしたものがとても好きだ。とくに、物語があるものにたいして、受け取り手が応答するかたちで発する言葉が好きだ。高校生のころなんかは夏休みの宿題で読書感想文があったりするわけだが、とても面白い女友達がいて、彼女の読書感想文は先生にも高く評価されており、「●●さんの読書感想文は、そのもの自体が彼女らしい世界観をつくりだしている」とコメントをされていた。

ぼくが思う「作品への応答」の価値は、以下の三つがある。
①対象となっている作品を、読みたいと未読の人に思わせる
②対象となっている作品の、面白さを既読の人に改めて気づかせる
③応答そのものが読み応えがあり、ひとつの作品と呼べうる
彼女の読書感想分は③の点で優れていたということだ。

今回紹介するのは冒頭の通り、小野寺伝助さんによる『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』なのだが、どれが当てはまるかといえば、①②③全てだろう。


本書はパンク的な視点から書籍を読みとこうとしていて、パンクとは何かを著者なりに分析する序章を踏まえた上で、「はみ出す」「NO WAR」「破壊と構築」などの切り口から書籍を紹介してくれる。

もともと、ライブハウスのフリーペーパーで連載していたコラムのようで

「パンク的な書物を通じてパンクを考える」(同書より)

という順序であったことからも、この本が③の魅力を備えていることがなんとなく想像できるかもしれない。

同書はおよそ30冊の書籍についてのコラムで構成されているが、通読していくことでぼくたちは、パンクとはなにかを知ることができてその価値観に共感していく③、それを通じて知らなかった本の面白さがなんとなくわかるし①、すでに読み終わった本がなぜ面白かったのかがこれまで考えたことのなかった切り口から言語化されていく②。

この本で選ばれている本は面白い本が多い。しかし、逆にいえば「パンクである」という価値観が、実は現代に欠かせない共感を呼ぶ視点であり、それを見事に分析し言語化していく著者の力に、選ばれた本の面白さを確信させられてしまうとも言えるだろう。