何が大切かって言ったらまず福祉

今まで、経済政策が大事だと言われなかったことはないし、政治の議論で経済政策が重視されなかったことはありません。

国民は政治に経済政策を期待してきましたし、どの政権もどの政党も経済をなんとかしたいと考え、経済政策を作り、経済政策をアピールしてきました。それなのに経済がよくなっていないのはなぜかと考えたとき、今まで「それもいいけどその前にまずは経済でしょ」と言われてきたものをむしろ経済の中心に、そして国の中心に据える必要があるのではなかったか、と思います。

何が必要かと言えばまず福祉です。

少し前なら何を言っているんだと思われていたかもしれませんが、今ははっきりと見えてきているのではないでしょうか。

野党は、「いやいや私たちも経済のこと考えててですね」と言うよりも、「福祉国家で何が悪い。そのために税金払ってるんだ。政府が医療と福祉に使う金をケチってきた結果いまどうなってる?俺たちは福祉国家を目指すぞよろしく!」ぐらいでいいんじゃないですか?

さらに言えばその方が経済にもプラスに働きます。「政治家」の「経済政策」や「景気対策」で国の経済や生活を良くできるなどというのはとんでもない思い上がりです。

新型感染症の猛威が何を意味するか。それは従来のやり方で消費を刺激しようとか利権中心の公共事業を増やそうというのはもうほとんど効果がないということです。せいぜい財政と環境を破壊し、地域をますます衰退させるのが関の山です。

政府や政治の役割は、企業や働く人の代わりに経済を動かしてあげることではありません。働く人を守り、生活と安全を支え、無数の企業が活動できる環境を整えることです。「福祉国家は任せろ。経済はあなたたちの肩にかかっている」のだと。

例えば、情報通信をライフラインだと考えて通信インフラの容量とネットワークを拡充し、端末と通信サービスを廉価や無料で普及させる福祉政策は、教育の機会と雇用の機会と健康を守るのと同時に、これからの経済の基盤になります。2000年代は高速道路無料化でしたが、2020年代は高速通信無料化がイシューになります。これは人権、社会権、教育権であり経済政策でもあります。

保育や子育てへの支援が多様で充実していれば、より多くの人が仕事や自分の専門分野で力を発揮しやすくなります。

医療にお金を使う福祉政策は、人の命を守り、病気の悪化を防いで健康を保ちます。また投資やビジネスに携わる人も、医療体制が整っている場所を選ぶでしょう。企業の拠点選びや都市の競争力、貿易や取引、観光やインバウンド需要、移住や起業の場所選びでも、医療や保健、衛生、安全が重視されるようになります。福祉は経済の足を引っ張るどころか、経済力の前提条件になるでしょう。

いざというときの生活保障として、一括簡潔な給付と補償に加えてそれぞれの人の抱えている問題に沿った支援策が幅広くある福祉国家は、人の生存や生活を守るのと同時に、貧困や転落から抜け出せなくなる人を減らし、不況からの回復力を高めます。また、社会保障によって生活や生計の破綻を免れ立ち直った無数の小さな事業者や会社、工場、お店や個人は、この国の隅々を豊かにしていく役割を担います。

テレワーク(在宅勤務)のしやすい住宅を手ごろな価格で供給する福祉政策によって、人の健康と生活を守るのと同時に、感染症や災害などで通勤が難しい時にも事業と経済を回せるようになります。それはバブルや街並み破壊に頼らない不動産や都市開発の投資先になりますし、テレワークができれば時間と場所の自由度が高まるので、新しい事業や企画が生まれるきっかけとなり、産業政策としての波及効果も大きいのです。家を仕事場にする人、会社以外の場所で混雑を避けて仕事をしたいと考えている人がどんなモノやサービスを求めるかを考え尽くしていけば、波及効果はさらに大きくなるでしょう。

老後の生活に格差が大きく、大半の人が困窮した暮らしを強いられる国では、自分自身は仕方ないと諦めても、結婚をしたり子どもを産もうとはなりにくいでしょう。老後の生活費や介護をすべて自分や家族でなんとかしなければいけないとなれば、個人消費を伸ばすどころではなく、働く時間も、子どもを育てる時間とお金もなくなってしまいます。老後の生活の保障と介護サービス(介護の仕事をしてくれる人の待遇の改善も含む)は、次の世代を育てること、現役世代の所得における分厚い中間層を復活させることとつながっています。

経済的な衰えを避けたいのなら、なおさら人の一生の最初から最後まで福祉国家を必要とするのです。

福祉の欠落が経済を衰退させ、生活を苦しくしているということに目を向けてみましょう。福祉を伸ばすことで経済を伸ばし、生活をゆとりのあるものにできます。国全体で分担することが強い国を作ります。

福祉があると福祉に頼って自立しなくなるんじゃないか、経済活動をしなくなるんじゃないかと言う人がいますが、私が信じていることはこの逆です。この日本で暮らしている人は、自分の脚で立てるときは自分の脚で立ちたい、自分の脚で歩けるときは自分の脚で歩けるところまで歩きたい、自分の脚で走れる時は自分の脚で走れるところまで走ってみたいという人がほとんどだからです。

福祉は自立と経済を妨げるのではなく、福祉がまともに機能するほど、人間の自立が促され、事業、経済活動が盛んになるのだと思います。

なぜマラソンに給水所があるのですか。なぜ山登りに休憩があるのですか。ずっと水を飲んでいるためですか。ずっと休んでいるためですか。水を飲むからさらに走れるようになる。休養するからさらに登れるようになります。

ただし、これ以上走ったら危なそうな人は救護所に連れていく、これ以上登ったら危なそうな人はサポートをつけて下山してもらう。これもまた当然のことです。

福祉と人間の自立、活動、経済の関係はこのようなものです。

「福祉国家」と「市場経済」と「地域社会」。この三つが支え合って初めて、国も人も生き延びられるのです。

私たちの日本の三つの柱は福祉国家と市場経済と地域社会です。

もう一度言いましょう。経済はあなたの肩にかかっています。だから福祉国家があなたを支えるのだと。

ようこそ、福祉国家日本へ。


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