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表情作りの話 第三話~表示規則~

「コミュニケーション・トレーナー」の荒木シゲルです。
前回紹介した「万国共通の表情」は、特定の感情(幸福、怒り、悲しみ、驚き、恐怖、嫌悪、軽蔑)は世界中どこの人でも同じ表情をするという意味です。でも実際は世界中の人が同じ表情で会話しているわけではありません。国籍や文化などによってやっぱり人の作る表情の印象って違いますよね。
「万国共通」と言いつつ、実は忘れてはならない条件があるのです。とても重要なポイントなので、今回はそのことについて書きたいと思います!

表示規則について

ちょっと二枚舌というか矛盾して聞こえるかもしれません。
「万国共通の7つの表情」があるのであれば、世界中の人が同じ表情で会話していなければおかしいはずです。でも西洋の人は表情が豊かだったり、アジア人、特に島国の日本人は表情が乏しかったりと国や地域によって傾向があるのも確かです。または同じ日本人でも内気な人、外交的な人で表情は違いますし、一緒にいる相手にも左右されるかもしれません。
特定の感情に紐づけされている表情はあくまで「万国共通」なのですが、これはあくまで「本能」の話です。普段私たちは本能の赴くままに生きているわけではないですよね。社会のルールに則って、自分の発言や行動をコントロールして生活しています。表情も一緒で、どういう状況でどのような表情をするのか(またはしないのか)は、常識とかしきたりといった暗黙のルールに従っているわけです。このルールを「表示規則」と言います。
例えば大切な人が亡くなったときのお葬式で、とても悲しい気持ちだったとしたら、泣き崩れたり悲しみをあらわにするのが自然な反応であるはずです。でも状況にもよると思いますが、周囲の目を気にして毅然と振る舞ったり、「自分は心配ない」という態度をとるのではないでしょうか。
このように私たちは人前で感情や表情を常識の範囲内でコントロールする傾向があります。文化、国や地域、宗教などによってその「常識」つまり「表示規則」は異なります。

表示規則の発見

「表示規則」は表情の調査をしているときに発見されました。
実験で表情を観察するときには、小さい部屋で特定の感情を呼び起こすような動画を被験者に見てもらいます。例えば「恐怖の表情」を観察するためにホラー映画やグロテスクな動画を流すのです。通常、それを被験者一人で観てもらい、様子をビデオに収めるなどして観察します。
このような実験をすることで「万国共通の表情」を観察することができます。ただし、部屋で被験者が一人で動画を見るときと実験者など第三者が同席しているときとでは、アメリカ人と日本人で作られる表情に違いが現れたのです。アメリカ人は第三者が居る居ないに関わらず作られる表情にあまり違いはありませんでした。一方日本人は一人のときはアメリカ人と変わらない表情を作りましたが、第三者が居ると顔を隠したり笑ってごまかすような反応を示したのです。
この状況、想像してみると確かにそうかもしれません。誰かが一緒にいるときには、照れたり客観的な意識が働いてしまいます。その結果もともと感じた感情に加えて「表示規則」の影響を受けて表情を作ってしまうのです。
図で表すとこんな感じ。

刺激から表情ができるメカニズム

「集団主義」と「個人主義」の違い

日本は一般的に集団の和を重んじる「集団主義」の国家だと言われています。一方アメリカをはじめとする西洋の国々は個人の自由を尊重する「個人主義」の文化です。
「集団主義」の文化圏では、周囲を心配させたり迷惑をかけるような行動は敬遠される傾向があり、「個人主義」の文化圏ではしっかり自分の気持ちを周囲に伝えることが常識で美徳とされます。だから「集団主義」の文化圏ではネガティブな表情は笑顔でごまかしたり、控え目に作ったり、隠そうとします。一方「個人主義」の地域では正直に感情を表情に表そうとする傾向があります。
ちなみに各国の「集団主義」「個人主義」の度合いはオランダ人社会心理学者のホフステードという人が調査していて、アメリカ、オーストラリア、イギリスは「個人主義」が強い国々だということです。意外なことに日本は総合的に見て「集団主義」と「個人主義」のちょうど間くらいに位置しています。中国や東南アジアの国々やロシア、トルコ、メキシコなどは日本よりも「集団主義」の傾向が強いのだそうです。もしご興味があったら「ホフステードの国民文化6次元モデル」で検索してみてください。
こういった文化の違いは日常で作る表情に大きく影響を与えるため「万国共通の表情」は、第三者が居ない状況つまり一人でいるときしか成立しないことになります。
若干理屈をこねてるというか、騙されたような気分になりますよね…私は最初そう感じました。
ただし逆の言い方をすると「万国共通の表情」の存在は「表示規則」のような文化的な特徴を捉える上で役立ちますし、常に日常のコミュニケーションの基準となっていることは確かです。

「無意識で作られる表情」と「意識的に作る表情」

人が作る表情は、概ね「無意識で作られる表情」「意識的に作る表情」に分けられます。「万国共通の表情」「無意識で作られる表情」に含まれます。
道路を歩いているときに突然目の前で事故を目撃したら、周りに誰か居ても咄嗟に思わず「驚きの表情」を作ってしまうでしょう。それは無意識の行動です。一方、小さい子どもが自慢げにどんぐり拾ったと言って見せてくれたら、意識的に「驚きの表情」を作って「すごいね!」などと答えてあげるかもしれません。
または本当は楽しくないのに接客するときに笑顔を作ったり、人前でプレゼンするときに緊張していてもそれを見せないようにコントロールすることがあります。
このように「意識的」に表情を作るときであっても、常に「無意識」で作られる表情を参考に真似るわけで、だからこそお互いに共感できたり意思の疎通ができるわけです。コミュニケーションて面白いですよね。

微表情について

「無意識で作られる表情」には、ここでは触れていませんが「微表情」と呼ばれるものも含まれます。これは、意識的に表情を作っているときにふとした瞬間に現れてしまう本心の表情です。ほんの一瞬、0.5秒程度だけ現れる表情なので会話していても普通は見逃してしまいます。微表情の研究や分析は日本ではさほど盛んではありませんが、犯罪捜査カウンセリングなどの現場で応用されているようです。

おわりに

ところでこの記事をご覧になってFACS表情分析について興味をもって頂けたら、是非株式会社空気を読むを科学する研究所(空気研)」が主催するセミナーをチェックしてみてください。代表の清水建二さんは国内外における表情分析・研究の第一人者です。私も空気研のセミナーに参加して表情について多くを教えて頂き、FACS認定コーダーの資格を取得しました。清水さんは何冊も本を書かれているので、そちらをチェックして頂くも良いと思います。
今回はちょっとお勉強ちっくな内容になりましたので、次回はいろいろな表情に注目して書いてみたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!

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